なんでもマルチメディア(244):ハイテクラケット技術進歩は思いがけない商品を生み出します。昨年米国で沢山売れたという、ICチップを組み込んだテニスラケットが日本でも入手できるようになったので使ってみ ました。最近10年くらいの間に、新素材を使った、軽くてしっかりしたラケットが次々 に開発されたので、握力や筋力が衰えてきたオールドプレイヤーには大変有り難 いことですが、この新しいラケットは極めつけと言えます。 ボールがラケットに当たった力で電気を発生し、この電気で作動するICチップがラ ケットの反発力をコントロールするという代物です。ICチップからの指令に反応して、 ラケット枠の素材がボールの反発力を強めたり、振動を抑えるという宣伝文句に いつわりはありません。260グラムほどの軽いラケットですが、20−30年前の400グラ ム近かった木製のラケットと同じようなボールを打てます。 オーストリアで生産されたものですが、説明書には驚かされました。CD-ROM入りの 説明書がついていて、日本語を含む数カ国語の音声と映像を使って特長や仕組みを説 明しているのです。スポーツ用品の説明にCD-ROMが使われるようになるとは考えても みませんでしたが、PR効果は抜群です。このようなハイテクスポーツ用品がなぜ日本 で生まれなかったのか、関係者は大いに学ぶべきです。当然、付加価値も高い商品で す。 このラケットを見たゴルフ好きのテニス仲間が、ICチップでコントロールするゴルフ クラブの出現を期待しています。どなたか開発に挑戦しませんか。開発に成功すれば、 きっと喜ぶ中高年プレイヤーが続出すると思います。 都丸敬介(2001.12.24) |
なんでもマルチメディア(243):サイバー検疫最近、電子メールに付着してばらまかれたウィルスの被害がエスカレートしています。 次々に生まれる新型ウィルスに対して、インターネット利用者一人一人が対策をとるこ とは、現実的には不可能です。ソフトウェアベンダーは、ウィルス対策ソフトウェアを無料 でダウンロードできるのに実際に使っている利用者が少ないと、責任を回避する発言を していますが、「インターネット利用者の何%がソフトウェアをダウンロードして実行できる か考えたことがあるのか」と反論したくなります。 どこの国でも、国際空港などでは動植物の検疫を行っています。中には形式的でど の程度効果があるのか疑わしい場合もありますが、非常にきびしい検疫を行っている 国もあります。インターネットでばらまかれるウィルスについても集中的な検疫ができます 。「サイバー検疫」という言葉があるかどうか知りませんが、こうした検疫をサイバー検疫 と呼ぶことにします。 私が利用しているインターネット接続事業者(ISP)は電子メールのウィルス検査つ まりサイバー検疫を実行しているらしく、「このメールに添付されている資料はウィルスに 汚染されている可能性があります」という主旨の警告文がついているメールや、メール の全文を抹消して赤字の×マークをつけたメールが送られてくることがあります。あるIS Pは有料でウィルスチェック・サービスを実施しています。 電子メールは送信元からあて先に届くまでにいくつものコンピューター(サーバー)を通 過します。ウィルス検査を実行するのに適したコンピューターとそうでないものがあり、ま た、通過するすべてのメールのウィルス検査をするためにはコンピューターの負担が増え ますが、安全な社会を守るためにはサイバー検疫の強化が必要です。利用者も料金 の安さだけでなく、セキュリティ機能も評価してISPを選ぶことが賢明と言えましょう。 都丸敬介(2001.12.16) |
なんでもマルチメディア(242):電子行政システムふと思い立ってオーストラリア旅行に出かけることにしました。航空券やホテルの 予約は電話ですぐにできますが、ビザの取得にどのくらい時間がかかるのか分からな いので調べたところ、オーストラリア電子ビザ(ETAS)という方法があることが分かり ました。 ETASのホームページからFAX登録申込書を取り出して、申請書をFAXで送っ たところ、その日のうちに「オーストラリア入国許可登録証」がFAXで送られてきまし た。 この手続きの体験から、電子行政システムの便利さを実感すると同時に、シ ステムの利用方法についていくつかのことを学びました。 今、政府や自治体が電子行政システムの開発と導入を盛んに進めていますが、 聞やテレビの解説は、インターネットを利用することで、窓口に行かなくても証明書 の発行や税金申告ができるようになるという程度です。それではインターネットを利 用できない人はどうすればよいのか、プライバシーや情報の安全性はどうやって守ら れるのかといったことの説明はほとんどありません。 ETASはインターネットだけでは手続きができません。パスポートのコピーや手数料 をクレジットカードで支払うための署名が必要なので、FAXによる登録申込み方式 にしたのかどうかわかりませんが、これは適切な方法と思います。インターネットを利 用しない人でも、電話やFAXで登録申込書の様式を入手すれば良いわけです。こ のように、利用者が身近にある手段を選び、必要に応じて組み合わせることで、各 自が無理なく利用できる仕掛け作りが電子行政システムを定着させるために大切 です。 政府や自治体のシステムがどのような形で姿を現すのか分かりませんが、利 用者に使い方を押しつけるのではなく、誰もが使えるシステムを実現することを期待 します。 都丸敬介(2001.12.2) |
なんでもマルチメディア(241):大人の科学 学習研究社の雑誌「科学」の付録の「大人の科学」シリーズが人気を集めていると いう新聞記事が目に留まりました。簡単な科学の基礎実験の道具で、手作りの実 験ができるもののようです。この記事にあった「日本人で科学に最も強いのは60代、 70代で、一番興味がないのが20代です」という文章にひっかかりました。「科学に 強い」という意味が分からないのです。 「パソコンを使ってみたいが難しい」という人が50代〜60代に多いことと「科学に強 い」ということの間にどのような関係があるのか、それとも全く違った視点での話なのか 、分からないことばかりですが、興味深い話題です。 現在60代〜70代の人で若い頃から車を運転していた人の多くは、エンジンオイ ルの交換や点火プラグの清掃をした経験があると思いますが、今の20代〜30代で エンジンオイルを交換できる人は非常に少ないと思います。しかし、カーナビを始めとす る新しい装備のことになると、60代〜70代は20代〜30代についていけないようで す。どちらの年代が「車に強い」と言えるのでしょうか。 「大人の科学」では科学の基礎あるいは原理的なことの簡単な実験が評価されて いるようです。社会人や大学生相手の講義で、電話やインターネットの基本的な構 造、あるいは動作原理を説明すると、必ず強い反応があります。「科学に強い」という ことは、身近にあるものの仕掛けや動作原理を理解していることかもしれません。幼い 子供が何にでも興味をもつように、長い生活体験を積んできた人たちが、身近にある ものに新たな興味をもつことは好ましいことです。考えてみると、このような好奇心に応 える教材が不足しているのかもしれません。 都丸敬介(2001.11.26) |
なんでもマルチメディア(240):獅子座の流星群今朝(2001年11月19日)のテレビで、早朝に記録的な獅子座の流星群が観測さ れたことが報じられました。放送された見事な映像を見ていて、50年前の高校生時 代に徹夜で流星群を観測したことを思い出しました。広い校庭に小さなテントを張り 、数人の友人と手分けして、観測した流星を星図に書き込んだものです。ただし、こ のとき観測したのが獅子座の流星群だったかどうかは定かではありません。今日の流 星群の発生時刻と方角を考えると、別の流星群だったようです。 「獅子座の流星群」はフランスの小説家ロマン・ローランの同名の小説と重なり合 います。毎日のように星空を見ていた高校生時代に読んだだけなので、内容を全く覚 えていませんが、大学の受験勉強よりも引きつけられる世界だったような気がします。 流星群とは全く関係ない話ですが、9月末の国内の携帯電話とPHSの合計加入 者数は7,160万で、NTTドコモの1加入者当たり月額収入は8,500円だということです。 で8,000円、これにiモードの付加価値2,000円を上乗せして、月額1万円/加入者 の収入を得るように努力しているということでしたが、なかなか実現は難しそうです。 携帯電話は成熟期に入ってきたので、今後の大きな発展は見込めないという論評 が最近目立ちますが、情報流通基盤としての携帯電話ネットワークの整備はまだ十 分ではありません。1980年代末期から1990年代初期にかけて、ブロードバンドネット ワークの将来を夢見た技術者たちが描いた社会がいくらか具体的になってきた段階 ですから、停滞の始まりは飛躍のチャンスと考えて関係者が頑張ることを期待します。 都丸敬介(2001.11.19) |
なんでもマルチメディア(239):光ファイバーケーブル数日前、通信ケーブル工事業界の人たちを主な対象とするセミナーの講師を頼ま れ、光ファイバー・ケーブリングの話をしました。数年前までは、光ファーバー通信は通 信事業者の専門領域であり、ケーブリング工事の事業者も限られていましたが、最 近は企業などの内部ネットワークでも使われるようになりました。このため、LAN(ロー カル・エリア・ネットワーク)を扱う人たちも光ファイバーに強い関心を持つようになりまし た。 光ファイバー通信技術は大変興味深い、不思議な世界です。通信用光ファイバー は直径0.1mm程度のガラスです。0.1mmは毛髪と同程度の太さです。ガラス・ファイバ ーといってもぽっきり折れることはありません。中学か高校の物理で、光は真っ直ぐ進 むと教えられましたが、光通信で使う光は、曲がりくねった光ファイバーに閉じこめられ て、遠くまで伝わります。銅線を使う通信ケーブルでは、電気信号が激しく減衰するの で、減衰した信号を再生増幅しないと遠くまで伝えられません。電話の市内回線は 最大7km程度に制限されています。最近はやりの、電話ケーブルを利用する高速デ ータ伝送技術であるADSLは3km程度の距離でも伝送速度が急速に低下します。と ころが光ファイバーを使う長距離通信では、再生増幅なしで100kmも光信号を伝え ることができます。 ディジタル光ファイバー通信では、光の強さで1と0を区別します。要するに光の点 滅でディジタル信号を表現するのです。1秒間の点滅回数がデータ伝送速度になる わけで、すでに実用になっている伝送速度は10G(ギガ)ビット/秒、つまり、1秒間の 点滅回数は百億回になります。人の眼の残像時間は0.1秒程度と言われているので 、1秒間に数十回の点滅でも区別できません。電子技術を使っているといっても百億 回の点滅を識別できることは驚異的です。なお、光ファイバー通信で使っている光は 赤外線なので、人の眼で直接見ることはできません。 都丸敬介(2001.11.11) |
なんでもマルチメディア(238):大島紬最近、ある調査研究委員会の委員を頼まれて、奄美大島に行きました。そこでタ クシーの運転手さんから聞いた話を紹介します。奄美大島最大の産業だった大島紬 の衰退が激しく、現在の年間生産量はピークだった1980年の7分の1まで落ち込 んでしまいました。そこで、独特な糸の加工をしていた人たちが道路建設工事に従事 するようになったのですが、道路工事の仕事をすると、指先が荒れて、繊細な感覚が 求められる糸の仕事に戻れないのだそうです。道路建設が一段落して、特産品の大 島紬の復活が重視されるようになると、この伝統技術の人材が足りなくなるというの はかなり深刻なことです。 この話を聞いて、トルコの絨毯産業を思い出しました。普通の絨毯の糸はウールで すが、絹糸を使う高級な絨毯があります。農村の女性は長い時間をかけて一枚の絹 絨毯を織り、結婚するときに持参します。これが、何かあったときの生活を支える保険 になるのです。絹の絨毯を織るためには鋭い指先の感覚と眼が必要であり、20代半 ばになると最高のものを作れなくなると言うことでした。 どの分野でも、最高の製品を作るには訓練を積んだ人材が必要です。産業の大き な転換期を迎えた今、情報技術などの新しい技術分野の人材育成に力が入れら れていますが、同時に伝統産業の技術を活かすことも大切です。乗用車の多様なオ プションの組み合わせをユーザーが自分のパソコンで設定して注文する、インターネッ トによる準オーダーメードが注目されているようですが、大島紬についても同じようなこ とができるはずです。一旦衰退した産業を従来のままの形で復活するのは困難でしょ うが、新しい流通や生産形態での発展の可能性はあります。新しい時代にマッチした 伝統産業の復興を期待しています。 都丸敬介(2001.11.4) |
なんでもマルチメディア(237):便利なパソコンLAN最近はどこの事務所でも、複数台のパソコンをLAN(ローカル・エリア・ネットワーク; 構内情報ネットワーク)でつないでいます。そして、家庭でもパソコンLANを構築して いる人たちが増えています。 今年の春、ある教育企業からSOHO(スモールオフィス・ホームオフィス)向けLAN の構築や利用方法の教科書の作成を頼まれました。執筆協力をお願いした著者の 一人は、自宅にある2台のパソコンを実際につないで、その実現方法を確認すると同 時に、あらためてパソコンLANの効果を体験されました。 多くの人たちが持ち歩いている軽量ポータブルパソコンの多くは、フロッピーディスクド ライブやCD(コンパクトディスク)ドライブがついていません。必要に応じて外付けのディ スクドライブをつないで使っている人が少なくありませんが、ポータブルパソコンに入って いるデータを、フロッピーディスクドライブなどがついている別のパソコンに、LANを使っ て転送すれば、ポータブルパソコンの利便性が一段と大きくなります。 このことは、1980年代初期にパソコンLANが出現したときの基本的な利用方法 と全く同じです。1990年代初期でも、2台のパソコンをつなぐのには数十万円かか ったし、これを動かすソフトウェアの扱いもかなり厄介だったので、個人でパソコンLAN を構築するのは簡単ではありませんでした。ところが、現在では数万円でパソコンLA Nを構築できます。これを動かすのに必要なソフトウェアはウィンドウズに組み込まれて います。 私も家の中でLANでつないだパソコン機器を使い分けていますが、次は、 家族で楽しむ利用方法を実現しようと考えています。 都丸敬介(2001.10.28) |
なんでもマルチメディア(236):トロイの遺跡日本の考古学がえせ考古学者に振り回されて、教科書の書き直しにまで問題が 大きくなっています。このことに関連して、今日(2001年10月14日)の朝日新聞の日 曜版にトロイの遺跡の記事がありました。 私は数年前にトロイの遺跡を訪ねて、ささやかな発見をしました。シュリーマンがトロ イの遺跡を発見するきっかけになった、ホメーロスが書いたと言われる「イーリアス」を読 んで、トロイの遺跡からエーゲ海が見えると思っていたのですが、見えなかったのです。 ガイドにそのことを質問すると、近くの河が運んだ土砂が堆積して、海岸線が遠くにな ったのだということでしたが、真偽のほどは確かではありません。 なぜそのことが気になったかというと、海がトロイの城から見える距離にないと、アキレス 腱に名をとどめるアキレスたちが戦った、城の攻防戦のイメージが崩れてしまうからです。 という、現在も行われているトロイ遺跡発掘調査の責任者の言葉を引用しています。 仮説を立ててそれを証明することは研究者の仕事に限りません。開発途中の製品 の不具合や稼働中のシステムの事故の原因を技術者が解明するときも同じです。こ のことは推理小説を読んでいるときの楽しさにも共通します。「仮説を立てて証明する 」ことの重要性と同時に面白さを今の学校教育でどのように教えているのか知りませ んが、あまり教えられていないような気がします。「あまり教えられていないのではない か」という仮説が正しいとすると、大きな問題です。 都丸敬介(2001.10.14) |
なんでもマルチメディア(235):情報システムの評価過日、ある企業の社内研修で「情報システムの評価」の話をいたしました。評価と いう言葉は日常的に使われていますが、かなり複雑な問題です。基本的なことです が、情報システムや通信システムの技術面の評価は、だれが評価をしても同じような 結果になるのが望ましいことは言うまでもありません。このためには評価方法と評価 基準を明確に決めなければなりません。 これまでも長年にわたって評価方法と評価基準の研究や標準化が行われてきまし たが、評価対象項目が多く、しかも技術進歩に伴って次々に新しい項目が出現して いるので、なかなか適切な標準評価技術が固まらないようです。 評価には事前評価と事後評価があります。情報システムの評価の重点は事後評 価つまり開発したシステムやアプリケーションが意図した目標を達成しているかどうか を判定することにあります。したがって、企画や設計の段階で評価方法と評価判定 基準を決めておかなければなりません。ところが、実際のシステムでは、いざ評価作業 を実行しようということになったときに、評価方法や評価基準が決まっていないことに気 づくことがよくあります。 システム工学の基礎に「P(Plan:計画)−D(Do:実行)−S(See:評価)」サイクル という概念があります。P-D-Sサイクルは、最後のSの結果を次のPに反映しなけれ ば意味がありません。このことは情報システムの評価だけではなく、多くの問題にあて はまります。 過日の参議院選挙で自民党が大勝したことを「前回の選挙で自民党が大敗した のは事後評価が悪かったということで、今回は期待値に対する事前評価が良かった のだ」と言った人がいます。これは、ある意味で評価の本質を突いています。 都丸敬介(2001.9.30) |
なんでもマルチメディア(234):耳寄りな情報都合により休刊 (2001.9.17) |
なんでもマルチメディア(233):携帯テレビ電話計画よりも遅れていた、第3世代携帯電話(IMT2000)の商用サービスが10月に 始まることが決まりました。テレビのニュースなどではこの新しい携帯電話のデモンス トレーションとしてテレビ電話を取り上げていますが、このデモンストレーションを見て いくつかの疑問が生じました。 片手に電話機をもって、ディスプレイで相手の顔を見ながら会話をするのでは、従 来の携帯電話のように電話機を耳に密着させてひそひそ話をすることが難しいようで す。外付けのイヤホーンとマイクロフォンを使えば問題を解決できますが面倒です。 固定電話回線を使うテレビ電話は1980年代にすでに実用になっていて、ISDN 回線用テレビ電話機の画像品質は新しい携帯電話機の画像品質と優劣がつけ られないレベルです。けれどもテレビ電話はほとんど普及していません。 第3世代携帯電話では分かりやすいデモンストレーションとしてテレビ電話が取り 上げられていますが、これが普及促進の決め手になるとは思えません。有望なアプリ ケーションがこれから次々に開発されるでしょうが、先ず考えられるのはテレビジョン放 送のようなマルチメディア情報の分配や対戦ゲームです。 携帯電話機の機能や性能の制約の中で実現でき、ユーザーの心をつかめる対戦 ゲームは、既存のインターネットを利用する対戦ゲームとは違うものになるかもしれま せん。 第3世代携帯電話という新しいプラットフォームができたことは、カラオケやiモ ードが世界をリードしたように、日本発の新しい文化を生み出すのに適した環境が 世界に先駆けて作られたということです。アプリケーションを開発するのは通信事業 者だけではありません。何が生まれるのかを楽しみにして、ベンチャー企業の知恵と 挑戦に期待します。 都丸敬介(2001.9.10) |
なんでもマルチメディア(232):議事録多くの会社や組織では毎日いろいろな会議が開かれています。会議の性格によっ て議事録を作る場合と作らない場合がありますが、どのような会議であっても、基本 は議事録を作ることです。いつ、誰々が、どのようなことについて議論をし、結論はど うだったかということを正確に記録することは、組織活動の基本のはずです。 私も若い頃に会議の書記を命じられて鍛えられました。最初は会議参加者が話 している言葉が十分に理解できなくて、先輩に迷惑をかけたこともあります。そのころ は一所懸命にノートを取って、後で時間をかけて議事録の原稿を書いていましたが 、技術の国際標準化会議に参加するようになって、議事録の作り方について重要 なことを教えられました。 それは、書記が会議中に議事録の原案を書いていて、一日の会議の終わりある いは区切りがついた時点で、散会する前に出席者全員で議事録原案の内容を確 認することを必ず行うことです。世界各国からメンバーが集まって、決められた時間 内に一定の結論を出さなければならないという、厳しい時間の制約があるだけに、 議事録の作成と内容の確認のタイミングが会議の進行に大きく影響します。しかし 、こうしたことは会社内の会議にもあてはまります。 国内のある調査研究委員会の事務局の人にこの話をしたところ、会議の場での 議事録原案の確認はしないけれども、家に帰ると電子メールで議事録原案が先に 届いているという状況になりました。まだ会議の余韻が頭に残っている間に議事録 原案を読むと、無駄なく重要なことを確認できます。そして、気がついたことをすぐに コメントできます。 最近は社会人を対象にしたセミナーや学生相手の講義の会場で、パソコンでノー トを取っている人が目につきます。このような下地がある人は、議事録の書き方の要 点を教えるだけで、立派な議事録を実時間で書けるようになります。こうした習慣を 日本の社会に定着させることを現役の皆さんに期待します。 都丸敬介(2001.9.3) |
なんでもマルチメディア(231):シングルモルトウィスキー 8月25日の日本経済新聞夕刊に「シングルモルトウィスキーが、若い人の間でも 人気を集め始めている」という記事がありました。私がシングルモルトウィスキーの味 を覚えたのは、ヨーロッパに出かけることが多くなった1970年代です。ホテルのバー で緑色の三角の瓶に入ったおかしなウィスキーを目にしたのが始まりです。これがグレ ンフィディックで、有名な銘柄であることを知ったのは帰国して調べてからですが、帰 りの空港で買ってきたことを覚えています。今では近所のスーパーで買えるので、とき どき楽しんでいます。 仕事で知り合った英国人に好きな銘柄があるかと尋ねたところグレンマッカランだ ということでしたので、早速デパートで買ってきて一緒に味わいながら英国人のシン グルモルトに対する思い入れを聞いたことがあります。 英国を舞台にした小説には登場者の好みのシングルモルトの名前が出てくること があります。以前読んだ本にあったラフロイグ(Laphroaig)という名前が頭のすみに入 っていたところ、東京駅地下街の洋酒店で見つけたので買ってきました。強烈な燻 製の香りがする珍しいウィスキーだったのでテニスクラブに持参して仲間と一緒に楽し みました。個性が強いものは好き嫌いが分かれますが、じっくり味わっているととりこに なります。 スコットランドで小さなウィスキー会社を見学したときのことです。見学が終わって案 内された売店で、比較的若いウィスキーと年代物のとろっとしたウィスキーの両方を 試飲しました。あまりの違いに驚いて、年代物のほうを買いたいと申し入れたところ、 もう残りが少なく、売るものはないということでした。おそらくかなり高い値段で売れる のでしょうが、売らないでただで飲ませるという経営方針は立派です。 都丸敬介(2001.8.26) |
なんでもマルチメディア(230):ADSLの実力 インターネットに高速アクセスする手段の一つである、ADSL(非対称ディジタ ル加入者線)サービスの利用料金値下げ競争が激しくなったことから、ユーザーの 急増が続いています。本講座222回「ADSL利用条件」で説明したように、ADS Lサービスの伝送速度は、市内電話交換局とユーザーの間の電話ケーブルの距離 によって大きく変化します。実用伝送速度はケーブル距離以外の条件でも変化す るので、断定的なことは言えないようですが、手元のいくつかの資料を参照すると、 おおむね以下のようになります。 国際標準のADSLモデムには、最大伝送速度が8Mbps(ビット/秒)のITU- T勧告G.992.1(通称G.dmt)と1.5MbpsのG.992.2(通称G.lite)の2種類があります。 度、G.liteの実力は、2kmで1.5Mbps、3kmで1〜1.5Mbps、4kmで1Mbps弱といっ たところです。4km以上ではさらに伝送速度が低下します。 従来の市内電話交換局のサービスエリアは半径7km程度です。したがって、既存 の電話ケーブルを利用するADSLサービスは、その高速性能を使いたくても使えな いユーザーが多数生じることになります。 ADSLサービスを提供する事業者は、モデムの機能と複数のユーザーの信号を 束ねる多重化機能を備えたDSLAMという装置を市内電話交換局に設置します。 DSLAMとインターネットサービス事業者(ISP)のサーバーをつなぐ回線の伝送速度 が十分に速くないと、この部分がネックになってADSLの実力を発揮できないことが あります。この部分の回線を高速化するとコストが増えるので、ADSLサービスの導 入をためらっているISPもあるということです。こうした弱点をユーザーが理解するの は大変かもしれませんが、期待を裏切られないためにはいろいろな知識が必要です。 |
なんでもマルチメディア(229):インターネット・オーダーメード 新聞報道によると、インターネットを利用して、消費者がメーカーにオーダーメー ド製品を直接注文するケースが増えてきたようです。自動車、家電製品、衣類、 スポーツ用品など、注文できる商品の種類が増えていることは、既存製造業の変 革を示しています。 この新聞記事を読んで、1980年代後半に参加した、あるコンピューターネット ワークの国際会議を思い出しました。私が参加したセッションで、米国の某大学経 済学部教授が、米国の自動車産業は日本の自動車産業に負けるという話をし ました。私に同意を求められたことがきっかけで、会議終了後の懇親会でも大いに 盛り上がりました。教授の指摘は、買いたい車の色やオプション機器を指定して注 文をするとき、日本車を注文すると、日本で作った製品を船便で運んできても米 国製品よりも早く手に入るということでした。これは日本の製造業の多品種少量 生産技術、つまりフレキシブル生産技術が優れているからであって、米国企業がこ のような生産技術を本気になって追求しないと日本に勝てなくなると強調していま した。 消費者からの直接注文に迅速に応じることができるフレキシブル生産技術 を備えることの重要性が、製造業がこれからの競争に勝ち残るために益々大きく なるでしょう。同時に、多種類の選択肢を組み合わせる複雑な注文書を消費者 が簡単に作れるようにすることが肝要です。訓練された営業担当者が消費者と会 話をしながら作ったのと同程度の正確な注文書を、インターネットのアプリケーショ ン・ソフトウェアで簡単に作れるようにすることが、インターネット・オーダーメード普及 の鍵になるかもしれません。 都丸敬介(2001.8.13) |
なんでもマルチメディア(228):資源不足これからの生活や産業に大きな影響を与えるIT分野で、日本が世界の先頭に立 っている項目のなかに、第3世代携帯電話と次世代インターネット技術のIPv6(イ ンターネット・プロトコル・バージョン6)の利用があります。両者に共通していることは 、他の国と比較して日本の資源不足が非常に厳しい状態にあることです。 現在使われている第2世代携帯電話の導入が軌道に乗った1993年頃の予測 では、2005年に端末数が5千万台に達するという見通しでしたが、2001年3月 末時点で6千万台を超しました。この結果、携帯電話に不可欠な資源である電 波の周波数不足が深刻になってきたのです。第3世代携帯電話では高速データ 伝送機能を利用する新サービスに話題が集まっています。しかし、新サービスを利 用しなくても、従来のサービスを利用するときのサービス品質が改善される効果が大 きいはずです。 インターネットを利用するときにはデータを送信・受信する情報機器を識別するI Pアドレスが必要です。現在使われているIPv4の利用が米国で始まったのは19 83年で、日本で商用インターネットサービスが始まったのはそれから10年後です。 米国では1990年にすでにIPv4のアドレスが将来不足することが指摘されていまし た。IPアドレスはインターネットを利用するために不可欠な資源なのです。日本では インターネット利用者の急速な増大にともなうIPアドレス不足が深刻な問題になっ ています。IPv6は多くの新しいアプリケーションの可能性を備えていますが、まずはI Pv4アドレス不足の救済手段として効果を発揮することが期待されています。 電波の周波数やIPアドレスといった目に見えない資源の不足はあまり知られてい ないかもしれませんが、資源不足に直撃されたことによって、問題解決に取り組んだ 日本の技術が世界をリードすることになったといえます。 都丸敬介(2001.8.6) |
なんでもマルチメディア(227):落雷去る7月25日の午後、東京都や神奈川県で強い雷雨があり、落雷のた めに鉄道のダイヤが大幅に乱れました。そして5日たった現在でも一部の 鉄道に後遺症が残っています。 新聞報道によると、この落雷のために電話回線につながっている通信機 器の故障が大量に発生して、NTT東日本が修理に人を派遣した件数が、 東京都で4千、神奈川県で2千あったということです。電話ケーブルの心線 は電気を通しやすい銅線で、ケーブルに直接落雷しなくても雷から誘導し た高い電圧が流れることがあります。このために、家庭に電話ケーブルを 引き込む接続点には保護装置がついています。ところが、最近の電話機 やモデムに組み込まれている半導体素子は過電圧あるいは過電流に対 する耐久力が小さくなり、保護装置を通り抜けた短時間の過電圧でも故障 する可能性が大きくなったようです。 話が変わりますが、米国コロラド州のデンバー市は雷の名所で、多数の 稲妻が走っている絵はがきを売っています。一度、強い雷雨のために乗っ ている飛行機がデンバー空港に着陸できなかったことを経験しました。空 港を雷雨が襲っているので、しばらく待機して回復を待つという機内放送 があり、空港の周囲を何十分か旋回しました。窓から見ると、下の方で盛 んに稲妻が走り、ときどき機体がずしんと響くような空中放電がありました 。しばらくして無事に着陸したのですが、後で地元の人に聞いた話では珍 しいことではないそうです。 今、通信ケーブルの光ファイバー化が進んでいます。光ファイバー・ケー ブルは電気を通さないので、雷放電で発生する高電圧が通信機器に伝わ ることはありません。 高価でデリケートなブロードバンド情報通信機器を雷の被害から守るため にも、光ファイバー・ケーブルの早期導入が望まれます。 都丸敬介(2001.7.30) |
なんでもマルチメディア(226):技術者の閉塞感IT(情報技術)関係者をメンバーとする大手の学会である情報処理学会 が発行している会誌の最新号で、ソフトウェア研究者や技術者に閉塞感が 蔓延しているという指摘と、このことに対する何人かのコメントが掲載され ました。私はかなり前に研究開発の現場から離れたので、閉塞感がどのよ うな形で現れているのか分かりませんが、重症だとするとこれからの日本 を担う中核産業であるIT産業にとって憂慮すべき問題です。 たしかに、現在私たちの身近にある情報システムのソフトウェア製品の多 くは米国で開発されたものです。ソフトウェア工学の分野では、新しいテー マに挑戦しようとしたときに突破しなければならないブレークスルー技術が 少ないのかもしれません。 あるいは多数の研究者や技術者を興奮させる大型プロジェクトが少ないの かもしれません。しかし、このような刺激的な場は自然発生的にできるので はなく、だれかが仕掛けてつくらなければならないのです。 閉塞感の蔓延が事実だとすると深刻な問題ですが、それをうち破る場を用 意することは可能なはずです。既存の行政区分の壁をなくすような電子化 行政システム、電子化による教育システムの改革など、いろいろな大型プ ロジェクトが考えられます。これらのプロジェクトを実現するのに、効率最優 先で既存技術を組み合わせるのではなく、既成概念にとらわれない理想 的な目標を設定するならば、必ず挑戦に値する課題が出てくるはずです。 以前、第5世代コンピュータの研究という国家プロジェクトがありました。 このプロジェクトによって多くの若い研究者が育ちましたが、産業として成 功する形にはなりませんでした。このようなプロジェクトの良かった面と悪 かった面を調べ直して国の資金を投入し、若い研究者や技術者に世界を リードする仕事をしてもらいたいと願います。 都丸敬介(2001.7.22) |
なんでもマルチメディア(225):技術用語事典数年前から某出版社の技術用語事典の原稿を書いています。それまで は辞典と事典の違いを気にしたことがほとんどありませんでしたが、自分 で原稿を書くはめになって、両者の違いが幾らか分かってきました。岩波 書店の広辞苑ではそれぞれを次にように説明しています。 辞典(辞書):言葉を集め、一定の順序に並べ、その読方・意義・語源・用 例などを解説した書。 事典:ことがらを集めて、その一々に解説をほどこした字引。 わたしが頼まれている技術用語事典では、一項目を300〜400字程度 で解説していますが、これはかなり難しいことです。どの技術分野に属する 、どのような意味をもつ用語かという程度の説明であれば、おおむね100 字程度で収まってしまいます。一方、教科書のような解説にすると、400 字では書ききれない用語がたくさんあります。要は、利用者が事典をどの ような使い方をするのかということにあるわけで、自分が利用者になったと きに期待する解説を書くように心がけていますが、どのくらいの利用者の 期待に応えているのかが気になります。 技術進歩や変化が速い分野のことなので、解説する用語の選択も悩ま しい問題です。収録用語数をどんどん増やすと、事典が厚くなって使いにく くなります。したがって、用語の総数をあまり変えないで、陳腐化した用語 と新しい用語の入れ替えをするのですが、その判断には頭を痛めます。以 前、情報通信機器やソフトウェアあるいはサービスの取扱説明書のなかで 説明なしに使われている用語に注目する必要があるのではないかという 議論をしたことがあります。このとき、多くの利用者は分厚い取扱説明書を 開きもしないし、読もうとすると理解できないことばかりだという話になりま した。結論はなかったのですが、これからも大いに議論すべき問題です。 社会人を対象とする技術セミナーで、技術用語事典を持参した受講者が 用語を確認しているのをときどきみかけます。このようなときは、彼あるい は彼女のために、より充実した解説を書いてあげたいと思います。 都丸敬介(2001.7.16) |
なんでもマルチメディア(224):ホテルのテレビ先月(2001年6月)、スイス観光の中心地の一つ、インターラーケン郊外 にある湖畔のホテルに何日か滞在しました。部屋に案内されて最初にテレ ビがないのに気がつきました。どうしてだろうと思ったのですが、次のような 主旨の支配人からメッセージを読んで納得しました。 「部屋にテレビがないことに驚かれたでしょう。生活の中で益々重要性を 増しているテレビを置かないことを決めるまでにいろいろ考えました。素晴 らしい景色と破壊されていない自然を心ゆくまで楽しんで下さい。長いこと 読もうと思っていた本も読めるでしょう。テレビが必要なら、申しつけて下さ れば部屋に取り付けます。」 折から始まっていたウィンブルドンのテニス中継を見たい気もしたのです が、テレビの取り付けを頼みませんでした。部屋の正面の湖の向かい側か ら上る荘厳な朝日や、夜の10時頃に静かに暗くなっていく湖や山は見て いて飽きませんでした。 この支配人のメッセージを読んだとき、支配人の見識に強いショックを受 けました。私たちはなぜ大金を使って海外に旅行をするのかといえば、映 像の世界ではない実物を見て、その場の空気を吸うためです。それなのに 、ホテルの部屋でテレビを見ているのは貴重な時間の無駄づかいにほか なりません。たとえ雨が降って外出できなくても時事刻々変化する自然の 姿は印象に残ります。単に部屋にテレビがないことだけなら、一瞬なぜと 思ってもすぐ忘れてしまったでしょう。そうではなく、客が一番先に見るホテ ル案内の最初のページに上記のメッセージを堂々と書いた支配人の心意 気には見習うべきことがあることを教えられました。 都丸敬介(2001.7.8) |
なんでもマルチメディア(223):ユビキタス・ネットワーク今朝(2001年6月24日)のNHKラジオ第一放送の「当世キーワード」とい う短い番組で、ユビキタス・ネットワークという言葉の解説をしていました。 この言葉はネットワーク技術の専門家の間では数年前から使われていて 、いつでも、どこにいても情報通信サービスを利用できる遍在的ネットワー クという意味です。放送では、ユビキタス・ネットワークによって、ユーザー は、パソコン、携帯情報端末、携帯電話などの端末機器を使って、いつで も、どこからでも必要な情報にアクセスできるという説明をしていました。 ここまでは良いのですが、さらに、ユビキタス・ネットワークを実現するの にはブロードバンド・ネットワークが必要だという主旨の説明が続きました。 ユビキタスとブロードバンド(高速・広帯域)は直接的には関係がありませ ん。現在のインターネットは完全ではないけれどもほぼユビキタスなネット ワークと見なせます。しかしインターネットにアクセスするために大部分の ユーザーが使っている通信回線はナローバンド(狭帯域)です。 言葉の意味は時代とともに変わりますから、ユビキタス・ネットワークとブロ ードバンド・ネットワークを結びつけたことに目くじらを立てる必要はありま せんが、今朝の放送は何かひっかかる内容でした。 1980年代にブロードバンド・ネットワークの研究開発が始まり、いまでは、 いろいろな形のブロードバンド・ネットワークが実現しています。ブロードバ ンド化したユビキタス・ネットワークによって、これまでには無かった新しい 情報システムを実現できる可能性は大いにあります。既成概念にとらわれ ずに、新しい可能性を夢見ることで、ユビキタス・ネットワークとブロードバ ンド・ネットワークが固く結びつくことを期待しましょう。 都丸敬介(2001.6.24) |
なんでもマルチメディア(222):ADSLの利用条件ブロードバンドネットワーク時代の先駆けとして、ユーザーと通信事業者 をつなぐアクセス回線(加入者線)を高速にしたサービスが大きな話題にな っています。高速アクセス回線サービスの実現方法の一つにADSL(非対 称ディジタル加入者線)技術があります。これは既存の電話用銅線ケーブ ルの両端にADSLモデムという特別なモデムをつけるだけで、従来の電話 回線用モデムよりも数十倍から百倍以上の伝送速度を実現する技術です。 て、急速な増加が続いています。NTT(東日本/西日本)を初めとして、大 部分の通信事業者が提供しているADSLサービスの伝送速度は、ユーザ ーがデータを取り込む下りチャンネルが最大1.5Mビット/秒、ユーザーが データを送る上りチャンネルが最大512kビット/秒です。最大と書いたの は、市内電話交換局とユーザーの間のケーブル距離や、ケーブルの利用 状態によって、安定して使える伝送速度が変化するからです。一本の電話 ケーブルには数十対から数千対のケーブル心線が入っていて、ADSLユ ーザーが使っている心線は他の心線から電気ノイズを受けます。このノイ ズは他のユーザーの通信状態によって変化します。 最近、あるインターネット接続事業者が最大8Mビット/秒のADSLサー ビスを始めることを発表しました。ADSLモデムには複数の種類があり、下 りチャンネル最大データ伝送速度が8Mビット/秒の製品があります。た だし、8Mビット/秒で安定に動作できるケーブル長にはかなり厳しい制限 があります。従来の電気通信サービス利用者の常識では、電話交換局と ユーザーの間の距離によってサービス品質が違うということは考えられな いかもしれません。その原因を理解することはちょっと難しいかもしれませ んが、サービス提供側は具体的なデータを示してきちんと説明をする義務 があるはずです。ADSLは一例であって、このほかにも利用条件によって サービス品質が変化する新技術が次々に生まれています。ユーザーは期 待を裏切られないためにもいろいろ勉強しなければなりません。 都丸敬介(2001.6.18) |
なんでもマルチメディア(221):イーサネット多くの企業の情報基盤としてLAN(ローカル・エリア・ネットワーク)がすっ かり定着しました。LANにはいろいろな種類がありますが、代表的なもの がイーサネットです。イーサネット(Ethernet)は1970年代に米国ゼロック ス社が開発したLANにつけられた名称ですが、今では、このLANの技術 を基本とする方式を総称してイーサネットと呼んでいます。 最初のイーサネットは、バスケーブルと呼ぶ直径10mm程度の長い同軸 ケーブルの途中に、パソコンやサーバー(コンピューター)を分散してつな ぐものでした。この形式は今も使われていますが、現在のイーサネットの主 流は、ハブと呼ぶ装置を中心にして、これとパソコンなどを直径5mm程度 の撚り対銅線ケーブルでつなぐものです。 ハブを使う形式のLANは事務所、工場、学校などだけではなく、ホテルや 一般の住宅にも普及し始めました。会社で使っているパソコンでコンピュ ーターから情報を取り出すときの時間は短いのに、家でインターネットを利 用して情報を入手するときは時間が大きいことを体験している人が多いと 思います。この違いの最大の理由は、会社の情報ネットワークはデータ伝 送速度が速いLANを使っているからです。そこで、最初からLANの設備を 設置した新築マンションや住宅が出現しました。 一方、通信事業者はLANに情報機器をつなぐときのインタフェース機能 を備えたサービスを始めています。このサービスによってLANの地理的な 広がりが大幅に拡大して、LANはもはやローカルなネットワークではなくな ってきました。 イーサネットのデータ伝送速度は10Mビット/秒でした。この速度はイー サネット開発当時のモデムよりも数千倍高速だったのですが、いまでは遅 くなりました。そして、100Mビット/秒、1,000Mビット/秒(1Gビット/ 秒)、さらには10Gビット/秒の高速イーサネットの導入が進んでいます。 イーサネットの高速化と地理的広がりの拡大はネットワーク社会を大きく変 えることになります。 都丸敬介(2001.6.11) |
なんでもマルチメディア(220):ブルートゥースハンドレッドクラブ21事務局の海老塚さんから、6月14日の夕方開かれ る「ブルートゥースの最新動向」勉強会の案内 (http://www.binet.co.jp/event/event.html)が配布されているので、若干 の予備的な説明をいたします。 ブルートゥースは小規模無線LAN(ローカルエリアネットワーク)の技術で す。1994年にスウェーデンのエリクソンが開発に着手したものですが、そ の後多くの仲間が集まり、国際的なビッグプロジェクトとして、実用に向け た開発が進められています。LANの技術を標準化しているIEEE(米国電 気電子学会)の802委員会でも、1998年に無線パーソナルエリアネット ワーク(WPAN)の標準化作業が始まり、これを実現するための技術とし てブルートゥースが採択されました。 ブルートゥースは微弱な電波を使って最大8台の情報機器をつなぐネット ワーク技術で、通信距離は10m程度です。パソコン本体とプリンタなどの 周辺機器をつなぐのにこれを使えば、ケーブルが要らないので、パソコンを 持ち歩くことが簡単にできます。携帯電話機とパソコンなどの情報機器を つなぐアプリケーションの開発も盛んに行われています。 例えば、エリクソンは本拠地のスウェーデンでスカンジナビア航空とタイア ップして各種の利用方法の実験を行っていることが報じられています。飛 行機の機内でパソコンを操作して資料を作っても機内からは送信できない ので、空港ビルのロビーに着いてから送信した実験では、パソコンをアタッ シュケースにしまっておいて、データだけをブルートゥースで携帯電話機に 移して送信したということです。この程度のことであれば、パソコンと携帯 電話機をケーブルでちょっとつないでもあまり面倒ではないかもしれません が、こうした実験が積み重なっていくと、いつのまにか大きな流れになる可 能性があります。 最近、情報家電という言葉が盛んに使われています。家電製品の間で情 報のやりとりをする機能がどの程度役に立つのかまだ分かりませんが、ブ ルートゥースは情報家電ネットワークを実現するための有力な技術の一つ といえます。 都丸敬介(2001.6.3) |