なんでもマルチメディア(130)ロシアのGPS

 この講座の125回(1999.7.25)でGPS(グローバル・ポジショニング・システム:

全地球測位システム)のことを書きました。GPSは米国のシステムですが、ロシア

もGLONASSという名前の同じような航法衛星システムを運営しています。米国

のGPSでは高い位置精度を測定できるデーターを民間の利用には開放していま

せんが、GLONASSの高い位置精度のデーターは民間でも利用できるようで、

このデーターの性能を測定した研究論文が公開されています。

利用上どのような手続きや制約があるのか知りませんが、手軽に利用できるとす

れば、日本の産業にとって大きな資源となる可能性があります。

 ただし、厄介な問題があります。GLONASSはGPSと同様に24個の衛星を使

っているシステムですが、寿命が尽きた衛星の補充をする資金が不足しているた

めに、使える衛星の数が徐々に減っているということです。1998年9月時点で、生

き残っている衛星でカバーできるサービスエリアはロシアの80%以上、全世界の

60%以上という報告があります。

 高い位置精度のデーターを利用できれば、日本のカーナビや情報通信ネットワ

ークに大きな効果をもたらすと考えられます。日本の企業あるいは政府が資金援

助をして欠落した衛星を補充し、その見かえりに衛星から送られてくる質の良い

データーを利用する権利を得るといったことを考えてもよいのではないでしょうか。

すでに誰かがこうした問題に取り組んでいるかもしれませんが、目についた範囲

の日本の新聞や雑誌にはGLONASSに注目した記事は見当たりませんでした。

都丸敬介(1999.8.30)


なんでもマルチメディア(129):情報通信のサービス品質

 多くの企業は製品の品質保証のために気を使い、大きなコストをかけています。不良

製品が利用者に迷惑をかけると製造物責任が問われます。このことは無形商品を扱う

サービス事業に当てはまります。

 情報通信サービス事業でも、サービス品質の良さが同業他社との競争を有利に展開

するために大切だということが認識されるようになってきました。その一例として、SLA

(サービスレベル・アグリーメント)契約によって、サービス品質の良さをアピールする

インターネットサービス提供事業者(ISP)が日本にも出現しました。また、技術面では、

良好なQoS(クォリティー・オブ・サービス)を目指した研究開発に力が入っています。

しかし、サービス品質の考え方を日常的なこととして社会に浸透させるにはいろいろな

課題があります。

 SLA契約では、サービス品質が契約条件を満たさなかったことを利用者がどのよう

に立証するのでしょうか。多くの製品は、故障や説明書どおりになっていないことを現物

で立証できます。しかし、情報通信サービスでは、一時的にサービス品質が低下して、

その後で正常に回復したような場合、そのことを利用者が記録して証明するのは困難

です。SLA契約の条件が守られなかったことを利用者が証明して損害賠償を求める

場面を想定すると、サービス提供者は、SLA契約をした個々の利用者にサービス状況

の良否を判断する方法を説明して、その方法にしたがってサービス品質データーを記

録する手段を提供するべきなのです。

実際のSLA契約はそうなっているでしょうか。検証する必要があります。

 SLA契約による厳密なサービス品質保証をしなくても、情報通信サービス事業者は

いろいろなサービス品質項目の目標値を決めているはずです。たとえば、電話会社は、

利用者が最後のダイヤル数字を送ってから回線がつながるまでの目標値を決めてい

ます。社内の目標値であっても、サービス品質に直接関係するデーターを公開すること

が、利用者を安心させ、ひいては信頼を得ることにつながるはずです。料金は安くても

サービス品質に問題がある情報通信サービス事業者があっても、現状では、それを判

断するデーターが利用者に示されていません。

 情報通信サービス産業の健全な発展のためにも、サービス品質の目標値とその実

現状況の情報を公開することが望ましいと考えています。

都丸敬介(1999.8.23)


なんでもマルチメディア(128):衛星通信ビジネス

 8月13日に、世界で最初の衛星携帯電話会社の米イリジウム社が連邦破産法適用

申請したことは、新しい事業の産みの苦しみの象徴的な出来事と思えます。

 多数の通信衛星で地球を取り巻く、国境がない全世界通信網を構築しようという計

画は、イリジウムのほかにも、グローバルスター、ICO、オデッセイ、テレデシックなど

20以上もあります。イリジウム社が今回のつまづきをどのように解決するのか、他の

計画にどのような影響が出るのかといったことは、個々の事業者の経営の問題だけ

ではなく、21世紀の国際社会のあり方や文化に大きな影響を与える問題として注目さ

れます。

 1980年代初期に衛星放送が実用になった頃、ヨーロッパでは、よその国のテレビジ

ョン放送の電波がやすやすと国境をまたいで入ってくることは文化の侵害であり、見過

ごすことができないという議論が盛んに行われました。現在でも、他国の衛星放送を

直接受信する設備を禁止している国があります。

 衛星携帯電話のネットワークが普及したときに、いつまでも電話だけを扱うとは思え

ません。インターネットで扱われているいろいろな情報を運ぶことも考えられます。静止

衛星を利用して、インターネット利用者に高速でデータを分配するサービスはすでに始

まっています。日本のインターネット利用者が地上回線を使ってサーバーに情報を要

求すると、米国西海岸の衛星地球局を経由して要求した情報が届くという仕組みです。

 こうした、国境がない全地球的な情報の自由流通時代に、私たちはどう対応すべき

でしょうか。米国とくらべて、情報通信分野が5年-10年遅れているといったことを議論

する時代はもはや過去のことなのです。

都丸敬介(1999.8.16)


なんでもマルチメディア(127):マルチキャスト

 インターネットやイントラネットの利用方法の一つにマルチキャストがあります。マルチ

キャスト(multicast)という単語を英和辞典で調べても見つからないかもしれません。

 ブロードキャスト(broadcast:放送)は不特定の多数の受信者に同じ情報を分配する

のに対して、マルチキャストでは特定の多数の受信者に同じ情報を分配します。特定の

相手に情報を分配するためには、その相手を特定するアドレスが必要です。インター

ネットではマルチキャストを実施するためにIPアドレスを使います。マルチキャスト方式

で情報を分配する宛先のコンピューターのグループを決めて、このグループに対して

マルチキャストIPアドレスを与えます。情報の送信者は宛先アドレスとしてマルチキャス

トIPアドレスを指定するだけで情報の分配ができます。

 マルチキャストに対して、特定の一つの宛先アドレスを指定して情報を送ることをユニ

キャスト(unicast)といいます。

 IPアドレスを利用する以外にも、マルチキャストの実施方法がいろいろあります。電子

メールのメーリングリストがその一つです。電子メールを交換するグループを識別する

アドレスを用意しておけば、このグループのアドレスに送ったメールがグループに登録

されているメンバー全員のメールアドレスに届きます。

ファクシミリのグループ同報通信もマルチキャストの一つです。

 テレビ放送やラジオ放送では個々の視聴者を識別するアドレスを使っていませんが、

インターネットのマルチキャストあるいはブロードキャストでは個々の利用者のアドレス

が必要です。このことが、インターネット放送は、従来の概念の放送ではなく通信だとい

う根拠の一つになっています。

都丸敬介(1999.8.9)


なんでもマルチメディア(126):WDMとDWDM

 7月27日に開かれたハンドレッドクラブの例会のとき、講演の中に出てきた略語や

カタカナ用語を解説してほしいという要望がありました。そこで、次世代インターネットの

実現のための重要な技術として注目されている、WDMとDWDMについて説明します。

 昔、中学の物理の時間に、光は波でありその波長は0.38〜0.77μm[1μm(マイクロ

メートル)は1000分の1mm]程度だと教えられました。波長が短いほうが虹の七色の

紫で、長いほうが赤です。光ファイバー通信では波長が0.8μm〜1.6μm程度の赤外線を

使っています。1μmの1000分を1nm(ナノートル)といいます。したがって、1.6μmは1600nm

です。 普通の光はいろいろの波長が混じっていますが、光ファイバー通信では波長の

幅が非常に狭い(たとえば2nm)光を使っています。この光を高速度で断続して0と1の

ディジタル信号を送るのです。

 WDMは、少しずつ波長が違う複数の光を1本の光ファイバーで送ることによって、1本の

光ファイバーのデータ伝送容量を拡大する技術です。WDMを日本語では波長多重あるい

は波長分割多重といいます。DWDMは高密度WDMのことで、最先端の研究では約20の

異なる波長の光を多重化したDWDMの実験に成功したことが報告されています。

 WDMやDWDMが注目されているのは、新しい光ファイバーを設置しなくても、既存の光

ファイバーを使って、急増する長距離通信トラフィックに対応できるからです。米国の次世代

インターネットの研究では、WDMを効果的に利用するネットワークの構築が進んでいます。

都丸敬介(1999.8.1)