なんでもマルチメディア(286):ADSLあれこれ

 現役を引退した知人が、インターネットを生活に取り込むために、息子さんと相談して、ADSLによる、高速

インターネットアクセスを利用することにしました。そこで問題が起こりました。インターネットサービス事業者から

送られてきたADSLモデムを、自分で電話回線につないだところ、うまく動作しないので、電話機を外したらイ

ンターネットにアクセスできるようになったというのです。そこで、「インターネットにアクセスするたびに電話機を外

すのは煩わしい。どうすればよいのか」という相談を受けました。

 家の中にある既存の電話配線と、ADSLモデムの接続状態を聞いたところ、不具合の原因と思われること

がはっきりしたので、そのことを説明しました。もう一度息子さんと相談すると言うことなのでそのままになりました

が、しばらくして、問題が解決したという話がありました。無線LANの機器を買ってきて、ADSLモデムとパソコ

ンの間を無線接続することで、家の中の電話配線をいじらずに済んだということです。

 数年前までは、高価だという理由で企業でも導入をためらっていた無線LANの機器を、10m程度の電話

配線の代わりに使うようになったことは、最近のネットワーク分野の急速な変化を象徴しています。

 電気通信会社勤務の別の知人は、「最近ADSLを家に入れたが、効果的な利用方法が無いので、とき

どき実効伝送速度を測定しては、たしかに高速だということを確認している」と話していました。これは笑えない

ことですが、ブロードバンドネットワークに適した、新しい情報コンテンツ提供者が次々に生まれているので、AD

SLが無駄になることはないでしょう。

都丸敬介(2002.12.23)

 

なんでもマルチメディア(285):カンニング

 ある大学で、携帯電話を使った多数参加のカンニングが発覚して、大学の関係者がショックを受けたという

新聞記事がありました。この記事を見て感じたことは、起こるべくして起こったことに対して、無防備だった(らし

い)大学側の怠慢です。

 試験会場に持ち込むことが認められていた、電卓の持ち込みを禁止した試験もあります。電卓の機能が高

度になり、不正行為を防ぎきれなくなったという事情があるようです。

 「授業中の私語が減った代わりに、携帯電話のメールでおしゃべりをしている学生が増えてきた」という話をよ

く耳にします。こうしたことに慣れている学生にとって、携帯電話カンニングは簡単にできるはずです。

 これに対して、大学側がどう対処するかが問題です。「試験会場への携帯電話の持ち込みを禁止する」と

いった程度の通知では、あまり効果がないでしょう。試験官が不正電波検出器を持って、試験会場を歩き回

ることが必要になるかもしれません。あるいは、教室内に持ち込んだ携帯電話を検出する設備が、教室の常

備品になるかもしれません。

 カンニングとは関係ありませんが、携帯電話によるオフィスの外との個人的な通信をするのを防いだり、情報

の漏洩や妨害を防ぐために、電波を通さない材料を使ったオフィスビルが何年か前から話題になっています。そ

のうちに、電波遮断構造の教室が普及することも考えられます。このようなことを考えなくてもよい社会を作る

には、どうしたらよいのでしょうか。

都丸敬介(2002.12.9)

 

なんでもマルチメディア(284):Lモード

 NTT東西が提供しているLモードのユーザー数が、10月末時点で27万になったそうです。Lモ

ードは携帯電話のiモードサービスの固定電話版です。iモードのユーザー数と比較すると、7万

という数は微々たるものですが、9月のユーザー数と比べて2万増えたということですから、そろそ

ろ効用が認められるようになったのかもしれません。

 携帯電話が急速に増え始めたときの大きな推進力の一つは、電話機の販売競争でした。

現在、Lモードに力を入れている企業にFAXメーカーがあります。FAXメーカーは、個人ユーザ

ー向けFAXの付加価値としてLモードを重視しています。FAXにLモード機能を組み合わせる

ことの良さは、端末のディスプレイに表示した情報コンテンツをすぐに印刷できることです。Lモー

ド機能付きFAXはメールのやりとりもできます。

 NTT東日本の資料によると、Lモードの情報提供サイト数は、行政サービスが116、マネーが

70、交通・旅・レジャーが62、買い物が60、エンターテインメントが57などとなっています。これら

の数を多いと見るか少ないと見るかは、ユーザーの判断によりますから、単純に評価はできませ

んが、パソコンや携帯電話機のiモードの操作に抵抗を感じている人たちにとっては便利なツー

ルです。

 半年ほど前、定年退職した人から、メールのやりとりをしたいのだけれど安くて便利な端末は

ないかという相談を受けて、Lモード機能付きFAXを推奨したことがあります。パソコンアレルギ

ーをもっている人たちで、Lモード研究会のようなことを始めると楽しいかもしれません。

都丸敬介(2002.12.2)

 

なんでもマルチメディア(283):五感通信

 2002年11月23日の朝日新聞朝刊の第1面に、「香り・手触りも通信」という見出しで、

NTTの中・長期構想が紹介されました。この見出しに関係する説明は、「識別センサーで感

知した香りやモノの手触りをディジタル信号化し、離れた場所でも専用装置で再生できるよう

にする」という内容です。これは、次世代通信ネットワークで実現しようとする、新しいアプリケー

ションの例に過ぎません。

 同じ日の日本経済新聞の記事には、「ブロードバンドの新通信基盤を構築する方針を固め

、11月25日に発表する、NTTグループのサービス構想の中に盛り込む」とあります。

 ヒトの五感をフルに活用する、遠隔情報伝達の研究の歴史は長く、多くの成果があります。

そして、比較的大きなコストをかけられる分野では、すでに利用できることがあります。このよう

な新しいアプリケーションが、すぐに産業活性化の起爆剤になるとは思えませんが、ブロードバン

ド通信基盤の構築は、大きな経済効果をもたらすと考えられます。

 FTTHやADSLユーザーの増加にともなって、IPネットワークによる短編映画や放送番組の配

信が具体的になってきました。しかし、現在のIPネットワークは、本格的なブロードバンド情報

流通基盤としては力不足です。10年ほど前までは夢だった、多くのブロードバンド・アプリケーシ

ョンを実現できる通信基盤技術が、研究レベルではすでに実用の段階に達しているのですか

ら、今回のNTTの構想が、単なる夢物語ではなく、社会を変える原動力になることを期待します。
都丸敬介(2002.11.25)

 

なんでもマルチメディア(282):仮想ネットワーク

 最近、広域通信ネットワークと、企業などの構内ネットワークの両方で、仮想ネットワークの

構築と利用が急速に増えています。仮想ネットワークは、多数の利用者が共用するネットワー

ク設備を使って、特定の利用者だけで通信を行うようにしたものです。

 広域通信ネットワークの分野では、従来は専用線サービスを利用していた企業などが、IP-

VPN(インターネット・プロトコル仮想私設網)という名称の仮想ネットワーク・サービスに切り替

える事例が増えています。

 構内ネットワークの分野では、1つのLAN(ローカル・エリア・ネットワーク)を、複数のVLAN(

仮想LAN)に分割して、情報の安全保護機能を高めているケースが増えています。

 去る10月20日に実施された、経済産業省主管の、情報処理技術者試験:テクニカルエン

ジニア(ネットワーク)試験でも、この分野の問題が大きく扱われました。仮想ネットワークの考え

方は1970年代からあり、1980年代には、パケット通信ネットワークと公衆電話ネットワークの

両方で実用化されましたが、利用はあまり普及していません。この時代の仮想ネットワークと新

しい仮想ネットワークは、実現技術や利用方法が違いますが、基本的なコンセプトは共通して

います。 ネットワークシステムの構築や運用を行っている、第一線の技術者の話を聞くと、個

々の仮想ネットワークの扱い方を知っているけれども、その背後にあるコンセプトや長所・短所

を把握していないと感じることがよくあります。

 こうしたことは、あらゆる分野の教育に共通する現象かもしれません。

都丸敬介(2002.11.18)

 

なんでもマルチメディア(281):半常時接続

 インターネットの常時接続ユーザー数が急増していることが頻繁に報じられています。常

時接続ユーザーが増えることによって、新聞や雑誌の定期購読のように、契約者に電子的

に情報をプッシュ型配信するサービス事業が本格化します。

 これまでは、常時接続ができるのは、有線接続ユーザーに限られていましたが、無線接

続ユーザーに対しても、プッシュ型情報配信ができるシステムが生まれました。

最近実用になったシステムの一つは、完全な常時接続ではありませんが、情報提供側か

ら、ユーザー端末を起動して情報を配信するものです。

 具体的にはPDA(携帯情報端末)と、カード型PHSを組み合わせたものです。

カード型PHSは、電話機ではなく、データを送受信する無線回線モデムとして機能します

。PDAの電源が切れている状態でもPHSの呼出ができるので、情報提供者は、先ずPH

Sを呼び出して、PDAの電源を入れるように指示を送り、PDAが情報を受信できるように

なったら、情報の本体を配信するという仕掛けです。

 同じ仕掛けで、パソコンに対するプッシュ型情報配信ができるはずですが、多くのパソコン

には厄介な問題があります。それは、電源を入れてからの立ち上がり時間が大きいことです

。インターネットの常時接続サービスが始まった頃、これでダイヤルアップ接続にかかる時間

が大幅に減るという説明が盛んに行われましたが、実際はダイヤルアップ接続よりも、パソコ

ンの立ち上がり時間や、データ送受信準備時間のほうがはるかに大きいのです。パソコンの

立ち上がり時間が数秒に短縮できると、有線接続でも、ユーザーパソコンを遠隔操作で起

動して、情報を配信できるようになります。このあたりは、これからの発展が大いに期待でき

る分野ですが、そのためには、パソコンメーカーの発想の転換が必要です。

都丸敬介(2002.10.28)

 

なんでもマルチメディア(280):ICT

 10月23日に開かれた電信電話記念日祝典のNTT社長挨拶の中で、「最近開かれた国際

的な経営者会議で、ICTという言葉が盛んに使われていた」という話がありました。

 ICTはインフォメーション・コミュニケーション・テクノロジー(情報通信技術)の略です。1990年

代後半から盛んに使われてきたIT(情報技術)が色あせてきたので、Cを加えて新鮮さを出した

のかもしれません。

 情報と通信を組み合わせた造語にテレマティクス(telematics)があります。これはフランス語の

電気通信(telecommunication)と情報処理(informatique)を組み合わせたものです。具体例

として、1980年代に実用化された、現在のインターネット利用方法の先駆けと言えるビデオテッ

クスがあります。情報通信関係の学会でテレマティクス研究会が開かれるなど、この言葉はか

なり使われましたが、その後存在感が薄れてきました。ところが、最近は自動車業界で使われ

るようになりました。自動車業界ではITS(高度道路交通システム)のような自動車向けの情

報提供サービスをテレマティクスと呼んでいるようです。ICTよりもテレマティクスのほうが分かりや

すいと思いますが、政治や経済の分野にまで浸透するには難しい言葉かもしれません。

 米国でクリントン政権が発足して間もなく、NII(National InformationInfrastructure、全米

情報基盤)計画が発表されて、全米規模の高速コアネットワークが整備されました。NII計画

は情報流通基盤の光ファイバー化が日本に遅れることの危機感から生まれたと言われていま

す。日本の情報流通基盤はかなりよく整備されています。これを効果的に活用して産業の活

性化につながる政策が、ICTの名のもとで生まれることを期待します。

都丸敬介(2002.10.28)

 

なんでもマルチメディア(279):サービスカバー率

 NTTドコモが発表した、第3世代携帯電話FOMAサービスの展開計画によると、人口カバ

ー率が2003年3月に90%、2004年3月に97%になるとしています。現在の携帯電話の

人口カバー率はほとんど100%になっていると思われますが、「電波が届かないと思われるの

でつながらない」ことがかなりあります。

 携帯電話とのサービス競争で敗北したグローバル衛星携帯電話事業者は、人口カバー率

ではなく、地球上の面積カバー率を強調しています。どちらのカバー率を強調するかで、それぞ

れの特徴がはっきりして、相互補完関係がわかりやすくなります。

 人口カバー率と面積カバー率は携帯電話だけでなく、多くのサービスに当てはめることができ

ます。収益を重視する企業は人口カバー率を重視するでしょう。サービスの種類によっては、人

口カバー率が80〜90%を超すと急速に収益性が悪くなります。仮に人口カバー率80%で

拡張を打ち止めにしたとすると、残りの20%をどうするのかということは興味深い問題です。

 米国のCATV普及率が日本よりもはるかに大きいのは、国土の広さの違いによる、テレビジョ

ン放送の地上中継ネットワーク面積カバー率の差が大きく影響しています。このことを示す一

例として、衛星テレビジョン中継が始まった時代に、多数の衛星地球局設備を用意して、受

信した番組をケーブルで分配したことが、CNNの出発点だったことを思い出します。

 不況の中で、テレビやインターネットを情報媒体とする通信販売の売り上げが増えているとい

うことですが、この現象もサービスカバー率と関連づけられると思います。

都丸敬介(2002.10.21)

 

なんでもマルチメディア(278):たくましい日本人

 過日カナダ旅行をしたとき、海外でたくましく生きている一人の日本人女性に出会いました。

Kさんはモントリオールでガイド会社を経営している社長さんです。

 彼女は若い頃、フランスのシャンソンとイタリーのカンツォーネに引かれ、元の歌詞の意味を知

りたいとフランス語の勉強を始めました。そして、1ヶ月ばかり、イタリーとフランスを旅行し、日本

で勉強したフランス語が日常生活では役立たないことにショックを受けて、パリに住むことにしま

した。

 パリ生活14年の間に、スーダン出身のご主人と結婚して、子供さんも生まれました。その後

ご主人の転勤でカナダに移住してから8年たちました。カナダに移住してからガイドの仕事を始

めて、会社を作りました。

 今は日本人観光客が最も多い忙しい時期なのですが、私たち夫婦のために自らガイドを引

き受けて、丸一日、ガイドブックにない穴場を案内して下さいました。ただし、Kさんの会社の標

準観光ルートをまわっただけではなく、新観光商品開発の情報収集と現地調査をさりげなく

実施していました。

 日本からの観光客は紅葉の時期の1ヶ月に集中し、あとの11ヶ月は非常に少ないので経

営が大変だということですが、観光以外にも産業調査や学会参加者の案内の仕事があるよう

です。こうした仕事にはある程度の専門的な予備知識が必要ですが、インターネットと電子メ

ールで、日本の情報が簡単に手にはいるようになったので助かっているということです。

 海外で働いている日本人ガイドの話は、小説などにもよくでてきます。かなり曖昧な生き方を

している人に出会ったこともありますが、Kさんの行動力と責任感の強さには感心しました。

都丸敬介(2002.10.15)

 

なんでもマルチメディア(277):カナダの紅葉

 9月下旬から10月上旬にかけて、カナダ東部の紅葉見物に行って来ました。お目当てはカ

ナダ国旗に描かれている鮮やかな赤のメープル(かえで)です。最近数年は温暖化のために紅

葉が遅れ気味だという情報を入手していたので、いくらか遅めの時期を選びましたが、それでも

なお数日早かったようです。

 「モントリオールの北に広がるロレンシャン高原は日本人観光者の人気が高まっているけれど

も、忙しいのはこの時期の一ヶ月だけ」というのは、モントリオールでガイド会社を経営している

日本人社長さんから聞いた話です。ロレンシャン高原は高い山があるわけではなく、百km以

上も緩やかな起伏が延々と連なり、それが全部紅葉しているという感じです。

 以前、オタワの国会議事堂の庭で国旗と同じ色のメープルの紅葉を見たことがあるので、メ

ープルはみな深紅になるのかと思っていましたが、オレンジや黄などいろいろな色があることを知

りました。メープルの種類は非常に多く、種類によって色が違うのだそうです。

 ロレンシャンの紅葉は遠くから見るのがよく、一本一本の木や一枚一枚の葉を近くで見るに

は、モントリオールの東南方向にある、米国との国境付近がよいというので、案内していただき

ました。この地方は牧場や湖畔のしゃれた小さなホテルがあり、スイスのような雰囲気です。

 ついでに「赤毛のアン」の舞台になったプリンス・エドワード島に足を延ばしました。ロブスター、

ムール貝、ホタテなどの海産物が豊富で、みな素晴らしい味です。

とくにジャガイモの名産地だというだけに、ポテトチップスは絶品でした。

都丸敬介(2002.10.6)

 

なんでもマルチメディア(276):モバイルコマース

 過日、インターネット上のショッピングモールを経営している大手事業者の、携帯電話ユーザ

ーを対象とするモバイルコマース事業について話を聞く機会がありました。面白い内容だったの

で、話の中のいくつかのことを紹介します。

 このモバイルコマースは、既存のショッピングモールを携帯電話ユーザー向けに拡張したもので

す。ユーザー端末が携帯電話機なので、普通のパソコンと比較して、表示画面の大きさや操

作性が違います。また、携帯電話サービス事業者によって、モバイルデータ通信の方式が違い

ます。そこで、商品を提供する出店者は、標準様式にパソコンでデータを入力すればよいように

しました。後は、それぞれの通信事業者の方式に合わせて、このモバイルコマース事業者が自

動変換して整合をとっているということです。

 この事業の最初の利用者層として狙ったのは、10代後半から20代後半までの女性。この

ことが、出店者の選択、扱う商品、そして、代金決済の方法に影響します。

代金決済方法は、クレジットカード、銀行振込、商品配達時の代金回収などがあります。代

金決済方法の多様化はユーザーにとって好ましいことです。既存のショッピングモール利用者と

比較して、クレジットカード利用者の割合が少ないということですが、若年利用者が多いことの

表れかもしれません。

 利用者が注文書を送ったときに、すぐに受注確認の返事を出すことが、出店者と利用者の

間の信頼関係を築くための最重要事項だという指摘は、モバイルコマース以外にも当てはまり

ます。 修学旅行の学生が、土産物を買った店に、帰路の列車の中からモバイルコマースで追

加注文をした例があるとのこと。今の時代の新しい行動様式の一つといえます。

都丸敬介(2002.9.22)

 

なんでもマルチメディア(275):セマンティック・ウェブ

 インターネットの世界では次々に新しい言葉が生まれています。最近目についた言葉の一つ

に「セマンティック・ウェブ」があります。セマンティックの意味は「意味に関する」ということで、これ

と対照する言葉に「構文に関する」という意味のシンタックスがあります。

 セマンティック・ウェブは、情報検索のキーワードの背景にある意味を解釈して、適切な情報

に到達するということのようです。たとえば、一つの単語が全く異なるいくつかの意味を持っている

ときに効果があります。

 セマンティック・ウェブという言葉が生まれる前から「コンテンツ検索」の研究が行われています。

コンテンツ検索は情報の内容を表すキーを使って、適切な情報を探す方法です。たとえば、ビ

デオオンデマンド・サービスの利用者が見たい映画を探すときに、映画のタイトルではなく、「こん

な内容の映画」という指定をする方法です。音楽のタイトルが分からないときに、メロディーを口

ずさんで、そのメロディーに一致する曲を探すのもコンテンツ検索です。インターネットを利用する

映画や音楽あるいは絵画などの情報流通が本格化すると、コンテンツ検索の効果が一段と

大きくなります。

 セマンティック・ウェブの研究では、意味検索を実行するソフトウェア・エージェント、つまり人に

代わって検索を実行するソフトウェアの実現方法に力が入っているようです。扱いやすいコンテ

ンツ検索の実現手段としてセマンティック・ウェブの技術が役立つようになることを期待していま

す。都丸敬介(2002.9.15)

 

なんでもマルチメディア(274):ブロードバンドアクセスサービス

 ハンドレッドクラブの事務局をしているBINETから「ブロードバンドサービス最前線セミナー:ラ

ストワンマイルへの挑戦」の開催案内をいただきました。

 「ラストワンマイル」は通信ネットワークの事業者とユーザーをつなぐ末端の部分という意味で

すが、ユーザーから見ると、情報通信ネットワークにアクセスする最初の部分の意味で、「ファ

ーストワンマイル」という言葉も使われています。

 BINETのセミナーでは3つの事例を紹介するということですが、ブロードバンドサービスのビジ

ネスモデルにはいくつかの注目するポイントがあります。一般に、ビジネスモデルはサービスを提

供する企業側の収益論理が優先します。これは当然のことですが、これに加えて、ネットワー

ク事業ではサービスの永続性が重要です。ネットワーク事業者には、少なくとも10年は継続

してサービスを提供する企業倫理が求められます。

 一例として、最近のADSLサービス事業にはこの点で歪みが見られます。「ADSLサービスは

変化や不確定要因が多いから、モデムは買い取りではなくレンタルにするのがよい」といった解

説を目にすることがありますが、この背景にはユーザー不在のビジネスモデルがちらついていま

す。 最近は、ブロードバンド、常時接続、固定料金の3点セットが当たり前のこととされてい

ますが、これら3項目は独立項目です。固定料金はヘビーユーザーにとっては割安感がありま

すが、従量制料金にすると料金管理コストが高くつくという事業者の事情もあるようです。ネッ

トワーク事業者が、真の情報流通事業者として、いろいろな料金体系のオプションサービスを

どのように提供するのかということについても興味があります。

都丸敬介(2002.9.3)

 

なんでもマルチメディア(273):ブラウジング

 インターネットの大衆普及に貢献した重要な項目の一つが、ブラウザによる情報検索および

表示技術です。けれども、現在のブラウザの情報検索方法は、1970年代のデータベース検

索方法と基本的にはほとんど変わっていません。

 ブラウザという言葉が目に付くようになった1990年代初期に期待したブラウジングの方法は,

キーワード検索やツリー状の階層構造検索だけではありませんでした。英語の辞書を見ると、

ブラウズの意味は「本の拾い読み、ざっと目を通すこと」などと書かれています。

 調べたいことや知りたいことの明確な目的意識なしに、なんとなく本をぱらぱらめくっていると

きに、思わぬ発見をすることがよくあります。このようなブラウザが出てくることを期待していまし

たが、ようやく現実的な可能性が出てきたようです。

 最近の新聞報道によると、NECの研究所が実用化を目指している技術では、PDA(携

帯用情報端末)を使って、雑誌のページをめくる感覚で情報にアクセスでき、その速度は1

秒間に3ページ程度になるとのことです。情報の種類によっては1秒間に3ページではまだ遅

いかもしれませんが、第一段階としては妥当な性能と言えるでしょう。

 ITに期待する基本的なことの一つは、永年体験してきた感覚との整合性が良いことです。I

T技術やサービスが使いにくいという批判の多くは、感覚的になじみが悪く、操作方法を押し

つけられていることに起因します。インターネットはこう使うのだと強制されるのではなく、このよう

に使いたいというユーザーの希望を実現する方向に発展することを期待してきましたが、少し

光明が見えたように思えます。

都丸敬介(2002.8.26)

 

なんでもマルチメディア(272):ライフサイクルアセスメント

 猛暑、洪水、干ばつなどと、地球環境の異常状態が一段と激しくなっています。こうした中

で、情報通信の分野でも環境アセスメントの調査研究が活発になってきました。ある文献で

は<ライフサイクルアセスメント(LCA)>を「製品やサービスの生涯(ライフサイクル)にわたっ

て環境へ与える影響を評価(アセスメント}する手法」としています。

 情報通信技術の効果的利用によるエネルギー消費量の節約については、1990年代初期

から活発な議論が行われてきました。具体的には、テレビ会議の利用やテレコミューティング(

在宅勤務)による、ガソリンを始めとする交通手段のエネルギー消費量の削減効果の研究

報告が多数発表されています。

 こうした中で、一方ではエネルギー消費量を増やす情報通信サービスが拡大しています。最

も目立つのがインターネットの常時接続です。サービス提供事業者は常時接続と定額料金

をセットにしているので、月額料金が安いと期待される常時接続サービスを多くのユーザーが

選んでいますが、常時接続と料金の定額制は独立に決められることです。

 常時接続サービスを利用すると、ユーザーはいつでも即時にインターネットにアクセスできる

ので便利だという説明はそのとおりですが、ダイヤルアップ接続になぜ時間がかかるのか、その

時間を不便と感じない程度まで短縮できないのか、といったことの説明がほとんどありません。

電話回線を利用してインターネットにアクセスするときにかかる時間を見ていると、サービス事

業者(ISP)に電話回線がつながるまでに2秒程度、モデムの伝送速度を回線の状態に合

わせて設定するのにかかる時間が10数秒、IP(インターネットプロトコル)アドレスをユーザー

に割り当てるのにかかる時間が10数秒となっています。さらに、インターネットにアクセスするた

めにパソコンを立ち上げると、それに数分かかります。これらの時間を短縮する努力をしないで

、常時接続というエネルギー消費を増やす方法を安易に取り入れることは問題です。

 ユーザーが快適に利用できる非常時接続サービスの早期普及が必要です。

都丸敬介(2002.8.18)

 

なんでもマルチメディア(271):ビール

 今年の夏のように厳しい暑さが続くと、あまりアルコールに強くない身でも、ついつい冷蔵庫

の中からビールを取りだしてしまいます。ビールを飲んでいると、旅先で味わったいろいろなビー

ルを思い出します。多くの人がそれぞれにビールについての経験や想い出をもっているのではな

いでしょうか。

 ビールといえばなんといってもドイツのミュンヘンです。巨大なビアホールの中を、ウェイトレスが

重さを感じない(ウェイトレス)かのように、1リットルのジョッキを10個、軽々と持ち運ぶ様子

は見事です。ミュンヘンには色や味が違う多種類のビールを揃えているレストランもありますが

、あちこちでコーラスやダンスが始まる、にぎやかな大ホールのほうが印象が強いことはいうまで

もありません。

 最近の新聞によると、フランスでもワインよりもビールを好む人が増えているようですが、ワイン

王国のフランスやイタリーで目に付くビールは外国ブランドが多いような気がします。銘柄に関

係なく、ビールの味わいはそれを飲む場所の気候に影響されるようです。イギリスのパブで飲む

ビールはなま暖かくて美味しくない、という解説をガイドブックで目にすることがありますが、その

ようなことを経験したことはありません。パブの片隅や英国的な美しい中庭でゆっくり味わうビ

ールはいいものです。

 アラモの砦で有名な米国テキサス州サンアントニオで市内観光バスに乗ったとき、最後の訪

問場所が地元銘柄のビール工場でした。日本でもビール工場を見学すると、最後に無料で

ビールが振る舞われますが、テキサスの暑い町を見学した後のビールの味は格別でした。暑い

場所といえば、スペインの公園で、ビールとレモネードを半々に割る飲み方を、若者から教え

て貰いました。皆さんも試してみることをおすすめします。

都丸敬介(2002.8.4)

 

なんでもマルチメディア(270):ブロードバンドサービスの料金

 「ブロードバンド」という言葉がはっきりした定義がないまま定着しました。1980年代後半に、

将来のマルチメディア情報流通基盤としてのブロードバンドISDNの研究が始まり、1990年代

後半に、インターネットユーザーのアクセス回線速度の高速化に特化したブロードバンドサービ

スが始まりました。後者については、[ブロードバンド=常時接続=定額料金]という図式が

なんとなく出来上がりました。伝送速度、接続形態、および料金体系はお互いに独立なこと

ですが、これらを密接に関連づけたことは、既存の電気通信サービスの常識を大きく変える

画期的な発想と言えます。

 いま、多くの人たちがブロードバンドネットワーク時代のキラーアプリケーションを真剣に探して

います。そして、ピアツーピアのビデオストリーミング、ビデオオンデマンド、多地点会議、対戦ゲ

ームなど、従来のインターネット利用とは異なるアプリケーションが始まっています。また、ブロー

ドバンドアクセスユーザーに対する低料金の電話サービスも始まっています。

 これらのサービスが数十年あるいはそれ以上の長期間にわたって安定して提供されるかどう

かということは、料金体系に大きく依存します。従来の通信サービスは、通信時間や伝送した

データ量など、通信料金計算の基礎になるデータの種類を決めることが容易であり、利用実

績データを収集して料金計算を行う設備が充実しています。

一方、これから発展する多様なブロードバンドサービスは、なにを通信料金の基本としたらよ

いのかはっきりしていません。その上、利用実績のデータを収集するシステムを整備して運用

するには大きなコストがかかります。つまり、定額料金制度は運用コストを抑制する効果的な

方法なのです。ただし、ユーザー間の負担の不公平さは拡大します。

 ブロードバンドサービスの料金のあり方は、これからの重要なテーマであり、ユーザーも大きな

関心をもつ必要があります。

都丸敬介(2002.7.29)

 

なんでもマルチメディア(269):見えない研究成果

 通信事業分野では、ADSL、FTTH、IP電話、無線LANなどの新しい話題が次々に生ま

れていますが、これらの話題の中で、日本の通信事業者やメーカーの研究成果がどれほど

活用されているのかさっぱり見えません。基礎研究が重要なことはいうまでもありませんが、基

礎研究だけが研究ではありません。いろいろな要素技術を組み合わせて、社会に貢献する

システムとしてまとめ上げる研究も重要です。情報通信分野でも、日本の企業が応用システ

ム研究に大きな研究費を投じていて、多数の優れた研究者がいるにも関わらず、その研究

成果が見えるように説明されていないことは、研究者、企業、さらには国として不幸なことで

す。 高度の技術分野の研究成果を誰もが分かるように説明するのは難しいことかもしれ

ませんが、専門的な研究論文や学会で発表するだけではなく、一般の新聞や雑誌で「この

技術はどの組織の研究成果で、世の中にこのように貢献している」といったことを紹介すべき

です。一流出版社の専門雑誌にも、このような研究成果を評価する記事はほとんどありませ

ん。ときたま、新しいシステムや製品の解説があっても、大部分は研究開発した企業の人が

書いたものです。技術内容の正確さという意味では当事者が書くことの意味がありますが、よ

り客観的に、長所と短所を分析した解説が果たす役割が大きいはずです。

 外国で開発された技術や製品が優れているのなら、それを素直に受け入れることも大切で

す。しかし、最近はあまりにも日本の研究成果の情報が軽視されているように思えます。天狗

になる必要はありませんが、日本で生まれた研究成果が実際にどれだけ世界で利用され、

評価されているかということを具体的に示すことは、沈滞気味の社会に元気と刺激を与える

ことになるでしょう。

都丸敬介(2002.7.21)

 

なんでもマルチメディア(268):IP電話

 今朝(2002年7月14日)の日本経済新聞の社説のタイトルは「IP電話普及には競争

と入念な準備を」でした。一般新聞の社説で先端技術の内容を解説するのは好ましい

ことですが、肝心なことで不正確な記述があります。この社説の文章の一部を引用します

。「IP電話はインターネットの通信手順(IP)を使って音声をデジタル情報として交信する技

術。一般のアナログ電話と違い、音声情報を圧縮できるため、通信コストを大幅に抑えこ

とができる。」 アナログ音声信号をデジタル信号に変換して伝える技術は1960年代から

導入されて、現在の電話中継網はすべてデジタル化されています。そして、企業の広域

内線電話システムなどでは、電話1回線のデータ伝送速度を、基本的な国際標準の

64kビット/秒の8分の1に圧縮した8kビット/秒の方式が広く使われています。IP電話

システムでは音声品質の劣化を防ぐために、データ圧縮をしないで64kビット/秒のデジ

タル音声信号を使っている例があります。

 光ファイバー通信技術の急速な進歩のおかげで、1980年代以降20年の間に、長距離

回線で同じデータ量を伝送するのにかかるコストが100分の1以下になったという報告があ

ります。長距離電話の伝送コストだけが電話料金の支配項目なのであれば、IP電話で

なくても料金体系を大きく変えることができるはずです。

 IP電話サービス提供事業者は、既存の巨大な電話サービスに入り込むことでかなりの

収益を得られるでしょうが、IP電話の本質は、既存の電話システムでは実現が難しい、マ

ルチメディア指向の新しい情報流通サービスを実現しやすいことにあるはずです。既存サ

ービスの料金競争も結構ですが、新しい市場の開拓に積極的に取り組むべきであること

を社説では強調して欲しかったと思います。

都丸敬介(2002.7.14)

 

 

なんでもマルチメディア(267):パソコンクラブ

 毎週2−3日遊んでいる小さなテニスクラブで、60才代のメンバーからパソコンの楽しみか

たを教えて欲しいという話が持ち上がりました。現役引退後パソコン教室に通ったり、子供さ

んが用意したパソコンを使ってインターネットの情報サーフィングをしているので、パソコンが共

通の話題になっているのですが、のめり込める楽しみかたが分からないというのです。

 そこで、写真の加工を始めることにしました。パソコンと写真というと、デジカメで写した写真

を電子ファイルの上で整理したりプリントするというのが一般的ですが、プリンとされた写真をス

キャナーで取り込んで、複製したり数枚の写真を一つの画面の上で編集することを始めまし

た。メンバーの皆さんがどのような反応を示すのか、多少の不安がありましたが、スタートは上

々です。

 最近お嬢さんが結婚したメンバーの一人は、結婚式の写真を複製して大喜びです。

結婚式場で焼き増しを頼むと一枚数千円かかるのに、A4サイズの写真画質プリントを2百

円程度で作れることは大発見だったわけです。グループで観光旅行に参加したとき、記念の

集合写真を一枚だけ買って、あとで複製したものを皆で分け合っている人たちがいるという話

の意味を、皆直感的に理解できたようです。

 私自身は、旅行先で写した大量の写真の中から選んだものを組み合わせて、絵日記風に

メモを書き込んで整理しています。このためのツールとして、講義用スライド作成に使っている

パワーポイントというソフトウェアを使っています。こうしてスライド20枚程度に編集したある海

外旅行の写真をメンバーに見せたところ好評でした。

 今、テニスクラブのメンバーはスキャナーの使い方と、パワーポイントを使った写真集の編集

方法を熱心に勉強しています。

都丸敬介(2002.7.8)

 

なんでもマルチメディア(266):市場規模

 最近の中国の家電製品産業を紹介したテレビの番組で、勤労者の平均年収の数年分

に相当する高額商品が飛ぶように売れているという説明がありました。その理由の一つとして、

確かに平均収入は少ないけれども、高額所得者の数が非常に多いということを、成功した

中国人経営者が指摘していました。

 この番組を見て、1980年代に経験したことを思い出しました。それは、私が司会を頼まれた

ある国際会議での、インド人の講演者とのやりとりです。当時日本で始まった、ISDNを基盤

とする新しい情報ネットワークシステムの大規模実験について、同じような実験をインドで計

画できるかどうかという質問に対して、その講演者は次のように答えました。

 「インドは貧しい国で、たしかに国民の所得は少ない。しかし、インド人の10%は大変な金

持ちだ。つまり、7千万人は平均的な日本人よりも収入が多い。だから、日本と同じようなこ

とをやろうと思えばできないことではない。」

 この説明は今でも印象に残っています。同じような説明を、20年後の今、中国について聞

いたわけですが、日本企業の経営者やビジネスマンのどの程度の人がこうしたことを意識して

行動しているのか気がかりです。

 中国やインドのように、潜在的な巨大消費者市場を国内に持っている国がある反面、国

内市場が小さい先進国も少なくありません。携帯電話で欧州を席巻し、日本でも知名度を

高めている、フィンランドのノキアやスウェーデンのエリクソンは、国内市場規模が小さいので、

新製品開発を行うときは、最初から欧州市場を想定していることが、以前からよく知られてい

ます。日本企業はどのような市場戦略をもっているのか、最近だんだん分かりにくくなってきた

ように思えます。

都丸敬介(2002.6.30)

 

なんでもマルチメディア(265):cdma2000

 この雑文をホームページに掲載しているハンドレッドクラブの例会(2002年7月16日(火)

18時から)で「cdma2000によるモバイルマルチメディア戦略」というタイトルの講演があります。

そこで、予備知識としてcdma2000のことを説明します。

 cdma2000は第3世代携帯電話技術の一つで、米国で開発されたものです。CDMAは「

符号分割多元接続」の略語で、一つの無線周波数を複数のユーザーが同時に使って通信

を行う技術です。第3世代携帯電話技術の国際標準であるIMT-2000の実現技術には複

数の種類があります。KDDIのau携帯電話サービスで採用されたcdma2000は多搬送波

(CMA(MC-CDMA)という方式で、NTTドコモが採用した直接拡散CDMA(DS-CDMA)とは

異なります。

 IMT-2000の特徴はデータ伝送速度が速いこと、つまり、昨今ブームになっているブロードバ

ンドサービスに対応することです。cdma2000には、1x、1xEV、1xEV-DO、1xEV-DV、3xと

いう各種の規格があり、それぞれが実現できる最大データ伝送速度は異なります。1xの最大

伝送速度は144kビット/秒です。

 ADSLや光ファイバーケーブルを使うアクセスネットワークの伝送速度は、すでに数Mビット/

秒から10Mビット/秒の領域に入っているので、第3世代携帯電話の伝送速度は遅すぎる

という指摘があります。そして、すでに第4世代携帯電話の技術開発が始まっています。

 限られた性能の携帯電話システムを使うサービス提供事業者が、ブロードバンドネットワー

ク時代にどのようなサービス商品戦略を展開するのか、これからが楽しみです。

都丸敬介(2002.6.24)

 

なんでもマルチメディア(264):シミュレーター

 コンピューターを使っていろいろなことを疑似体験する、シミュレーションシステムあるい

はシミュレーターの利用が急速に発展しています。飛行機や自動車の操縦シミュレー

ターは、効率がよい訓練手段として以前から使われていますが、最近は、医療分野の

手術シミュレーション、ゴルフなどのスポーツ・シミュレーション、軍事分野の射撃シミュレ

ーションなどの、新しいシミュレーションシステムが次々に開発されています。

 バーチャルリアリティー(仮想現実)の研究成果が、高級なコンピューターゲーム機械

などに活かされていますが、ゲームの世界だけではなく、現実の業務訓練に活用され

るシミュレーターの効果は非常に大きいといえます。

 コンピューター・シミュレーションは、ビジネスモデルの検証、LSI回路の設計、住まい

のインテリア設計など、広い分野で使われていますが、これらのシミュレーションと冒頭

で述べた体験型シミュレーターには大きな違いがあります。体験型シミュレーターでは、

目や耳などの頭の部分にあるセンサーだけではなく、手足や体が感じる触覚あるいは

重さの感覚が重要な要素になります。こうした体感を伴うシミュレーション技術は、まだ

初歩的な段階にあり、多くの研究が必要です。

 劇画的なバーチャルリアリティーではなく、現実を忠実に模擬するシミュレーターを低

価格で実現できるようになると、応用分野がさらに広がって、大きな産業に発展する

可能性があります。たとえば、スポーツのイメージトレーニングをより現実的にするような

シミュレーターが考えられます。実際のラケットを振り回しながら、テニスの試合を疑似

体験できるシミュレーターが出現することを期待しています。

都丸敬介(2002.6.17)

 

なんでもマルチメディア(263):定点観測

 1980年代に、ISDN回線を利用するテレビ電話の応用について、いろいろな業界の人たちと

話し合い、夢を描いたことがあります。そのとき印象に残ったことの一つに、ファッション業界の

人から提案された「街角の定点観測」があります。ミラノやパリといった、ヨーロッパファッションの

中心地にカメラを設置して、撮影した画像を定期的に日本に向けて自動送信できれば、貴

重な情報を経済的に収集できるという内容です。私自身は実際のシステム構築にタッチしな

かったので、このようなシステムが実現したかどうか分かりませんが、最近は、インターネットを利

用する定点観測が広がっています。

日本経済新聞(2002年6月6日)によれば、環境省のホームページ「インターネット自然研

究所(http://www.sizenken.biodic.go.jp)」が「中央官庁のホームページとしては異例の人

気を集めている」そうです。全国の国立公園に設置された固定カメラから送られてくる写真を

定期的に更新するだけでなく、過去の写真を検索できます。まさに、定点観測映像です。以

前歩いたことがある場所の現在の写真は、いろいろな想い出を脳の奥から引き出してくれま

す。まだ行ったことがない場所の写真は、ガイドブックよりも強く、その魅力を見せてくれます。

 丹念に探せば、1980年代に描いた夢のような、外国の街角の定点観測写真が見つかる

かもしれません。ここまで書いて、1980年代に経験したもう一つのことを思い出しました。それ

は、米国の多チャンネルテレビジョン事業者を訪問したとき「朝から晩まで気象レーダーの映

像を流し続けているチャンネルに多くの固定視聴者がついている」という説明を受けて、感心

したことです。

都丸敬介(2002.6.8)

 

なんでもマルチメディア(262):メトロネットワーク

 最近、情報通信関係の雑誌などで「メトロネットワーク」関係の記事が増えてきました。メト

ロネットワークは「メトロポリタンエリアネットワーク」を縮めた言葉で、英語の略語ではMAN、

日本語では都市域網と書きます。

 MANという言葉と概念が生まれたのは1980年代の初期で、高速データ通信機能を実現

するLAN(ローカルエリア・ネットワーク、構内情報網)のサービス範囲を50〜100km程度の

範囲に拡大しようというものでした。

 1980年代後期から1990年代初期にかけて、米国各地の市内電話会社がMANの実用

性評価実験を大々的に行いましたが、実用サービスにはなりませんでした。しかし、MANの必

要性がないということではありません。

 ブロードバンドネットワークを実現する鍵は、ユーザーの情報通信機器をつなぐアクセスネッ

トワークの高速化です。現在急速にユーザーが増えているADSLは高速アクセスネットワーク

を実現する方法の一つですが、技術的に大きな弱点があるので、比較的寿命が短いのでは

ないかと見られています。高速アクセスネットワークの本命は光ファイバーを使うものです。

 メトロネットワークは、光ファイバー・アクセスネットワークの実現方法の一つです。情報流通

量が多いオフィスビル街では、すでにメトロネットワークが稼働しています。メトロネットワークの

利用は業務用コンピューターネットワークから始まっていますが、そのうちに住宅向けの高速ア

クセスネットワークにも使われれるようになるでしょう。

 メトロネットワークの実現方法はいくつかあります。技術の主導権争いがどこに落ち着くのか

、興味深いことです。

都丸敬介(2002.6.2)

 

なんでもマルチメディア(261):ステガノグラフィー

 情報隠ぺいの先端的な技術の一つにステガノグラフィー(steganography)というのがあります

。この言葉は辞書にも出ていない比較的新しい造語で、正確な定義ははっきりしていません

が、この分野の研究論文を読むと興味深いものです。

 ステガノグラフィーは、カバー繪と呼ぶありきたりの繪のなかに秘密のメッセージを隠す技術で

す。隠ぺいするメッセージの内容とカバー繪は何の関係もないので、繪を見ただけでは、その

中にどんなメッセージが隠されているのか分からないというものです。

 これを実現する基礎技術はディジタル透かしです。ディジタル化した画像やオーディオ情報

の不正流通や不正コピーを阻止して著作権を保護するために、ディジタル透かし信号を埋め

込む技術の開発が急速に進んでいます。ディジタル透かしを埋め込んだ画像やオーディオ信

号は普通に再生できますが、透かし検出技術を使って透かしデータを取り出すと、不正の検

出や不正者の追跡ができます。

 ステガノグラフィーでは、透かしの代わりに秘密メッセージを埋め込みます。こうした技術は両

刃の剣で、機密保護を目的とした通信のほかに犯罪行為にも使えます。

米国では、ポルノ画像を隠しメッセージとして埋め込んで配布したという、犯罪的行為がすで

に行われているという話があります。風景写真の中に目に見えないポルノ写真が埋め込まれ

ているとなると、取り締まるほうも大変です。

 埋め込まれたデータを検出する攻撃技術の研究や、埋込データがあることが分かってもそれ

を再生できないようにする、解読を防ぐ暗号技術応用の研究など、高度の数学理論を使っ

た研究がにぎやかになっています。多くの論文は数式の羅列で極めて難解ですが、提案され

た技術の特徴を理解すると、大きなビジネスチャンスが生まれるかもしれません。

都丸敬介(2002.5.19)

 

なんでもマルチメディア(260):コンピューターのアルバイト

 コンピューターの新しい利用方法が、研究段階から実用段階に入りました。1960年代に

始まったインターネットの研究目的は、離れた場所にあるコンピューターを利用することでした。

Aさんが持っているコンピューターでは処理できない仕事を、それができるBさんのコンピュータ

ーに頼んで処理をしてもらうということです。

 現在のインターネット利用方法は、世界中に分散しているいろいろな分野の専門家を探し

て、処理や情報提供を依頼するという形態です。したがって、それぞれの専門家に相当するコ

ンピューターは、かなり大きな処理能力が必要です。

 これに対して、新しい利用方法は、インターネットにつながっている多数のコンピューターを動

員して、一つの仕事を手分けして実行しようという考えです。専門知識が無くてもかまわない

から、時間が空いている多数の人をアルバイトとして集め、それぞれに仕事の方法を教えて一

つの仕事を全員でまとめあげることと同じです。コンピューター処理に必要なプログラムと処理

するデータを、インターネットを使って依頼者が送ることで、応募したアルバイトに対する仕事の

指示が終わります。アルバイトのパソコンは、依頼されたデータを処理した結果を依頼者に送

り返せばよいのです。

 このような仕掛けで暗号を解読する、世界規模の実験がすでに行われています。高性能の

スーパーコンピューターの計算能力では、何十年もかかると推定された暗号の鍵を探す問題

の解答を、多数のパソコンの余剰能力を使うだけで、数日で見つけたということで、大きな話

題になりました。

 最近の新聞報道によると、データ処理事業者が、数十万台から百万台の規模のパソコン

の余剰処理能力を利用する事業を計画しているということです。応募者にどの程度のアルバ

イト料が、どのような形で支払われるのかはまだ分かりません。

都丸敬介 (2002.5.12)

 

なんでもマルチメディア(259):円形劇場

 トルコ、ギリシャ、イタリーなど、古い文明が栄えた国では、多くの場所に円形劇場が残って

います。音響を増幅する機械がなかった時代に、多くの観客に声を届かせるために考えられた

、円形劇場の構造や建築材料を見ると、設計者の知恵には驚かされます。

 アテネの西南、大きな湾を挟んだ対岸にあるペロポネソス半島のエピダウロスの森の中にあ

る、紀元前4世紀に建設された円形劇場を見ました。すり鉢の底にある円形舞台を囲む、

同心円状の客席は55段あります。多くの円形劇場の客席は半円形ですが、ここは半円形

よりも大きく舞台を囲んでいます。近代の研究者の調査によると、人の耳の形状によく似てい

て、このことが優れた音響効果を生んでいるのだそうです。

 客席は補修されていますが、ほとんど元のままで、今でも夏には演劇が行われるということで

す。客席数は1万4千。かって、オペラ歌手のマリア・カラスがリサイタルを行ったときは、1万7

千人の観客が集まったといいます。人里離れた遺跡の劇場に、1万7千人もの人がどうやっ

て行ったのか、想像もつきません。

 どこの古代円形劇場も、客席は石段で、背もたれがないので、長時間の観覧は疲れます

スペインの古い石段観客席闘牛場で、闘牛を見たことがありますが、1段の高さが大きく、全

体としてかなり急傾斜で、しかも背もたれがないので、座っていて不安定な感じを受けました。

エピダウロスの劇場には、低い背もたれがついた、ごく少数の貴賓席がありました。この席には

誰が座ったのだろうかなどと考えると、夢が広がります。

 エピダウロスの劇場を見に行ったとき、いくつもの学生グループが、次々に円形舞台の中央

でコーラスをしていました。

都丸敬介(2002.4.22)

 

なんでもマルチメディア(258):ギリシャの春

 1週間ばかりアテネに滞在して、足の向くままにギリシャの町や遺跡を見てきました。

2004年のオリンピックに間に合わせるように、アテネ市内のあちこちの遺跡で修復工事が行わ

れています。修復といっても、2,500年前に建設されて、300年前に破壊された神殿の巨大な

石柱を立てるといった工事ですから、気が遠くなるようなことです。

 トルコでトロイの遺跡を発見したシュリーマンが、トロイと同様に、伝説を手がかりにして発見

したミケーネの遺跡は、アテネから100kmほどの山の中にありました。

人と神が共存した神話の時代の遺跡を見ていると不思議な気がします。ここで発掘された、

死者にかぶせた黄金のマスクはアテネの国立考古学博物館の目玉展示品で、博物館の正

面展示室の中央にあります。エジプトのツタンカーメンの黄金マスクと比べて荒削りな感じがし

ました。 ホテルに着いたとき、支配人差し入れの果物籠と丼一杯のピスタチオナッツが部屋

で待っていました。銀杏の実を小さくしたようなピスタチオは、100年前にシリアから持ち込まれ

たそうで、アテネから船で1時間半ばかりかかるエギナ島の特産品です。殻の先端が割れてい

るのが良いピスタチオで、殻の横が割れているのは、人工的に割れ目を入れたものだそうです

。こぶし大の実がなっているのに花が咲いているオレンジの木がありました。場所によっては、

夏と冬の2回オレンジを収穫できるということです。

 ギリシャワインの生産量の40%は松ヤニ入り白ワインのレッチーナだというので、何回か飲

みました。ちょっと癖がありますが、喉ごしがよくすっきりした感じです。普通の白ワインはイタリー

の辛口白ワインに似ています。食材はタコやエビを始めとして、日本人の舌によく合います。地

中海の魚介類は美味しいですね。

 タクシーの運転手が、最近は日本人観光客がめっきり少なくなったと嘆いていましたが、治

安がよく、清潔で、気楽に楽しめる国でした。

都丸敬介(2002.4.15)

 

なんでもマルチメディア(257):電話番号

 情報通信システムでは、eメールアドレス、ホームページアドレス、電話番号など、いろいろ

なアドレスを使っています。それぞれのアドレスは、識別対象が異なり、アドレスの表現方法も

異なります。ところが、それぞれのアドレスの識別対象が何かということになると、よく分からな

いことがあります。

 電話番号は誰でも知っている身近なアドレスですが、それが何を識別するのかということの

説明はかなり難しいのです。古典的な電話交換機では、交換機の回線接続端子の識別

番号が電話番号でした。ところが、今の電話交換機は構造が変わってきたことや、コンピュー

ターを利用していろいろな番号を作れるようになったことから、古典的な電話番号の説明が

通用しなくなりました。表面的には同じ番号体系を使っているけれども、携帯電話の番号と

固定電話の番号は識別対象が違います。

 通信事業者からみると、電話番号は料金を徴収するために必要な契約番号かもしれませ

ん。でも、ユーザーにはそのような感覚はありません。

 情報工学を専攻している大学生を対象とした講義で、電話番号はなにを識別するものか

と質問したところ、いろいろな解釈が飛び出してきました。それまで、誰も考えたことがなかった

ようでしたが、番号とは何かということが、電話の仕組みを理解するのに大いに役立ったようで

す。


都丸敬介(2002.4.1)

 

なんでもマルチメディア(256):使いにくいインターネット放送

 インターネット放送のメニューがかなり増えました。幾つかのテレビ放送局が、放送済みのニ

ュースを流しているほか、娯楽や音楽の番組もあります。比較的新しいパソコンなら、どれで

もインターネット放送を受信できるようですが、通常のホームページを見るように簡単に視聴で

きるかというと、そうはいきません。

 放送局に相当する情報提供者毎に、欲しい情報にたどり着くまでの手続きや再生方法が

違います。インターネットユーザーの裾野が広がるほど、パソコンの操作が簡単になることが求

められますが、現状では、視聴を試みた多くのユーザーがあきらめるのではないかという感じが

します。

 以前、「ポンパ」というニックネームのテレビ受像機が人気を集めたことがありました。電源ス

イッチをポンと入れると、画面がパッと出るということから生まれた名前のようですが、ユーザーの

心理をよくつかんだ製品コンセプトといえます。

 世界中の放送局にアクセスできるような、インターネット放送の普及を切望していますが、

実現には時間がかかるようです。ユーザー毎にインターネットを利用する回線の伝送速度が

違うという厄介な問題がありますが、これは、光ファイバーネットワークが普及すれば解消する

ことです。けれども、手軽な操作方法の実現と標準化は簡単ではありません。一人のユーザ

ーとして見ていると、ハイレベルのユーザーを対象にした技術誇示型の開発が先行して、大衆

を対象とする開発が進んでいないように思えます。

 ITだ、ブロードバンドだ、という言葉が氾濫していますが、現在のインターネット放送は、半世

紀前にテレビジョン放送が始まった時代と比べて、ユーザー指向の姿勢が欠けているのではな

いでしょうか。

都丸敬介(2002.3.18)

 

なんでもマルチメディア(255):カラスの巣作り

 2週間ほど前から、我が家の庭にある高さ10メートルばかりのアンテナ塔のてっぺんに、カラ

スが巣作りを始めました。小指ほどの太さの、30センチから50センチの長さの枯れ枝を持っ

てきて、アンテナの棒に乗せているのですが、風が吹くとすぐ落ちてしまいます。巣が完成したら

厄介なことになるかもしれないという思いと、どんな巣ができるのだろうかという好奇心で毎朝

見ていますが、いっこうに完成する気配がありません。

 カラスは頭が良いということですが、本当かどうかは分かりません。ただ、辛抱強く執着力が

あるように思えます。今まで家の周囲でカラスの巣を見たことがなかったので、念のために注意

して探してみましたが見つかりません。なぜ、突然目に見える場所に巣作りを始めたのか知り

ませんが、風を相手にした建築工事は大変なようです。

 このアンテナ塔はアマチュア無線のアンテナを乗せるために作ったものです。今は使っていま

せんが、遠隔制御のモーター駆動でアンテナの向きが回転する仕掛けになっています。以前

はアマチュア無線から入ってエレクトロニクス技術者になった人が沢山いました。見知らぬ人と

おしゃべりをする場が、アマチュア無線からインターネットに移り、機器の操作が簡単になったこ

とから、インターネットを利用する楽しさを覚えたことと、エレクトロニクス技術者への道がつなが

らなくなったようです。

 現在の子供達がなにをきっかけにして技術に興味をもつようになるのか知りませんが、楽し

みながら技術の知識を身につける場が必要なことは昔と変わりません。パソコンや、ゲーム機

、ロボットなどがこうした場なのでしょうか。

都丸敬介(2002.3.18)

 

なんでもマルチメディア(254):8秒ルール

 誰が言いだしたのか分かりませんが「8秒ルール」という言葉があります。ホームページなどの

1画面を表示するときの最大許容時間、つまり、我慢できる表示待ち時間の限界が8秒だ

という意味です。この言葉は比較的新しいのですが、考え方は新しいことではありません。

1970年代後半、NTTのキャプテンサービスを含むビデオテックス・システムの開発が行われて

いた頃に、1画面のデータを最大何秒で表示すればよいかということが、システム設計上の大

きなテーマになっていました。そして、目標値とされた値が最大10秒でした。

 モデムの伝送速度が1.2k〜2.4kビット/秒の時代ですから、2.4kビット/秒としても、伝送

効率を考えると、10秒間に送れるデータ量は2キロバイト程度しかありません。つまり、1画面

のデータ量を2キロバイトに抑えなければならなかったのです。

キャプテンでは欧米諸国よりも高速の4.8kビット/秒モデムを採用しました。

 現在のホームページあるいはウェブページは、写真入りが当たり前になっていますが、これが

実現できるようになった大きな要因の一つは通信回線の伝送速度が高速になったことです。

しかし、1画面のデータ量は増加する一方です。このために、8秒ルールを守るための工夫を

こらしたネットワーク製品が開発されています。

 ブロードバンド時代の到来が華やかな話題になっていますが、ブロードバンドによって8秒ル

ールを何秒ルールにしたいのかという、ビジョンの議論があまりありません。けれども容易に考え

られることは、1画面のデータを表示するのにかかる時間が1秒以下になると、情報検索の

方法が大きく変わるということです。ブロードバンド・ネットワークによって実現できる革新的な

変化について、夢があり実現可能なアプリケーションの話がもっと活発になってもよいのではな

いでしょうか。

都丸敬介(2002.3.10)

 

なんでもマルチメディア(253):ホットスポット・サービス

 パソコンやPDA(携帯情報端末)のユーザーに、無線インターネット・アクセス環境を提供

する「ホットスポット・サービス」が注目されています。携帯電話やPHSの回線を利用する無

線インターネット・アクセスをすでに多くの人が利用していますが、新しいホットスポット・サービ

スは無線LANを利用するサービスです。

 無線LAN製品は1980年代からありましたが、ケーブルLANと比較して性能が劣り、しかも

高額なために普及が進みませんでした。ところが、1999年にIEEE802.11bという、最大伝送

速度が11Mビット/秒の技術標準が決まり、コンパクトで安いカード型の送受信器が開発さ

れたことから、無線LANの普及が一気に進み始めました。

 企業などのLANにはサーバーと呼ぶ各種のコンピューターがつながっていますが、ホットスポ

ット・サービスでは、その場にサーバーがありません。インターネットのアクセス回線の末端部分

として無線LANを利用するのです。PHSを利用するインターネットアクセスの伝送速度は4k

ビット/秒ですが、ホットスポット・サービスを利用すると、伝送速度が100倍程度に高速にな

ります。ただし、アクセスポイントと呼ぶ無線基地局のサービスエリアは30〜50m程度と狭いの

で、移動しながら利用するのには適しません。

 ホットスポット・サービスは、空港の待合室や喫茶店などで提供されていますが、さらに、4

月には国内通信事業者が繁華街で提供するサービスが始まります。米国内にはすでに

4,000のホットスポットがあるということです。

 ホットスポットの本来の意味は、マウスを操作して矢印の先端で指示する位置のことです。

これから転じて、通信要求が集中する場所を意味するようになりました。

都丸敬介(2002.3.4)

 

なんでもマルチメディア(252):高速とブロードバンド

 「一つの通信回線で高速通信と低速通信を同時に行うとき、高速通信の信号はどの

ようにして低速通信の信号を追い越すのか」という質問を受けたことがあります。高速と言

っても電気信号が通信回線の中を伝わる速度が速いわけではありません。高速通信の

ほうが、単位時間、例えば1秒の間に運ぶデータ量が多いのです。ISDNのBチャンネルは

1秒間に6万4千ビットのデータを運ぶので、その伝送速度は64kビット/秒です。標準的

なLAN(ローカル・エリア・ネットワーク)は1秒間に1千万ビットのデータを運ぶので、その伝

送速度は10Mビット/秒(Mはメガ)です。

 高速通信サービスをブロードバンドサービスと呼びますが、厳密には「ブロードバンド」と「

高速」は同じではありません。ブロードバンドの日本語は広帯域です。これはアナログ通信

の言葉で、伝送する信号の周波数範囲が広いということです。普通の人よりもはるかに高

い声を出す歌手の声は周波数帯域幅が広いブロードバンド人間ということになります。

 大部分の設備がディジタル化された現在の情報通信ネットワークの中で、ブロードバンド

というアナログ通信の言葉が一般的に使われているのは、技術的な厳密さよりも感覚的

な分かりやすさと語呂の良さによることかもしれません。

 通信事業者のブロードバンドサービスの特徴は、常時接続・定額料金にあると強調して

いる人がいます。ブロードバンドと常時接続・定額料金は別のことですが、これらが一体化

することで、新しい時代が生まれます。今年は、かなり画像品質がよいインターネット放送

が次々に始まります。これが景気回復の刺激剤になることを期待しましょう。

都丸敬介(2002.2.25)

 

なんでもマルチメディア(251):ブロードバンド時代のIX

 この「なんでもマルチメディア」を掲載している、ハンドレッドクラブ21主催の3月セミ

ナー(2002年3月19日)で、日本インターネットエクスチェンジ(株)社長の小林さん

から「ブロードバンド時代のIX戦略」というタイトルのお話を聞くことになりました。IXと

いう言葉はあまりよく知られていないので、簡単に説明します。

 IXは小林さんの会社の社名である、インターネットエクスチェンジの略です。米国

で出版された技術用語事典に「米国以外のISP(インターネット事業者)が、地域

内でトラフィックを直接交換する商用ピアリングポイント」という説明があり、日本の

例としてJPIXという名称が示されています。ピアリングポイントはトラフィックを交換す

る場所という意味です。多数の航空会社の路線が入っていて、乗客の乗り換え機

能を備えたハブ空港に似ています。

 日本国内だけでも数千のISPがあるので、ISP間の情報流通を効率よく、経済的

に実行するために、IXは大きな役割を果たしています。それだけに、IXの社会的責

任は非常に大きいと言えます。IXが提供するサービスの信頼性や性能が高くないと

、インターネット利用者が困ることになります。

 これまでのインターネット利用の中心である、ウェブページの閲覧やメールの交換

などと較べて、これから始まるブロードバンド指向の利用では、ISPだけではなくIXに

も一層厳しい性能やサービス品質が求められます。例えば、サーバーと呼ぶコンピュ

ーターを仲介しないでユーザーどうしが直接情報を交換するピアツーピアや、オーディ

オやビデオを受信しながら再生するストリーミングについて、良好なサービス品質を維

持するためには、高度の技術と設備が必要になるはずです。こうした新しい問題が

どこまで解決できるかということは大変興味深い話題です。

都丸敬介(2002.2.17)

 

なんでもマルチメディア(250):海外旅行で出会った日本人

 気ままな海外旅行をしていると、いろいろな日本人旅行者に出会います。一瞬の

すれ違いですが、印象に残ったことが少なくありません。

 昨年(2001年)の夏、スイスのツェルマットで、体が不自由な人たちのグループに

会いました。かなり年輩の人たちで、みな車椅子に乗っての旅行です。付き添ってい

たのはボランティア活動をしている人たちでした。登山電車の中で、そのグループの

最高齢の80才の人と話をしました。話をするのも不自由な人でしたが、眼を輝か

せて、アルプスの印象を話してくれました。このときは季節が良かったためかもしれま

せんが、中高年登山者の日本人グループに圧倒されました。登山鉄道沿いのトレ

ッキングコースを長い行列で歩いているのはみな日本人でした。国内では暗い話が

多いのに、そのような気配は全く感じられません。日本人の活力と行動力のたくまし

さを感じました。同じことを最近訪れた、オーストラリア中央部のエアーズロックでも経

験しました。

 エアーズロックのオーストラリア先住民文化村に、日本人小学生が書いた絵が沢

山ありました。小学生のグループがこれほど遠い場所を訪れていることに驚きました

が、きっと大人以上に感動したことでしょう。小さいときにいろいろな国や文化に接す

る機会をもった人たちが、あえて国際化などという言葉を使う必要がない日本を築

くことを期待しましょう。以前、ロンドンの土産屋で、高校生のグループに会ったことが

あります。修学旅行かと聞いたところ、英語研修旅行だと胸を張っていました。

ところが、値段がついていない絵はがきを見て、これを買いたいのだけれど買い方が

分からないからと、助けを求められました。英語研修にきたのではないかとひやかしま

したが、結局手伝ってあげました。あのときの高校生はそんなことをもう忘れているで

しょう。

都丸敬介(2002.2.11)

 

なんでもマルチメディア(249):評価基準

 現在、ある調査研究委員会でeラーニング教材の評価基準を作る仕事の手伝

いをしています。eラーニングは情報通信ネットワークを利用する遠隔教育のことで、

具体的にはインターネット技術を利用するWBT(ウェブベースド・トレーニング)シス

テムが中心になっています。

 日本では1998年頃から一部のIT関連企業が社内教育のためにWBTシステムを

開発して利用実績を積んできましたが、2000年からWBTシステムを導入する企業

が急速に増えています。また、WBTシステムの活用を検討している大学や地方自

治体でも増えています。

 教材評価基準の検討内容についてはまだ説明できませんが、評価基準を作るこ

とが質がよい教材の開発と普及のために大切だということを実感しています。

 企業などの情報通信システムを構築したときは、最後の仕上げとして評価を行い

ます。評価結果に客観性をもたせるためには評価基準が不可欠なのですが、明確

な基準が示されていないために評価ができない項目に出会うことがよくあります。評

価作業を実行する前に評価項目を決めるのは当たり前だということが分かっていな

がら、このときに評価結果を判定するための基準を示すのを怠っていることが少なく

ありません。また、データ測定などで定量的に評価する項目の場合、測定方法が

明確でないために、評価データを取れないことがあります。

 こうしたことは、情報通信システムだけでなく、身近にある多くのことにあてはまりま

す。評価は奥深い問題であり、のめり込むと面白い発見がたくさんあります。

都丸敬介(2002.2.3)

 

なんでもマルチメディア(248):ユーザー識別カード

 銀行カード、クレジットカードなど、いろいろな種類のカードがあります。多くの

カードは磁気記録技術を使っていますが、このほかにICを埋め込んだインテリジェン

トカードがあります。

 ICカードの技術や利用方法の研究開発は1980年代から行われてきました。その

利用方法の一つに、携帯電話機や携帯情報端末に差し込むものがあります。

 ヨーロッパの第2世代携帯電話システムGSMではSIM(加入者識別モジュール)とい

うICカードが使われています。このカードには電話番号やユーザー識別データなどが

記録されているので、ユーザーは端末機器を持ち歩かなくても、このカードを持って

いれば、使いたい場所にある端末機器を自分のものとして使うことができます。

 NTTドコモの第3世代携帯電話FOMAでもICカードの利用技術が導入されました。こ

のカードをUIM(ユーザー識別モジュール)と呼びます。SIMはGSM専用ですが、UIMは

各種の第3世代携帯電話システムの共通規格として設計されています。

 このようなユーザー識別カードは、他人の端末の不正使用や他人になりすます不正

行為を防ぐのにも効果があります。

 ユーザー識別カードを使うPBX(企業などの構内電話交換機)の内線電話機もあり

ます。営業担当者のように事務所に常駐していない人が事務所で仕事をするときは、

空いている席の電話機に社員カードのデータを読み込ませると、その人の電話番号の

電話機として使えるという仕掛けです。

 ユーザー識別カードの利用分野は、今後益々拡大すると考えられます。

都丸敬介(2002.1.27)

 

なんでもマルチメディア(247):ケータイの電池

 携帯電話機を始めとする携帯情報機器の電池切れには多くの人が悩まされていると

思います。機器メーカーは内部回路の消費電力を減らすために懸命の努力をしていま

すが、一方では、動画通信などの機能追加によって消費電力が増えます。現在使われ

ている充電式電池の技術は、情報化社会を支える縁の下の力持ちで、携帯電話の普及

に大きく貢献しています。それでも電池切れの問題は解消されていません。

 最近、携帯電話機の電池を充電する手動発電機が米国で開発されたそうです。3月

発売ということですから、日本でも間もなく入手できるかもしれません。ハンドルを

ぐるぐる回す発電機で、45秒回すと4−5分通話できるだけの充電ができるそうな

ので、緊急の電池切れ対策には良いかもしれません。電車の中で、暇つぶしに皆が発

電機を回している様子を想像するとほほえましくなります。

 超小型燃料電池の開発も、そろそろ実用の段階に近づいたようです。無線通信機器

用燃料電池の研究は1960年代から行われてきましたが、ようやく実用段階に到達して

きました。携帯電話機本体と同じ程度の重さのものが2003年には発売になるようです。

燃料電池は水素と酸素を反応させて電気を発生するもので、このための水素発生

材料をカートリッジ型にして、電池が切れたときにはカートリッジを取り替えればよいという

代物です。

 燃料電池の技術は、水力発電や火力発電、原子力発電、風力発電に続く将来の発電

技術として期待されています。米国のアクション映画で、水素発電の研究をテーマに

したものがありますが、安定した電力供給は21世紀の 最大のテーマの一つです。

都丸敬介(2002.1.20)

 

なんでもマルチメディア(246):サーバー

最近の企業情報ネットワークシステムでは、ウェブサーバー(WWWサーバー)、メールサーバー

、アプリケーションサーバー、アクセスサーバー、セキュリティサーバーなど、多くの種類のサーバー

が使われています。サーバーという言葉が使われるようになったのは1980年代で、それまでのホス

トコンピューターに相当します。

 コンピューターネットワークの普及が始まった頃のユーザー端末には、データの入力と出力表示

機能だけしかなかったので、データ処理はすべてホストコンピューターに頼っていました。このような

端末をダム端末と呼びます。翻訳小説で、ダム端末(ばかな端末)と書いてあるのを見たことがあ

ります。翻訳者もどう書くか考えたのかもしれません。

 その後、ワークステーションやパソコンの機能が強化されて、これをユーザー端末として利用する

と、かなりのデータ処理ができるようになりました。高機能のインテリジェント端末が普及した結果

、情報システムの中核に座っていたホストコンピューターは、インテリジェント端末の機能を支援す

るサーバーになったのです。

 サーバーの種類が多いのは、百貨店に相当する汎用コンピューターが専門店に相当する各種

のサーバーに分割されたからです。こうした変化の流れは社会の体制の変化によく似ています。

 最近、一部のIT企業が家庭用サーバーの開発に熱心に取り組んでいます。家庭用サーバー

と言っても、機能や利用方法が決まったわけではなく、いろいろな考え方があります。ただし、基

本的な考えは、サーバーを中心にして、家庭内の情報分配や、家電機器の監視・制御などを

集中的に行いたいということです。便利なこともあるかもしれませんが、ハッカーがサーバーに侵入

して、鍵のロックを全部解除してしまうということにならないよう願います。

都丸敬介(2002.1.14)

 

なんでもマルチメディア(245):温故知新

明けましておめでとうございます。皆様のご多幸を祈ります。

 ある企業から頼まれて毎年行っている技術教育の資料の冒頭に、何年か前に「温故而知新、可

以為師矣」と書いて以来この言葉を残してあります。講義で昔話をするための布石ではなく、技術

者の心構えとして意味があると考えているからです。前半の「故きを温めて新しきを知る」は非常に

大切なことですが、後半の「以って師と為す可し」を伴って始めて効果があると、私は解釈しています

。 今から45年ほど前に研究所で仕事を始めた頃、「研究といっても、ゼロから始める研究はほとん

どない。大部分の研究テーマの中身は、80%以上がすでに誰かがやったことだ。それを土台にして

、5%でも10%でも新しいことを上乗せできれば立派な研究になる」と先輩から言われたことを今で

も覚えています。

 最近送られてきた技術経済雑誌に、話題になっているブロードバンドに関連して、「70年代のニュ

ーメディア、80年代のマルチメディアの失敗と同じ轍を踏まないためにも、利用者の視点に立ち、い

っそうの努力と試行錯誤が必要となる」という文章がありました。一方、昨年11月の某新聞に、80

年代にキャプテンシステムが成功しなかったことについて、「当時の通信速度では満足な情報が流せ

ず、電話料金も高かったからだ。今日、NTTドコモのiモードが人気だが、その背景には17年も前の

失敗が生きている」という文章がありました。

 同じ失敗という言葉を使っていますが、新聞の文章のほうが前向きです。アイデアは良かったけれ

どもそれを実現する手段がなかったために日の目を見なっかた技術が沢山あります。年の始めから

改めて「温故知新」に取り組むのも悪くないと思います。

都丸敬介(2002.1.6)