なんでもマルチメディア(333):新光ファイバー・ケーブル

 NTTが「ホーリーファイバー (holey fiber)」と呼ぶ、画期的な光ファイバー・ ケーブルを試作したという発表がありました。現在通信事業者が使っている代表的な光ファイバー・ケーブルは、シングルモード・ファイバーです。これの材料は石英ガラスで、光の屈折率が異なる、コアと呼ぶ中央部分と、コアを取りまくクラッドと呼 ぶ部分の二重構造になっています。コアの直径は0.01mm程度、クラッドの直径は0.1mm程度の細さです。
 光信号はコアの中を通って遠くまで届きます。光は真っ直ぐ進むので、ファイバーが曲がると外に飛び出そうとしますが、コアとクラッドの境界で鏡のように反射されるので、光信号はコアに閉じこめられたまま進みます。しかし、ファイバーの曲げがきつすぎると、光信号が反射されずにクラッドに飛び出してしまいます。
 今回発表されたホーリーファイバーは、コアに近い部分のクラッドの中に多数の空孔を配列した画期的な構造のもので、光ファイバーをほぼ直角に曲げても、光信号の減衰が非常に少ないということです。発表された写真を見ると、コアの直径と同じくらいの大きさの空孔を6つ配列したものや、コアの半分程度の大きさの多数の空孔を配列したものがあります。光ファイバーを直角に曲げて使えるということは、建物内部の配線をきれいにすると同時に配線工事を楽にする効果があります。
 ホーリーファイバーは曲げに強いだけではなく、既存のシングルモード・ファイバーよりも広い波長範囲の光信号を伝えることができるようです。このことは、1本の光ファイバーの通信容量を増大し、長距離の通信コストを低下させるのに大きな効果があります。
 こうした優れた技術が日本で生まれたのは素晴らしいことです。

都丸敬介(2003.12.22)

 

なんでもマルチメディア(332):米国のブロードバンドネットワーク

 1993年9月に米国のクリントン政権が「全米情報基盤(NII)」構想を発表してから10年たち、米国のブロードバンドネットワーク時代が本格的に進む気配が見えてきまし た。
 通信ネットワークは、ユーザーの情報通信端末をつなぐアクセスネットワークと、アクセスネットワークを相互接続するためのコアネットワークあるいはバックボーンネットワークの階層構造になっています。NII構想を具体化したインターネット2(I2)と次世代インターネット(NGI)の2つのプロジェクトでは、高速コアネットワークが構築されました。
 アクセスネットワークの高速化は、日本のように電話ケーブルを使うADSL主体ではなく、CATV設備を利用する方法が先行しています。これは既存設備の違いによることといえます。私がCATV設備を利用する高速インターネットアクセスを米国で始めて体験したのは1998年ですが、当時の伝送速度は300kビット/秒程度でした。現在のCATV用高速モデムの伝送速度は最大30Mビット/秒で、日本でも使われています。
 米国のCATV普及率は約70%ということであり、ブロードバンドアクセスネットワークのために、わざわざ多額の投資をしなくてもよいという利点があります。一方、電話局から遠く離れているために、ADSLを使えないユーザー数がかなり多いことが報告されています。
 最近の報道では、CATV大手のタイム・ワーナーがCATV設備を使うIP電話サービスに本格参入するということです。良好な通話品質のIP電話を実現するためには、上りと下りの両方向ともに数百kビット/秒の伝送速度が必要であり、CATV設備の利用はこ
れに適しています。電話会社も光ファイバー・アクセスネットワークでCATV事業者に対抗することになるので、来年は大きな発展がありそうです。

都丸敬介(2003.12.14)

 

なんでもマルチメディア(331):観音路

 季節はずれの台風が通り過ぎるのを待って、琵琶湖東岸に点在する観音様を見て回りました。目当ては渡岸寺の国宝十一面観音菩薩でしたが、タクシーの運転手さんの案内で、渡岸寺のほかにもいくつかの寺や立派な収蔵庫に収まっている仏像を拝観し ました。
 地元の「奥びわ湖観光連盟」が発行した「観音路」という案内地図には56の観音様が収録されています。この中には、国宝が一つ、重要文化財が九つ含まれています。
 観音堂の多くは無人で、近所の老人が当番制で拝観者を案内するか、あるいは連絡すると鍵を開ける仕組みになっていることを知りました。拝観した場所はみなタクシーの運転手さんに連絡していただいたので短時間で回ることができましたが、ガイドブックを見ながら自分で歩き回ることは難しそうです。
 いつも琵琶湖東岸を新幹線で通り過ぎるだけなので、彦根城にも立ち寄りました。
姉妹都市の水戸市から贈られたという、二度咲き桜の小さな花が満開だったのは思いがけない光景でした。見事な紅葉と桜を同時に見られるというのは始めての体験です。
 彦根と水戸を結びつけた、伊井大老を主人公にしたNHKの大河ドラマ「花の生涯」が、大河ドラ
マの第一回作品だったことを忘れていました。大河ドラマといえば、福島県の二本松城では、毎年
秋に、その年のNHK大河ドラマを主題にした菊人形の大規模展示をしています。まだ見たことがない人は、来年の秋に見に行くことを推奨します。

都丸敬介(2003.12.7)

 

なんでもマルチメディア(330):シルクロード

 1979年から1984年にかけてNHK「シルクロード」プロジェクトの取材班が作成した、全放送内容を収録したDVD(15枚)を入手しました。この番組が放送された頃は、仕事が忙しくて、テレビを見ている時間が全くありませんでしたが、日本放送出版協会が出版した本(12巻)を読んで、シルクロードの様子を心に描いていました。
DVDの映像を見ながらナレーションを聞いていると、本では得られない多くの感激があります。
 素晴らしい内容を一人で楽しんでいると、いろいろなことを考えます。取材対象が2000年も昔のことですから、放送から20年たった今も、その内容は活き活きしています。けれども何人の人がこの素晴らしい記録を楽しむことができるのか疑問です。私が入手したDVDの値段は1枚当たり約1万円で、映画を収録したDVDの数倍の高さです。映画のDVDの値段が急速に下がっている現在の感覚では異常な感じがします。
 受信料収入から取材予算を組んで作成した内容ですから、放送された年度で収支決算が終わり、赤字を繰り越していることはないと思います。そうだとすれば、このような優れた文化財をできるだけ多くの人が楽しめるように、安価に提供することが望ましいといえます。直径12センチ、厚さ1ミリのディスクを1枚ずつ、15センチ×22センチ×1.8センチの箱に入れているのではコストが高くなります。多分高級感を出して付加価値を付けているのでしょうが、特別な内容が加わっているわけではありま
せん。
 ブロードバンド情報流通ネットワークの構築を進めている通信事業の関係者は、口を揃えて、立派な情報流通基盤ができても提供するコンテンツが見あたらないといいます。通信事業者がコンテンツを用意しなくても、NHKを始めとする放送事業者が、蓄積している莫大な文化財を提供するビデオ・オン・デマンド・サービス事業を始めればよいのです。この場合の最大のネックはいろいろな法制面の拘束でしょう。消費者(視聴者)の満足度を第一優先とする制度改革の議論が一向に始まらないのが不思議でなりません。

都丸敬介(2003.12.1)

 

なんでもマルチメディア(329):IP電話のサービス品質

 今日(2003年11月23日)の日本経済新聞・日曜特集解説記事で、IP電話のサービス品質に関する苦情や問い合わせが急増していることを取り上げていました。この記事では、主なトラブルとして、「通話が途中で切れる」「通話中に雑音が入る」「音声が途切れる」といったことを取り上げて、その原因を説明しています。これらのトラブルがあることは事実ですが、「IP電話の技術は発展途上であるにもかかわらず、一気に普及したために、ちょっとした不具合に大勢が反応してしまう」という分析には
疑問があります。
 取り上げたトラブルの原因が、主として加入者線で使っているADSLにあるという説明は間違っていませんが、IP電話技術は未成熟であり、あぶない状態で市場に売り出されたということではないはずです。
 IP電話サービスには端末型と中継型があります。ADSLユーザーが利用しているのは端末型IP電話であり、この記事で取り上げたようなトラブルが起こることがあります。中継型IP電話は長距離中継回線部分をIP電話にしたもので、ユーザーは既存の電話機をそのまま使うことができます。ADSLユーザーでなくても、全国均一の3分20円程度の安価なIP電話を利用できるのです。
 端末型IP電話でも、企業などの事業所に設置されているLANにIP電話機をつなぐ形態では、従来の固定電話と同程度の安定したサービス品質を得ることができます。だからこそ、最近は社内電話システムを全面的にIP電話方式に切り替える企業が増えているのです。
 この記事には「加入急増 追いつけぬ技術」という大きな見出しがついていますが、追いついていないのは技術そのものではなく、苦情が出るようなサービスを提供している通信事業者ではないでしょうか。
都丸敬介(2003.11.23)

 

なんでもマルチメディア(328):e爆弾

 米国の著名な科学技術雑誌の最新号にe爆弾開発の現状についての解説記事がありました。
e爆弾はHPM (high-power microwave)と呼ばれ、放送や通信で使っているマイクロ波無線電波を利用するものです。ただし、放送や通信とは桁違いに大きい電力を放出して目標を破壊します。マイクロ波無線電波の周波数はレーザー光よりも低いので眼には見えません。
 e爆弾は火薬爆弾や核爆弾のような爆発を起こすのではなく、高エネルギー電磁波が通信回線や送電線に入り込んで、通信設備や電力供給設備の内部を破壊します。電子制御技術の導入が進んでいる自動車も動かなくなります。この記事によると、イラク戦争でイラクのテレビ放送局を破壊したのはe爆弾だったらしいということです。
 e爆弾には超広帯域と狭帯域の2種類があります。超広帯域e爆弾は非常に短い時間の電磁波パルスで、比較的広い範囲を攻撃します。狭帯域e爆弾は狭い範囲の目標に連続的に電磁波を送るピンポイント攻撃に適しています。
 HPMのような大きな破壊力をもつe爆弾ではないけれども、電磁波兵器の開発が世界の20カ国以上で進んでいるということです。この記事では一例として日本の話を紹介しています。スーツケースに忍ばせたマイクロ波発生器をパチンコ店に持ち込んで、パチンコの機械を狂わせて大量の玉を取りだしたという話です。この記事ではpachinkoをスロットマシンとピンボールマシンを混ぜ合わせたようなものと説明し、玉をコインと表現しています。パチンコを知らない人が読んだら、コインがじゃら
じゃら出てくる様子を想像するかもしれません。
 e爆弾でなくても、落雷があると電話回線につながっている多数の通信機器が故障します。最近の情報通信機器は外部から加わる大きなエネルギーに対して脆弱になっています。この問題を解決することの重要性が益々大きくなってきました。

都丸敬介(2003.11.16)

 

なんでもマルチメディア(327):プレゼンス情報通信

 インターネットあるいは通信事業者の専用IPネットワークを利用する情報通信サービスの一つとして、プレゼンス情報を扱うものが目につくようになりました。プレゼ ンス情報は所在情報のことです。事務室の入口や机の上に「在席」「会議中」「出張」などと所在を表示することが一般に行われています。プレゼンス情報通信では、ユーザーが今どこにいて利用可能な通信手段はなにかといった情報をネットワークシステムが把握します。誰かと連絡を取りたい人は、プレゼンス情報に基づいて電話、
ボイスメール、電子メールなどの通信手段や最適通信回線を選ぶことができるという ことです。
 プレゼンス情報通信の研究はかなり前から行われていますが、最近はいろいろなデモンストレーションシステムが報告されています。初期の研究では、複数のユーザーが現在いる場所でテレビ会議に参加する、多地点テレビ会議を想定したものが目立ちました。全員が揃って(各自のテレビ会議端末がつながって)から会議を始めるのではなく、会議の途中から参加したり、会議から抜け出すことを可能にするために、会議参加者の状態つまりプレゼンス情報を常に皆で共有する方法の研究が行われてきました。
 会議参加者の現状把握による効果的な会議の進行と、1対1の連絡のための最適手段選択はかなり性格が違いますが、プレゼンス情報に基づく判断あるいは行動ということでは共通性があります。
 このような情報通信サービスが本当に役立つのか、あるいは、誰でも簡単に利用できるようになるのかといった疑問がありますが、情報通信サービス事業者やシステム製品ベンダーにとって、新しい事業機会が芽生えてきたといえましょう。

都丸敬介(2003.11.10)

 

なんでもマルチメディア(326):携帯電話と固定電話

 国連の下部組織であるITU(国際電気通信連合)の統計データによると、2002年末の世界の携帯電話利用者数は11億5千5百万で、固定電話回線数11億2千9百万を上回ったということです。2003年の増加数の予測値は、携帯電話と固定電話を合わせて2億6千万ということですから大変な数です。
 このことを報じた某新聞は、「先進国だけでなくアフリカでは固定電話より携帯電話の普及が先行するなど世界的に携帯電話が優位な展開が続いている」と解説しています。記者は軽い気持ちで書いたことと思いますが、「固定電話より携帯電話の普及が先行」という説明はいろいろな問題を含んでいます。
 日本のように固定電話が十分普及している国では、携帯電話の導入は第2、第3の電話としての位置づけで始まりましたが、電話の普及が遅れている国では携帯電話が第1の電話なのです。固定電話では、ユーザーの電話機をつなぐアクセス網の電話ケーブルの設置に巨額の資金と長い年月が必要であり、このことが電話普及の大きな障壁でした。携帯電話の急速な普及の原動力は、短期間で経済的にアクセス網を構築できることです。携帯電話が電話の主役になった国では、今後固定電話設備の整備が迅速に進むとは考えられません。
 日本でいわゆるブロードバンドサービスが急速に増えているのは、既存の固定電話アクセス網設備を利用できるからです。とすると、携帯電話が電話の主役になっている国では、ブロードバンドサービスはどうなるのかという問題が起こります。ブロードバンドサービスを目指した第3世代や第4世代携帯電話技術の導入および研究が進んでいますが、利用できる電波の周波数制限が厳しい無線では、多くのユーザーがブロードバンドサービスを利用できるようにするのはかなり難しいことです。
 固定電話アクセス網設備の有無はブロードバンド時代の情報格差を拡大します。このことが経済や日常生活に与える影響が、近い将来大きな問題になる可能性があります。

都丸敬介(2003.11.4)

 

なんでもマルチメディア(325):エレベーター

 過日知人に招かれた日本料理屋で畳敷きのエレベーターに乗りました。これまでに数え切れないほどエレベーターに乗りましたが、畳敷きに出会ったのは初めてです。
足の感触からは、床に畳表を張っただけではなく、畳の芯が入っているように感じました。どのくらいの厚さの畳か分かりませんが、数センチの厚さがあるとすると、床のレベル調節が大変だったのではないかと想像します。
 以前からいわれていることですが、日本のエレベーター技術は世界最高なのだそうです。その技術の一つが、エレベーターの中と外の床のレベルがきちんと一致することです。乗客数による荷重の違いを補正して、ぴったり止めるのはかなり難しい技術のようです。そういえば、海外旅行先でエレベーターに乗り降りするときに、段差が大きくてつまずいた経験があります。
 ヨーロッパの古いホテルやオフィスビルで、日本では考えられないようなエレベーターを何度か体験しました。エレベーターホールの扉を手前に引いて開けるタイプのもので、扉がある階に箱が止まったときだけ開くというのがありました。乗って動き出すと、箱の扉側の面はむき出しの壁が流れるので、最初は緊張しました。
 日本にもありますが、駅のエレベーターで、乗る側と降りる側が反対のものがあります。先に乗った人が奥に入ると、降りるときは先になるというのは合理的かもしれません。
 エレベーターではありませんが、時々珍しいエスカレーターに出会うことがあります。ロンドン地下鉄の古いエスカレーターにはステップが木製のものがありました。
滑らなくて良い感触ですが、火災の危険が大きいという問題を抱えていたようです。
パリ・ドゴール空港の最初にできたターミナルには、かなり傾斜がある動く歩道があります。こういうものに出会うと、設計者は何を楽しんだのだろうかと思います。

都丸敬介(2003.10.26)

 

なんでもマルチメディア(324):身体認証

 安全な社会を維持するためのセキュリティ技術として、身体認証技術の導入が加速 してきました。身体認証は人の身体的特徴に基づいて本人であることを確認することで、バイオメトリクス認証あるいは生体認証とも呼ばれています。
 比較的多く利用されている技術として、指紋、網膜、虹彩、声紋などによる身体認証があります。身体認証技術に求められることは、本人であることの確認率が大きいこと、認証にかかる時間が短いこと、経済的なことなどです。
 これまで最も広く利用されている指紋認証は、共同利用パソコンのユーザー認証に使われるほど手軽になりました。しかし指紋は比較的偽造しやすいことが指摘されています。そこで、より信頼性が高い技術として、虹彩による方法がクローズアップされてきました。その一例として、今年、成田空港の国際線カウンターで虹彩による本人確認の実証実験が行われました。虹彩の偽造が難しいことから、厳しく入室が制限されている部屋に侵入するために、入室有資格者の眼球をくりぬいてセンサーにかざしたスパイ映画を見たことがあります。
 偽造がほとんど不可能な新しい技術として、静脈認証による製品が最近発売されました。これは、指の静脈パターンを利用するもので、静脈に流れている血流のパターンを、指の外から赤外線を照射して調べる方法です。血流は肉眼では見えないし、血が流れていないと観測できないので他人になりすますことはまずできないでしょう。
 個人認証のためには、測定データと照合する認証用データをあらかじめ用意しておきます。認証用データがどこに記録されているのか分からない、不特定多数の人の認証のためには、本人が認証用データを携行する必要があります。近い将来、パスポートや運転免許証などに認証用データが記録されるようになる気配があります。

都丸敬介(2003.10.13)

 

なんでもマルチメディア(323):IP電話機

 IP(インターネット・プロトコル)ネットワークを使う格安電話サービスとして利用者が急増しているIP電話サービスでは、従来の固定電話サービス用電話機を使うことができますが、最近はIP電話機の新製品が次々に発表されています。
 IP電話機の外観や大きさは既存の電話機とほとんど同じですが、内蔵している機能はかなり違います。IP電話機は、音声信号をIPパケットで運ぶパケット通信機能の他に、いろいろなサービス機能を備えています。従来は通信事業者の電話交換機や企業などの構内電話交換機(PBX)で実現していた多彩なサービス機能を、電話機に持たせるようになったのです。このことによって、IPパケットを運ぶだけの単純なIPネットワークを使って多種類のサービス機能を実現するのです。
 このようなことは携帯電話の世界ではすでに行われていることです。小さな携帯電話機に組み込む機能を次々に拡張することで、携帯電話機の市場が拡大しています。
従来の携帯電話機がまだ使えるにもかかわらず新機種を購入する人が多数いるのに対して、固定電話の分野では、電話機の頻繁な買い換えや新規購入はあまり多くありません。IP電話機は固定電話の分野で、電話機市場に大きな変革をもたらす可能性を秘めています。
 最近開発されているIP電話機の多くはSIP(セッション・イニシエーション・プロトコル)という規格のプロトコル(通信規約)を実装しています。SIPは、IPネットワークを利用する多地点テレビ会議を想定して開発されたものなので、電話サービスだけでなく、マルチメディア通信の実現にも適しています。電話に限っても、SIPの制御機能によって、複数の人たちがグループ会話に参加したり抜け出ることが可能です。
 どのようなサービス機能を備えているかということはIP電話機の機種によって異なるので、同じ機種同士でなければ実現できないこともあります。こうしたことの是非は社会的な議論の種になるかもしれませんが、これからの進展が面白くなりました。

都丸敬介(2003.10.5)

なんでもマルチメディア(322):ICタグ

 最近の新聞記事ではICタグ(荷札)関係の報道が目に付きます。ICタグといってもピンとこない人が多いので、記事の中には次に引用するような解説がついています。「ICチップに情報を書き込み商品管理などに利用する技術。」「商品の一つひとつにICタグを取り付けることで、どこに、どの商品がどれだけ存在するかを正確に把握できる。」「ICタグは電波を発し、1−2メートルの範囲内であれば受信器 で認識できる。」
 ICチップに記録されている情報を、少し離れた場所から無線で読みとることができます。使用する無線周波数は、携帯電話で使っている800−900MHz帯、無線LANで使っている2.4GHz帯などです。読み取り可能距離は、800−900MHz帯無線では8m程度、2.4GHz帯無線では2m程度といわれています。ICタグの半導体チップは0.4mm角〜1mm角程度の小さいものなので、ゴマ粒チップとも呼ばれています。初期のICチップは無線アンテナを外付けするタイプでしたが、アンテナを組み込んだ0.4mm角のものも開発されています。ICチップの動作に必要な電力は、読み取り・書き込み装置から受け取る無線電波でまかないます。
 先週前売り券が発売になった、2005年の愛知万博の入場券にはこのチップが埋め込まれていま
す。すべての入場券に固有の識別コード(ID)をつけることで、偽造防止ができるだけでなく、パビリオンの入場予約もできるということです。すでにICタグを導入している、あるいは導入を検討している事例として、本、コンサートなどのチケット、食品、医薬品、紙幣、などがあります。
 ICタグに情報を書き込めるということは、記録されている情報の破壊あるいは改ざんの可能性があるということです。ICタグは紙幣の偽造防止の強力な手段になるでしょうが、不正行為に対する保護対策が新たな課題になります。そして、新しいビジネス機会が生まれることになります。

都丸敬介(2003.9.29)

なんでもマルチメディア(320):テレコム2003

 10月12日から18日まで、スイスのジュネーブでITU主催のITUテレコム2003が開催されます。ITU(国際電気通信連合)は国連の下部組織で、電気通信技術や無線技術の国際標準化、発展途上国の電気通信サービス基盤整備の支援などを行っています。
 ITUテレコムは4年に1回開かれるので、通信技術のオリンピックと言われています。ただし、開催場所は毎回同じで、ジュネーブ国際空港に隣接したPALEXPOという広大な展示会場です。この展示会には世界中の通信事業者やメーカーが参加して、機器やシステムを展示するだけではなく、同時に開かれるシンポジウムで世界のリーダー達が講演を行います。
 今回は、光ブロードバンドネットワーク、高速無線LAN、コンテンツ配信など、ブロードバンドネットワークを基盤とするマルチメディア情報流通が中心的な話題になるようです。このイベントの過去の状況を見ると、個々の技術については、専門の学会ですでに発表されているので新鮮さはありませんが、製品化あるいは実用化がどのレベルに達しているかということを確認するのには最適な場と言えます。
 新聞社やセミナー企業あるいは各地の商工会議所などが、テレコム2003に参加し、ついでにヨーロッパ各国の関連企業を訪問する企画を作って参加者を募集しています。今年はどんな状況か知りませんが、世界中で電話サービスの民営化が始まった時代には、このイベントの期間中はジュネーブ市内のホテルが一杯になり、鉄道で1時間くらい離れた場所でないと空き室がないという状態が何回か続きました。
 10月のジュネーブは素晴らしい季節です。PALEXPO展示場からジュネーブの中心まで、電車に乗って短時間で移動できます。レマン湖を見ながら、転換期を迎えた情報流通ネットワークの未来像を描くのは楽しいかもしれません。

都丸敬介(2003.9.15)

なんでもマルチメディア(319):ザクロ

 猫の額ほどの我が家の庭に一本のザクロの木があります。25年前に家を建てたときに、知人の家から分けていただいて、車のトランクに積んで運んだものです。すっかり大きくなり、毎年甘くて美味しい実がなっていました。3年前に植木屋さんに頼んで枝をおろした後は、体力の回復にエネルギーを取られて実がなりませんでしたが、今年は久しぶりに実がなりました。
 今日気が付いたら、一番大きな実が齧られていました。歯形から見て、鳥ではなくリスのようです。まだ酸っぱいのか少し齧っただけになっています。数年前から山越えをしてきたリスが家の周囲の森に住み着いて、さかんにいたずらをしていますが、ザクロに出会ったのは初めてかもしれません。これからどうするのか、観察する楽しみの種が一つできました。
 ザクロと言えば、数年前の9月下旬に中国の西安に兵馬俑を見に行ったことがあります。西安市と兵馬俑がある博物館の間に位置する、玄宗皇帝と楊貴妃の別荘だった温泉の華清池の周囲はザクロの産地で、見渡す限りザクロ畑が広がり、始皇帝陵を望む道路の道ばたにザクロを売る店がすらっと並んでいました。ソフトボールの球ほどもある大粒のザクロが赤く輝いている光景は印象に残りました。昼食のデザートに丸ごと一個出されたザクロは、平らげるのに時間がかかりましたが満足感がありました。
 西安市は玄奘三蔵ゆかりの地です。苦しい旅をした三蔵法師もザクロを食べたのだろうかなどと考えると楽しくなります。9月〜10月の気候は中国旅行に最適の時期と言われています。この時期に西安に旅行する人はザクロを賞味することをお勧めします。

都丸敬介(2003.9.7)

なんでもマルチメディア(318):Lモード端末

 この雑文の第284回(2002年12月)で、NTT東西が提供しているLモードについて書いたことがあります。現在の契約数は50万程度のようなので、普及が軌道に乗ったとは言えないかもしれませんが、サービス内容は増えています。商店のPOS(ポイント ・オブ・セールス)端末をLモードに置き換えたという話もあります。しかし、Lモード対応端末の現状を見ると、優れた素材を活かしていないという感じがします。
 携帯電話の爆発的な普及は通信事業者に大きなサービス収入をもたらしていますが、同時に携帯電話機が大型商品に育ったことが通信機器産業にとって重要なことです。携帯電話の利用者数が飽和状態に近づいてきたにもかかわらず、携帯電話機の販売台数が非常に多い状態が続いているのは、次々に機能追加が行われているためと考えられます。
 Lモードも端末機種が増えてきましたが、まだ、飛びつきたくなるような魅力的な機能を備えた端末は少ないようです。例えば、Lモード対応のコードレスホンには着メロ機能がありますが、これと留守録機能を組み合わせて、着信者が適切な応答行動を選べるようにしたという説明は見あたりません。
 IP電話のために開発されたSIP(セション・イニシエーション・プロトコル)というマルチメディア通信制御機能がありますが、これはIP電話だけでなく、Lモードのような固定電話にも応用できます。携帯電話機よりも大きさや消費電力に余裕がある固定電話回線用端末は、SIPの技術を応用して高度の機能を実現しやすいと言えます。発想力と行動力がある若い人たちが、既存の知識にとらわれずに、すでにある優れた素材を組み合わせて新しいことに挑戦するのを期待しています。

都丸敬介(2003.8.31)

 

なんでもマルチメディア(317):無線LANの性能

 公称最大データ伝送速度が11Mビット/秒の、IEEE802.11bという規格の無線LANが、企業だけでなく多くの家庭にも普及しました。そして、次の段階として、公称最大データ伝送速度が54Mビット/秒のIEEE802.11a規格およびIEEE802.11g規格の高速無線LANの導入気運が高まっています。無線LANとは別に、携帯電話の分野でも高速データ伝送サービスの開発競争が続いています。
より便利な技術の開発は歓迎すべきことであり、経済活動の活性化にも大きな効果が期待できますが、無線データ伝送は非常にデリケートな技術であり、公称最大性能が得られる利用条件が制限されることに注意しなければなりません。
 データ伝送の品質評価尺度の一つにビット誤り率(BER)があります。電話ケーブルにモデムをつなぐ伝統的なデータ伝送では、許容BERの目安を10万分の1としています。これは10万ビットに1ビットの割合で、ディジタル信号の1を0に、あるいは0を1に誤って受信するということです。
 無線回線はケーブル回線よりも動作が不安定なので、BERが千分の1から百分の1に低下することがよくあります。BERを改善するのによく使われる方法は、データ伝送速度を低下させることですが、IEEE802.11aや802.11gでは単純にデータ伝送速度を落とす方法の他に、より高度の技術を組み合わせています。これは順方向誤り訂正(FEC)という技術で、送信側では実際の利用者データにビット誤りを訂正するためのデータを追加して送ります。そして、受信側では自動的にビット誤りを訂正します。 
  ただし、ビット誤りを完全に除去できるわけではなく、百分の1程度のBERを10万分の1程度に改善できるということです。FEC技術はいろいろあり、追加する誤り訂正用データの割合が大きいと誤り訂正能力が大きくなります。その代わり有効なデータ伝送速度が低下します。
 FECは高度の数学理論に支えられた技術ですが、高速無線データ伝送技術を理解するために
は、FECの利用効果を把握することが大切です。

都丸敬介(2003.8.25)

なんでもマルチメディア(316):停電と電話

 ニューヨークからオタワにいたる広い地域で長時間停電が発生して、多くの人たちが影響を受けました。最近は、こうしたトラブルが発生すると、必ずのように電話が使えなくなった様子がテレビや新聞で報道されます。
 今回の停電では携帯電話が使えなくなったことがクローズアップされ、対象的に公衆電話や従来の単純な固定電話がライフラインとしての役割を果たしたことが報道されました。少し前に東北地方で大地震が発生したときは、固定電話が使えなくなったけれども携帯電話や電子メールが使えたということが報道されました。
 固定電話と携帯電話のどちらが長時間停電に対して強いかというと、それは固定電話です。従来の固定電話は銅線の電話ケーブルを通して電話局の交換機から電話機に通話に必要な電力が供給されています。電話局には停電に備えた大容量の電池と自家発電設備があるので、長時間停電に耐えることができます。一方、屋外に設置されている携帯電話基地局には長時間停電に弱いものがあるようです。
 銅線電話ケーブルを使っていてもADSLモデムには電話局から電力が供給されていませんから、ADSLユーザーのIP電話は停電時には使えません。高速アクセス回線として普及が進んでいるFTTH(ファイバー・ツー・ザ・ホーム)の光ファイバーケーブルも電話機に電力を供給できません。こうしたことから、高度化した新しい通信サービスを利用するユーザーについては、新たな停電対策が必要になります。
 企業などのLAN(ローカル・エリア・ネットワーク)でも、情報通信機器に対する電力供給方法の改善が重視されるようになり、LAN用ケーブルによる電力供給方法の標準規格が制定されました。こうしたことは新たなビジネス機会を生み出しています。

都丸敬介(2003.8.17)

なんでもマルチメディア(315):フルーツライン

 福島西インターと福島飯坂インターの区間の東北自動車道と並行してフルーツラインという一般道路があります。初夏のサクランボから始まり、桃、梨、リンゴといった果物を栽培する果樹園の即売店が道端に並んでいます。
 8年ほど前にこの道沿いの店の一軒に立ち寄ったのが始まりで、毎年8月上旬に桃を買いに出かけています。桃は微妙な果物のようで、家の近くの店で売っている一番美味しいというふれこみの桃も、フルーツラインで売っているものとは比べものになりません。桃を買うのだけが目的ならファックスで注文すれば済むことですが、広い果樹園を歩き回り、働いている人たちと短い会話を交わすのが楽しみの一つです。
 8年間の定点観測から、新製品が次々に開発されていることを知りました。工業製品と違って、一本の果樹を育てるには長い年月がかかるのにも関わらず、3〜5年程度で主力製品が入れ替わっている様子を見ると、栽培者の努力と意欲に頭が下がります。
 10kmばかりのフルーツラインの間に1軒だけキノコを栽培している農家があります。まだ若い人が、倉庫のような作業場を作って、いろいろなキノコの栽培に挑戦しています。何年か前に、ミカン箱一杯ほどの大きなエノキダケを買ったことがあります。今はまだキノコの季節ではないので立ち寄りませんでしたが、今年はどんなものを育てているのか興味があります。
 毎年フルーツラインに行ったときは、場所を替えて温泉で一泊することにしています。今年は飯坂温泉の奥にある穴原温泉に泊まりました。泊まったのは創業163年という旅館で、風呂も山や渓流の景色も申し分ありませんでした。創業当時は、炊事道具と食料を担いで山道を何時間も歩いてたどりつく湯治場だったと思います。70才のオールドドライバーには片道370kmの運転はかなりのハードワークですが、来年はどこの温泉に泊まろうかなどと考えています。

都丸敬介(2003.8.12)

なんでもマルチメディア(314):英国の温泉

 毎週、温泉巡りのテレビ番組があり、テレビドラマでも温泉旅館を舞台にしたものが数多くありま
す。日本人の温泉好きは、2000年前のローマ人と競っているように思えます。
 英語の風呂(bath)の語源になったというバースで、1970年代に閉鎖された温泉が近く全面的にリフォームして再開されるというニュースに、心をときめかしている日本人が沢山いるかもしれません。
 バースの温泉が開発されたのは、ローマ人が英国に侵攻した西暦43年から410年の間だということです。当時の大浴場が今も残っていて、私も手を入れて見ました。ドイツやオーストリアには有名な温泉保養地がいくつもあるので、英国にも各地に温泉があるのだろうと漠然と思っていたのです
が、バースが英国唯一の天然温泉だということです。ローマ人がよく探したと感心します。
 以前、休日にロンドン発の一日観光バスに乗ったことがあります。目的は巨大な石の遺跡ストーンヘンジでしたが、ストーンヘンジを見た後で訪れたバースの眺めには感激しました。谷をへだててバスの窓から見た町並みはまぶしいばかりに輝いていました。18世紀に整備されたこの町並みが、今は世界遺産に指定されていることが納得できます。
 英国の推理小説作家ピーター・ラヴゼイの作品には、英国推理作家協会賞を受賞した日本語訳タイトル「バースへの帰還」を始めとして、バースを舞台にしたものがいくつかあります。国内、国外を問わず、訪問したことがある場所を舞台にした小説を読むのは楽しいことです。そのうちに、新しいバースの温泉を舞台にした小説が生まれるかもしれません。

都丸敬介(2003.8.3)

なんでもマルチメディア(313):IPセントレックス

 コンピューターのために開発されたIP(インターネット・プロトコル)ネットワークを利用するIP電話が、格安電話として注目されています。さらに、IPネットワーク事業者は、PBX(構内電話交換機)を使っている企業内電話網の代替手段 として、IPセントレックスサービスに力を入れています。
 日本ではあまり知られていませんが、米国では以前から既存の固定電話網を利用するセントレックスサービスが普及しています。セントレックスは、電話会社の電話交換設備を利用して、PBXと同様の企業内電話サービスを実現する方法です。セントレックスでは、一般的な公衆電話サービスと違って、ユーザー独自の電話番号を全ての電話機につけることができます。ユーザーの構内にPBXを設置する必要がないので、PBXを使う場合と比較して、運用や保守のコストを減らせる場合があります。
 IPセントレックスの実現方法はいろいろありますが、典型的な方法では、IP電話機能を内蔵したIP電話機をLAN(ローカル・エリア・ネットワーク)につなぎます。そして、LANと通信事業者のIPネットワークを高速回線でつなぎます。
 IPセントレックスのような新しい技術が生まれると、利点だけが強調される傾向があります。しかし、利点と同時に弱点もあります。また、利点を生かせるユーザーの条件もあります。IPセントレックスの導入を検討するときに特に注意するとことの一つに、停電対策があります。停電時に全てのIP電話機が使えなくなるとしたら何が起こるか、このような緊急事態にどう対処するのかといったことを十分に検討することの重要性を忘れてはなりません。LANと通信事業者をつなぐ回線の性能設計が適切でないと、電話の使用率が大きくなったときに音声品質が劣化する可能性があります。忙しいときに電話の音声品質が悪くなり、ユーザーがいらいらすることがないようなシステム設計が大切です。
都丸敬介(2003.7.27)

なんでもマルチメディア(312):システム評価

 以前、ある企業の経理部門の幹部社員に「あなたの部署ではどのような仕事に最も力を入れていますか」と質問したことがあります。答えは「受注や売り上げなど、経営に関する全ての項目について、毎月の予算と実績のデータを集め、誤差が生じた原因を解明することです」ということでした。これは当たり前のことですが、確実に実施するには大きな努力が必要です。
 今日(2003年7月20日)の朝日新聞に「計画(事前査定)より成果(事後評価)を重視する予算制度改革が04年度予算編成から部分的に実施される」という記事がありました。「各省庁はモデル事業を提案して成果目標を示し、目標の達成度合いを事後評価した結果を翌年度以降の予算に反映する」という内容ですが、各省庁はどうやら消極的なようです。
 情報通信システムの開発では、性能や信頼性、安全性など多くの項目について、設計目標値を明示して事後評価を行います。ところが、当初の目標値がなく、結果だけで妥当性を主張しているケースをよく見かけます。また、最初に目標値が示されていても、評価方法の規定がないために、事後評価ができないケースもあります。性能や信頼性の値はシステムの規模や利用状態によって変化します。したがって、目標値を決めるときは、それが成り立つ条件の範囲を明確にする必要があります。事後評価のデータを収集したときも、そのときの条件をデータに添付することが基本です。ところが、条件の説明が無く、特定の条件でのデータが一般的に成り立つような誤解を与えていることが少なくありません。
 評価には大きな時間と費用がかかります。このために、形式的でずさんな内容になりがちですが、情報通信システムに限らず、あらゆる分野で評価制度の充実が求められます。

都丸敬介(2003.7.20)

 

なんでもマルチメディア(311):電気通信事業法

 今開かれている国会で、電気通信事業法の大幅な改定が決まったようです。1985年 に施行された電気通信事業法は、電気通信事業を自由化した画期的な法律であり、この法律が施行されてから1〜2年の間に数百の電気通信事業者が生まれました。当時 の郵政省の関係者が「一つの新しい法律が生み出した企業数の多さでは記録的だ」と 胸を張っていたことを思い出します。 従来の電気通信事業法では、電気通信回線設備を所有している第一種電気通信事業者と、電気通信回線設備を借りて通信事業を行う第二種電気通信事業者が区分けされていましたが、今回の改訂では第一種と第二種の区別が無くなりました。通信料金設定の自由度も一段と大きくなったので、同じ通信サービスでも、利用条件によって料金設定の幅が大きくなるようです。
 法律の改定によって、新しい通信サービスの開始が加速されるのは好ましいことですが、気になることも幾つかあります。一つは、サービス品質の低下です。すでに、ADSLサービスについてユーザーの苦情が急増していることが報告されています。電気通信サービスの品質は、使う技術や設備の性能で大きく変わります。サービス品質の変動が大きい技術を使う場合に、できるだけ安定したサービス品質を維持する方法の研究が行われていますが、実施状況は十分ではありません。気になることのもう一つは、ハンディキャップの拡大です。人口密度が小さい地方では、ユーザー当たりの電
気通信設備コストが割高になります。このために、すでにサービス格差が広がっています。その上にコストが高いことを理由にした料金の値上げが行われる可能性も考えられます。全国のどこにいても、良好なサービスを妥当な料金で利用できるようにするための努力が益々必要になります。
都丸敬介(2003.7.13)

なんでもマルチメディア(310):ウィンブルドンテニス

 今年のウィンブルドンテニス大会も大詰めを迎えました。テレビで試合を見ていると、1980年代のことを思い出します。この頃、毎年6月下旬にロンドンで開かれていた技術コンファレンスに、何年か続けて参加していました。
 コンファレンスで新しい知識を集め、各国の専門家たちと情報交換をすることは楽しいことでした
が、同時に、ウィンブルドンテニスのテレビ放送を見る楽しみがありました。まだイギリスのテレビ放送チャンネルは少なく、BBC (英国放送協会)の放送も2チャンネルしかなかった時代ですが、2つのチャンネルで別のコートの試合を実況中継することがよくありました。公共放送ですから、コマーシャルの中断がなく、しかも試合が長引いても、最後まで放送しているのを見て感激しました。
 1980年代はヨーロッパのどの国も、テレビ放送のチャンネル数が少なかったという記憶があります
が、1990年代後半以降は、どこの都市でもホテルで見ることができるチャンネル数が非常に多くなりました。どこから流しているのか調べたことはありませんが、「ユーロスポーツ」チャンネルはどこでも見られます。時には、初めて見るスポーツ番組に出会うことがあります。スポーツ番組は解説がわからなくても見ていて楽しめます。
 スカイパーフェクTV!ガイドの7月号を見ると、ウィンブルドンの試合が終わっ た後の7月12日から24日まで、ダブルスゲームの放送があるようです。終わったゲームを見るのも悪くありませんが、ライブの中継放送ほどの緊張感がありません。
 「ブロードバンドネットワークのインフラ整備が進んできたけれども、流すコンテンツがない」ということが繰り返して報道されています。解決しなければならない、著作権問題や技術的問題がまだ沢山あることでしょうが、いつになったら、日本にいて、世界の放送番組を自由に見られるようになるのかわかりません。ブロードバンド先進国の名前が恥ずかしくなります。

都丸敬介(2003.7.6)

なんでもマルチメディア(309):ADSLの速度

 ADSL(非対称ディジタル加入者線)の伝送速度表示があいまいで実態に合わないこ とについ
て、利用者の苦情が増えてきたために、総務省が広告表示基準の作成作業を始めたということです。既存の電話用銅線ケーブルを利用するADSLは、ケーブルが長 くなるほど最大伝送速度が低下することが、専門家にはよく知られています。
 各種のDSL技術が出揃った1998年の始めに米国で出版された専門雑誌には、最大8Mビット/秒のADSLでも、12,000フィート(3.6km)では6Mビット/秒、18,000フィート(5.4km)では1.5Mビット/秒に伝送速度が低下することが示されています。これらの値は最も良い状態のときの値であり、外部ノイズなどの影響のためにケーブル長2kmでも、実際に使える伝送速度が2Mビット/秒以下に低下することがあ ります。
 ADSLサービス事業者が宣伝している最大伝送速度が8Mビット/秒から12Mビット/秒になり、最近は20Mビット/秒クラスで競い合っていますが、最大速度を実現できるのは電話局からの電話ケーブル長が2km以下の利用者に限られます。
 ADSLに続いて、最大52Mビット/秒のVDSL(超高速ディジタル加入者線)が注目されていますが、VDSLの性能はケーブル長が1kmでは26Mビット/秒に半減することが報告されています。
 ADSLの性能に対する利用者の苦情が増えているのは当然のことであり、このことを利用者に説明していないサービス提供事業者の道義的責任は重大です。情報通信分野では、ADSLに限らず、利用条件によって品質が変化するサービスが増えています。ほとんど読めないような小さい文字で「サービス品質が変化することがあります」と いった説明書を付けるのではなく、利用者に分かるようにサービス品質を説明することが益々重要になっています。

都丸敬介(2003.6.30)

なんでもマルチメディア(308):技術解説

 ある出版社から頼まれていた、通信ネットワーク分野の先端技術解説書の原稿を書 き上げて、気が抜けたような状態になっています。単行本一冊の原稿を書くことは、 マラソンを走るようなことです。これと較べると、雑誌の連載記事を書くことは、中距離を走るのに相当します。スポーツの世界では、マラソンを走りながら、中距離走や短距離走を挟み込むことはできないでしょうが、原稿書きではそれができるから面白いことです。ビジネスでも、大規模プロジェクトを推進しながら、幾つかの小さなプロジェクトをこなすことがあります。
 原稿を書くことや、セミナーで講義することは、調理師の仕事に似ています。お客 さんである読者や受講者の層を想定して、素材を選び、選んだ素材をどのように表現 するかを考えます。技術解説の基礎素材はテーマと用語です。同じ素材を選んでも説明方法はいろいろあります。長時間の講義だと、話をしながら受講者の反応を感じることができるので、一つのテーマあるいは用語の説明方法を調節できますが、本の場合は原稿を書いているときには読者の反応がわからないので、どうしても見つくろっ た内容になってしまいます。
 技術解説書を書くときには、内容が正しいことを確認するのに多くの時間がかかります。長い年月にわたって特定の専門分野の仕事をしてきた人でも、実際に体験することには限りがあります。実際には扱ったことがない内容を解説するときには、多く の情報を集めて分析し、自分の世界を描くことが大切です。他の人の言葉を単純に受 け売りすることは危険です。文献や資料を調べていて、疑問を感じたり矛盾に気が付 くことがあります。このようなときに、本当のことを確認するのは簡単ではありませ ん。ときには勘違いしたことを書いてしまい、後で反省することがあります。
都丸敬介(2003.6.22)

なんでもマルチメディア(307):迷惑メール

 以前から米国発の迷惑メールが届いていましたが、昨年(2002年)秋頃からその量 が急速に増えてきました。今では毎日20件くらいになりました。朝届くものと夜届 くものにグループが分かれているところをみると、米国の東部と西部に発信元が集 まっているように思えます。苦情を申し立てたりすると、かえってこちらの存在が はっきりしてしまうので、全て無視していますが、米国のネット社会の暗部を毎日感 じています。
 米国内でも大きな社会問題になっていて、連邦議会に複数の迷惑メール規制法案が提出されているということです。どのような決着になり、どのような効果がでるのか分かりませんが、文明の利器の利用を一部の人たちの悪用のために規制しなければな らないのは悲しいことです。
 日本国内発の迷惑メールも一時期増える傾向がありましたが、すぐに規制が行われ た効果があったようです。米国と比較して、日本はインターネット空間も治安が良い ようです。
 一度、米国発のダイレクトメールに、大量の電子メールアドレスを収録したCDを低価格で販売するというのがありました。もちろん無視しましたが、その中に私のメールアドレスも含まれているのかと思うとぞっとします。迷惑メールの発信元を規制するだけではなく、メールアドレスリストの販売規制も必要です。こうしたこと は、国内の法律だけでは防ぎきれないので、国際的な連携が必要だと思います。日本政府の頑張りを期待するのは無理でしょうか。
 私が使っているメールソフトウェアは、一度受信した迷惑メールの送信元を選別リストに登録しておくと、そこからの着信メールを自動的にゴミ箱に捨てる機能があり ますが、受信する前にインターネットサービス事業者に廃棄処分してもらえると助かります。ユーザーの希望にしたがって、サービス事業者が迷惑メールを合法的に廃棄処分することを期待しています。
都丸敬介(2003.6.16)

なんでもマルチメディア(306):携帯電話機の技術

 最先端技術の多くは、ニーズ主導で生まれています。携帯電話機の急速な進歩を見ていると、日本の企業が持っている技術力に驚かされるばかりです。
 1990年代に爆発的に携帯電話が普及した理由の一つは、小型で軽く、電池寿命が長 い携帯電話機が出現したことです。携帯電話機には、多数の小さな部品が詰め込まれていて、薄いペラペラした配線板でつながれています。折り畳み型の携帯電話機の使用者の多くは、1年間に数千回から1万回も開いたり閉じたりします。中学生や高校生は1年程度の周期で新しい機種に買い替えることが多いと言われていますが、その理由は、必ずしも新機種が出てきたためではないようです。頻繁な開閉やメールのメッセージ入力を始めとするすさまじい回数のボタン操作に加えて、落とすことがあ るので、機械的にガタガタになるようです。そこまで使い込まれれば、機械としては本望でしょう。デリケートな機械がよく持ちこたえると感心します。
 携帯電話機の実現技術は、ハードウェアだけではなく、ソフトウェアについても非常に高度です。組み込まれているコンピューターチップの性能やメモリー容量に厳し い制約がある中で、多くの機能を実現している技術は立派です。新機種の発表から発売までに予想以上の時間がかかったり、発売後にソフトウェアの欠陥が見つかったことが、これまでにも何度か新聞などで話題になりました。こうしたことは排除しなければなりませんが、それほど難しい技術なのです。
 カメラ付き携帯電話機のレンズの原料は、普通のカメラで使われているプラスチックレンズの原料とは違
う、透明度が高くて吸水性が低い、特殊な樹脂だと言うことです。
 広い範囲にわたる高度技術の固まりである携帯電話機を解剖すると、さらに新しい産業につながる興味深い発見がいろいろありそうです。

都丸敬介(2003.6.7)

なんでもマルチメディア(305):コンコルド

 2003年5月31日、超音速旅客機コンコルドの最後の飛行が終わったことが報道されました。残念ながらコンコルドに乗ったことはありませんが、ロンドンのヒースロー 空港やパリのドゴール空港で何回も見ました。一度は、着陸態勢に入って、手が届くくらいに感じる低空で頭の上を通り過ぎるのを見ました。
 コンコルドは実に優美で、しかも力強い飛行機でした。これが実現したのは、時代に恵まれたからだと考えられます。テスト飛行が始まったのが1969年で、実際に就航 したのが1976年だったそうですが、この時代は、人類初の月着陸を始めとしていろいろな宇宙開発プロジェクトが花盛りだった頃です。引退したコンコルドの後継機種が無いことを思うと、コンコルド開発プロジェクトは、今の時代では日の目を見なかっ
たのではないでしょうか。コンコルドの開発に参加した人たちがその後どうなったのか知りませんが、開発期間中は技術者として幸せだったにちがいありません。
 規模の大小を問わず、自分が開発に関わったシステムや製品が実用になるのは嬉しいことです。ときには技術者になって良かったと心から思うことがあります。一方で は、情熱を傾けたプロジェクトが完成しないうちに中止になったり、あるいは、実用になっても短い寿命で終わってしまうことがあります。恵まれなかったプロジェクトを、参加したメンバーを傷つけずに終結することは、プロジェクトを立ち上げる以上 に大切なことです。きちんとした締めくくりをしないで放棄されたプロジェクトの参加者は気の毒です。
 大学のエンジニアリング教育でも、適切な締めくくり方法の教育が必要かもしれません。
都丸敬介(2003.6.1)

なんでもマルチメディア(304):大学の講義

 某工科系大学から頼まれて、在学中に経済産業省主催の情報処理技術者試験に挑戦 する講座で講義をしています。挑戦する科目は、テクニカルエンジニア(ネットワー ク)という、ハイレベルの試験です。毎年10月に試験があり、昨年は受験申込者が 6万人弱、合格率が4.2%という、人気があるけれども難しい試験です。昨年は合格者が二人出たので、大学側も喜んでいます。毎年最初の講義の日に、「スポーツで いえば全国大会に挑戦することに相当するのだから、合格すればそれなりに評価される」と説明しています。

 試験の出題内容の多くは、企業などで実際に使われているネットワークシステムを題材にしているので、受験勉強を通して卒業後に就職する社会で何が行われているのかということをかいま見ることができます。最近の学生は全員がインターネットを利用しているし、大学にはLANが設置されています。
また、学生の中にはADSL利用者もいます。したがって、これらの仕組みや、使われている技術には関心があり、それだ けに理解も速いようです。

 この講座を企画した先生の話では、「情報通信システム全体の仕組みや、各教科で 教えていることの有機的な結びつきの整理ができるので、この講座には予想していなかった付随的な効果がある」とのことです。そういえば、大学4年間のカリキュラムを見ると、各論をボトムアップ的に積み上げるのが一般的であり、早い段階で、学問領域全体をトップダウン的に把握できるような講義が少ないようです。このことは、 今後の検討課題かもしれません。

都丸敬介(2003.5.24)

なんでもマルチメディア(303):デジカメ

ディジタルカメラ(デジカメ)の年間出荷台数がフィルム式カメラを追い越したと いうことですが、数十年間ズームレンズ付き一眼レフカメラを使ってきたので、デジカメを使うことに心理的抵抗感がありました。
けれども、昨年(2002年)秋に、松下電器が発売したLUMIX DMC−FZ1というデジカメの虜になってしまいまし た。

 このカメラは従来の一眼レフのような形をしていて、キャノンやニコンの35mm一眼レフカメラと較べると、縦横ともに20%くらい小さくなっています。最大の特徴は、35mmフィルムカメラ換算で、35mm〜420mmの12倍ズームレンズ が付いていることです。従来のカメラのズームレンズは大きく伸び縮みします。この カメラのレンズも伸び縮みしますが、最大の望遠にしても、伸びる長さは20mmです。これはすごいことで、優れたレンズの設計技術の成果です。残念なことはこのレンズが国産ではなくドイツのライカ製だということです。

 ただし、このレンズの性能を効果的に活かすために使われている手ぶれ補正技術 は、日本で開発された優れた技術です。従来のカメラで400mmの超望遠レンズを使うときは、三脚を使うなどしてカメラをしっかり固定しないと手ぶれを起こします。

けれども、このカメラは最大倍率の望遠にして手持ちで写しても、写真の手ぶれ は素人目には分かりません。松下電器の技術者が開発した手ぶれ補正技術は、今週発表になった、2003年度全国発明表彰で、最高位の恩賜賞に決まったということです。私も利用者の一人として拍手をしたい気持ちです。
 デジカメが便利なのは、容量が大きいメモリーをカメラに入れておけば、残り枚数を気にしないでパチパチ撮影できることです。

過日海外旅行をしたときには300枚くらい写しました。帰国してすぐに、撮影した写真をパソコンで編集し、A4版で10枚程度のメモ付き旅行記録にまとめて、同行者に配ったところ、皆驚いていました。

都丸敬介(2003.5.18)

 

なんでもマルチメディア(302):遺跡の旅

タイ中央部の町アユタヤとスコタイの遺跡、そして、カンボジアのシェムリアップ近郊に広がるアンコールの

遺跡群を歩き回ってきました。9世紀から15世紀の始め まで続いたクメール王朝によって作られた、

アンコール・ワットやアンコール・トムを中心とするアンコールの遺跡は、写真から想像したよりもはるかに

壮大で見事でし た。

 永く続いた内戦の影響で、隣のタイと較べて国の近代化がかなり遅れたことがよくわかりますが、アン

コール観光の基地になるシェムリアップには快適な近代的ホテルが多数あります。公務員の平均給与

が月額50米ドルだというのに、欧米並みの一泊数百ドルのホテルに泊まるのは複雑な気分ですが、

快適な滞在ができることは間違え ありません。

 フランスの文化教育担当大臣を務めた作家のアンドレ・マルローが、略奪しようとして発覚し、現地で

禁固刑を受けたことから有名な、東洋のモナリザと呼ばれるバンテアイ・スレイの女神の彫刻は実に魅

力的です。

 この時代のことを書いた、アンドレ・マルローの小説「王道」を帰国後読み直しました。この小説に描

かれている1920年代のカンボジアの状況は今も残っています。

シェリムアップの近代的なホテル地区から10kmと離れていない村には電気も水道もありません。それで

もテレビはかなり普及しているようです。高いアンテナ塔が目に付くので、ガイドに尋ねたところ、テレビ用

アンテナだということでした。電気はガソ リンエンジン発電機による自家製だそうです。日常の交通手段

は自転車とバイクです。バイクの3人乗りや4人乗りをよく見かけました。道端の屋台で売っている色付

きの液体は、清涼飲料水かと思ったらガソリンでした。SARSの影響で、飛行機もホテルも

ガラガラでした。

都丸敬介(2003.5.11)

なんでもマルチメディア(301):光IPネットワーク

 NTTが4月23日に発表した3カ年計画によると、光IPネットワークサービス に力を入れて、2005年

には売上高2兆1千億円を目指すということです。

IP(インターネット・プロトコル)はインターネットのために開発された技術で、1983年から使われている

、すでに使い込まれた技術です。IPが開発された時代の通信回線は伝送速度が遅かったので、低速

回線を能率良く使うことで通信コストを節約することが重要でした。しかし、現在の光ファイバーネットワ

ークは伝送速度が非常に速いので、光IPネットワークでは、従来のIPネットワークではできな かったい

ろいろなことが実現できるようになります。ただし、光IPネットワークを新しい時代を支える基盤として活

用するためには、これまでの通信ネットワークでは困難だったことを実用化する新しい発想が必要です。

 家庭まで光ファイバーを引き込むFTTH(ファイバー・ツー・ザ・ホーム)でブロードバンド通信を実現で

きるといっても、魅力的なキラーアプリケーションがないではないかということが繰り返して指摘されていま

す。それでも、IPネットワークによる音楽会のライブ中継などが始まっています。

 IP電話の利用者が急増していますが、現在のIP電話のサービス機能は、既存の電話のレベルに達

していません。ただし、IP電話の実現技術は、もともと多地点ビデオ会議、つまり、複数の人が参加で

きる仮想的な井戸端会議を想定したものです。

そして、音声を文字に変えるメディア変換や、複数のデータ符号化技術の中からどれかを選んで使うな

どができるようになっています。このような、まだ使い込まれていない既存の技術を組み合わせるだけで

も、新しいアプリケーションを開発できるのですから、3年後にどのようなサービスが実用になるのか楽し

みです。

都丸敬介(2003.4.26)

なんでもマルチメディア(300):誤報

 朝日新聞(2003年4月13日)のコラム「天声人語」を読んで驚きました。

「先日、トロイの丘に登った。古代ギリシャの詩人ホメロスの叙事詩とされる『イーリアス』で有名なトロイ戦争

の舞台だ。(中略) 丘の下に横たわるダーダネルス海峡を挟んで、こちら側がアジア、向こうがヨーロッパ側だ

大小の船が盛んに行き交 う様を見ていると、海峡は、大陸を分かちながら、一つに溶かしているように

も思われる。隣国のイラクで、国連の査察が続く頃だった。(原文のまま引用)」

 私は昔読んだトロイ戦争物語の舞台を自分の目で見たいと思い、数年前にトロイの遺跡に行きまし

た。イーリアスに描かれている情景から、海が見えると思っていたのですが、海は見えず、トロイの丘の下

には草原が広がっていました。トルコ人のガイドに尋ねたところ、丘の近くを流れている川の土砂が堆積

して、数千年の間に次第に海岸線が遠くなり、今は海が見えないのだということでした。

 今回のイラク戦争は、テレビを始めとする情報戦争として特徴付けられることが、 テレビや新聞で繰り

返して解説されました。そして、意図的な情報操作が行われていて、何が真実か分かりにくいということ

が指摘されました。こうした時期に、真実を正確に伝える使命を持っている新聞の看板コラムが、多くの

人が知っている事実とは異なることを堂々と活字にしたことに疑問を感じます。

 最近は、新聞や雑誌に掲載される情報通信関係の記事が多くなり、技術解説も掲載 されていま

すが、曖昧な記述や誤った解説がかなり目に付きます。正確で分かりやす い解説を書くのは難しいこと

ですが、誤った記述は困ります。

都丸敬介(2003.4.20)

なんでもマルチメディア(299):農村電話

 1955年、当時の日本電信電話公社に共に入社した友人のFさんが、先月末に71才で 現役か

ら引退しました。Fさんは、最後の仕事で、東南アジアのある国の政府から金メダルを授与されまし

た。この仕事は大きなプロジェクトではなく、町から離れた小さな村に通信回線を設置して、村の人

たちが電話やインターネットを利用できるようにしたというものです。テストシステムの開通式には、政

府の高官が出席して、テレビニュースで中継されたということですから、現地の人たちの喜びがよく分

かりま す。

 Fさんの仕事はシステム開発のコンサルテーションでした。話を聞くと、国際的な激しい提案合戦

があり、設置したシステムに落ち着くまでにいろいろな問題があったようです。決め手は、出稼ぎのた

めに村から離れた人たちの声を、月に何度か聞くことができれば十分だという、基本的な要求を経

済的に実現することにあったようです。

 この話を聞いて、私自身の昔の貴重な経験を思い出しました。入社して間もない訓練生の時代

に、北関東の山奥の村に1本の公衆電話回線を設置する仕事を命じられました。電話ケーブルを

設置するのには費用と時間がかかりすぎるので、開発されたばかりの3チャンネル無線装置を使うこ

とになりました。この無線装置を操作するためには、国家試験に合格した無線技術者の資格が必

要なので、付け焼き刃の勉強をして 資格を取得しました。開通式には電電公社の幹部が招待さ

れたのですが、代理を務めるよう指示され、村の長老達に囲まれて宴席の上座に座るという大変

なことになりま した。

 Fさんの話を聞いて、その国の現在の姿が50年前の日本の姿に重なると同時に、その国の将来

の姿が見えるような気がしました。Fさんという一人のエンジニアが植えた苗が大きな森に育つことを

期待しています。

都丸敬介(2003.4.12)

なんでもマルチメディア(298):近所の春

 2−3日暖かい日が続いたら、家に近い公園の桜が一斉に咲き始めました。この小 文を書いて

いる部屋の窓から見える、梅林の花が残り少なくなり、数本のハナモモのつぼみが急に膨らみ始め

ました。平凡社の百科事典には「ハナモモは成長は速いが、寿命も比較的短い」とあります。今見

ているハナモモは樹齢30年を超したかなり大 きな樹で、毎年満開になると、カメラを持った人たち

が集まってきます。

 去年、庭のアンテナ塔のてっぺんにカラスが巣を作り、一羽の子ガラスが巣立ったので、今年はど

うかなと思っていたところ、今年もやってきました。去年のカラスと同じかどうか分かりませんが、巣作り

の技術進歩に驚きました。木の枝をくわえてきて組み合わせるのですが、非常に不安定な場所な

ので、去年は基礎工事に手間取り、巣が形になるまで3週間くらいかかりましたが、今年は1週間

で立派な巣ができまし た。

 去年の巣は、秋の台風で跡形もなく吹き飛んでしまったので、工事開始条件は同じはずですが

工事方法が違うのです。アンテナの棒が十文字に交差している上に巣をつくるのに、去年は中心

部分から小枝を積み上げ始めました。ところが安定性が悪い ので、積んだ枝がすぐに落ちてしまい

ました。今年は、かなり長い枝を持ってきて、巣の外枠から組み立て始めました。外側の大きい部

分を安定させてから、内側を補強したので、地面に落ちて無駄になった材料はほとんどありません。

どのような学習をしたのか、あるいは考えたのか不思議です。

 去年気付いたことですが、カラスが巣を作った後、庭を荒らす野良猫が遠ざかりました。カラスに威

嚇されて怖いのでしょう。昨日の朝、面白い光景を見ました。野良猫がアンテナ塔に腕を絡ませて

立ち上がり、写真で見たミーアキャットと同じ形で首を伸ばして、巣を見上げているのです。しばらく

見ていて納得したのか、どこかに消え失せました。

都丸敬介(2003.3.30)

なんでもマルチメディア(297):戦争報道

 3月20日に始まったイラク戦争のテレビ放送を見ていると、改めて情報通信ネッ トワークの進歩

の早さに驚かされます。

 砂漠を移動中の軍用車からの状況解説や、各地から送られてくる映像を見聞きして 感じること

は、衛星通信回線利用の柔軟性が一段と進んだことと、通信機器の技術進 歩です。低速電話

回線を使っているためと思われる品質が悪い映像の放送もあります が、大部分の映像品質は、ア

フガニスタン戦争の報道と比較して、かなり良くなった 感じです。音声の明瞭度も良くなりました。

 テレビ放送の解説によると、今回の戦争の大きな特徴は、戦略情報ネットワークの進歩だという

ことです。GPS(全地球測位システム)によるミサイル誘導精度の大幅な改善だけでなく、コンピュ

ーターネットワークによる、迅速で緊密な情報交換システムが活躍しているようです。戦車に搭載さ

れたコンピューター・ディスプレイ に、カーナビゲーションのような画面が表示されて、その中にいろい

ろな情報や指示 が示されている映像がありました。

 このようなシステムのソフトウェアの規模はどのくらいあるのだろうか、実戦に使 う前にどのようなテ

ストをしたのだろうか、故障や破壊のために機能しなくなったときはどうなるのだろうか、などと考えると

、技術的興味が尽きません。

 軍事目的で開発された技術の多くが、その後、日常生活のための便利な道具に転用 されてい

ます。GPSもその一つです。一日も早く戦争が終結して、今回の戦争を特 徴付けた情報通信技

術が、平和な社会をいっそう快適にするために活用されることを 期待します。

都丸敬介(2003.3.23)

なんでもマルチメディア(296):コールセンター

 中国の大連に電話コールセンターを開設する企業が出現したということです。コー ルセンターは、

電話による各種の問い合わせに応対する窓口ですから、企業の顔とも 言える場所です。これを国

外に設置するということは、いくつかの重要な時代の変化 を示しています。最も重要なことは、中

国の人件費が安いので、通信料金が増えて も、コールセンターの運営にかかるトータルコストが減

るということです。このこと が成り立つほど、長距離電話のコストが低下したわけです。

 コールセンターの先駆者と言えるのが電話番号案内です。NTTは数十年前に電話番号案内

業務を集中化しました。それまでは、各地域の市内電話局がもっていた電話番号案内業務を、

少数の場所に統合したのです。電話番号を問い合わせる人が持ってい る情報があいまいな場合

、応答する人にはある程度の土地勘が求められます。そこで、オペレーターの訓練の一環として、

担当地域に出張して土地勘をつけることが行 われました。

 中国に開設されるコールセンターの中には、自社製品のためのコールセンターでは なく、複数の

企業からコールセンター業務を請け負うものがあるようです。この場合 は、規模を大きくするほど、

人件費が安いことの効果が大きくなります。コールセン ター利用者が住んでいる場所の土地勘や

生活様式についての知識が無くても、マニュ アル通りの応対ができるようにオペレーターを訓練すれ

ば、無難に業務をこなせるのでしょう。

 外国人のオペレーターを相手にして、外国語の学習をするといった、コールセン ターの新しい活

用方法がそのうちに実現するかもしれません。

都丸敬介(2003.3.16)

なんでもマルチメディア(295):コンテンツ識別

 ブロードバンド情報流通ネットワークの利用者が急速に増加していますが、大部分 の利用者は、

既存のインターネット利用者です。新しい利用者を開拓するには、従来 のインターネットのホーム

ページとは異なる、多様な情報コンテンツが必要だという 指摘が繰り返されています。そして、いろ

いろな形態のコンテンツ流通が試みられて いますが、新しい時代の幕を開けるようなキラー・コンテ

ンツが現れていません。

 しかし、魅力的なコンテンツは沢山あります。例えば、NHKがテレビジョン放送 開始50周年記

念に開設した、NHKアーカイブスのコンテンツを家で見ることがで きれば、素晴らしいことです。世

界中で毎日制作されている放送番組も魅力がありま す。これらのコンテンツの自由な流通を妨げ

ている原因の一つとして、コンテンツの 知的財産権に関する法律の不備が指摘されています。

 コンテンツの財産権あるいは所有権を無視した不正コピーの流通が既に行われてい ることに対し

て、有効な対策がないからコンテンツを流通ネットワークに乗せないと いうのは非建設的な発想で

す。こうした問題を解決するのに役立つ技術の一つとし て、個々のコンテンツを識別するコンテンツ

識別子(コンテンツID)の国際標準化 が検討されています。単に、コンテンツの検索に利用するだ

けではなく、不正に流通 しているコピーの出所を突き止める、追跡可能性(トレーサビリティ)機能

も検討さ れています。

 制度と技術がうまく連動して、豊富なコンテンツが世界規模で流通する時代がくる ことを期待し

ています。

都丸敬介(2003.3.9)

なんでもマルチメディア(294):あかい酒

 デパートの日本酒売場に、「あかい酒」というのがありました。ワインのロゼに似た、あまり濃くない色

の、透明感があるきれいな酒です。紅麹を使って赤い色を出し たということです。さらりとした感触で

、冷やして飲むのに適しています。オンザ ロックやカクテルのベースにすると良いという説明書が付いて

いましたが、これは日本酒になじみが薄い若い人たち向けの説明かもしれません。

 日本酒ではありませんが、外国の航空会社の機内では、知らなかった酒に出会うこ とがときどきあ

ります。その一つに、フランスの航空機で見つけた、梅のブランデー があります。ブランデーというと、ワ

インを蒸留したものと思っていましたが、果実 酒を蒸留したものはみなブランデーだそうで、梅のブラン

デーのラベルには、ブラン デーを意味するオー・ド・ヴィーと書いてありました。これを見つけたときに隣

席に いた人が物知りで、ドイツとの国境に近いストラスブールで作られていると教えてく れました。そ

の後しばらくしてから、パリの空港の売店で、このブランデーに再会し ました。同じメーカーの製品で、

梅のほかにも梨など数種類のブランデーがありまし た。

 フランスの北部、ノルマンディのカンに滞在したことがありますが、ここの特産品 は、リンゴのブランデ

ー「カルバドス」です。ホテルの売店には、何種類ものカルバ ドスがあるのに、ブドウのブランデーはあ

りませんでした。

 オーストリア土産として人気がある「モーツァルト」を知ったのは、オーストリア 航空でウィーンに行っ

たときです。とろっとしたチョコレート味のこの酒を、スチュワーデスがオンザロックにしてくれました。オスロ

ーからフランクフルトに飛んだ飛 行機の機内には、ドイツ産のアルコールなしワインがありました。赤と

白の両方が 揃っていて、軽い甘口ワインの風味がありました。ビジネスランチや、パーティー用 に人

気があるということです。こうした、雰囲気作りに適した酒がいろいろあること は、その国や地方の文

化、あるいは生活様式と深く関係があるのかもしれません。

都丸敬介(2003.3.2)

なんでもマルチメディア(293):eスクール環境

 光ファイバーケーブルと高速無線LANのネットワークインフラに、大量のパソコン を接続して、インタ

ーネットに自由に高速アクセスできるシステムが、幾つかの小学 校に導入されたということです。これ

は、小学校でのパソコン導入が、パソコン・リ テラシー教育の段階から一歩進んで、パソコンとインタ

ーネットを学習のための手段 として利用するようになった、画期的なことと言えます。このような学習

環境を「e スクール環境」と呼ぶことができるでしょう。

 eスクール環境が多くの学校に普及すると、多くの分野に新しい影響をもたらすと 考えられます。

特に重要なことは、学校のeスクール環境と同じような学習環境を、 多くの家庭が導入することを希

望するのではないかと言うことです。最近、家庭での ブロードバンド・ネットワーク機能の導入が急速

に進んでいますが、依然として、何 に使うのかということが議論されています。これは、強力なキラー

コンテンツが見え ていないためですが、学校教育で使っている学習教材に家でアクセスして、予習や

復習ができるとなると、学習教材が有望なキラーコンテンツになります。

 eスクール環境と同じレベルの、ブロードバンドネットワーク環境が家庭に普及す ることは、かって、

ピアノが多くの家庭に普及したことに匹敵します。主人や主婦の ためではなく、子供のための設備

導入となると、価値判断の基準が変わります。こう した変革のシナリオを誰が作り、どのように推進

するのか、興味深いことが始まりま した。

都丸敬介(2003.2.24)

なんでもマルチメディア(292):輪読会

 昨年ノーベル賞を受賞された小柴昌俊さんが、日本経済新聞に連載している「私の 履歴書

」(2月16日)の中で、若い頃の話として、「理論物理の研究室だから、昼間 は勉強会だ。最

新の論文を読み議論を闘わせた」と書かれています。

 1950年代に私が就職して配属になった、NTT電気通信研究所の研究室では、毎週時 間を

決めて、世界の最先端研究の論文を勉強する輪読会が行われていました。10人程 度の研究

グループで、グループリーダーが探してきた文献を、手分けして読んで紹介した後、皆で議論をす

るのです。英語の文献だけではなく、ドイツ語やフランス語の 文献を渡されて、死に物狂いで辞

書を調べたことは今でも記憶に残っています。

 1960年代中頃から、次々に大規模の実用化プロジェクトが始まり、いつしか、小規 模グルー

プでの輪読会が消えてしまいました。けれども、新しい研究計画を作るとき には、世界中のめぼ

しい文献を集めて、手分けをして分析しました。このことが、若 い研究者の育成に役立ったことは

いうまでもありません。

 現在、多くの企業の研究開発部門でどのような勉強会を行っているか知りません が、単に情

報を収集、分析するだけではなく、仲間で議論することが大切です。学会 の研究会は、本来そ

のような目的を持っているはずですが、最先端分野で争っている 組織のライバル同士で、本音

の議論ができるかどうかは疑問です。最も好ましい形 は、組織の利害に拘束されない仲間同

士の議論でしょう。この場合も、個人レベルの ライバル関係を完全に除くことはできないでしょう

が、良い意味のライバルがあるこ とは、自己研鑽のためにプラスの効果があります。

 新しい話題を取り上げて議論をするのは、若い研究者だけに役立つことではありま せん。定年

退職して時間ができた人たちが、実社会生活で得た知見をバックにして、 最先端の研究成果

を調べて議論を交わすことは、大変刺激的なことと思います。

都丸敬介(2003.2.16)

なんでもマルチメディア(291):多様なIP電話


 インターネットのデータ伝送技術として普及したIP(インターネット・プロトコ ル)を使って、電話の

音声データを運ぶ、IP電話の普及に弾みがついてきました。一 口にIP電話と言っても、その実現

方法や特徴はいろいろあります。

 第1は、従来の電話網の中の、長距離中継部分としてIPネットワークを使うもので す。本格

的なIP電話サービスを最初に提供した、フュージョン・コミュニケーション ズのサービスがこれに相

当します。電話利用者は既存の電話機を使えるので、この サービスを利用するために新しい端

末機器を導入する必要はありません。音声データ をIPパケットで梱包して運ぶ仕事は、既存の

市内電話交換局と、IP方式の中継ネット ワークをつなぐ場所にある、ゲートウェイという接続装

置が行います。

 第2の方法は、利用者端末で音声データをIPパケットに乗せる方法です。ADSLサー ビス事

業者が提供しているIP電話はこの方式です。この場合は、音声データをIPパ ケットで梱包する

機器を利用者端末の一つとして用意する必要があります。

 それぞれに一長一短があるので、どちらか一方が支配的になるかということは、現 時点では分

かりません。ただし、マルチメディア情報交換機能の実現ということで は、第2の方法が優れてい

ます。IP電話機能を実装したパソコンがすでにあります。

これを利用する、大画面のテレビ電話や、多地点テレビ会議システムの開発は、1990 年代初

期から進んでいます。離れた場所にいる複数の人が同時に参加するテレビ電話 を実現するた

めには、通信の状態を制御するための高度の技術が必要ですが、この分 野の技術も実用段

階になりました。SIP(セッション・イニシエーション・プロトコ ル)という技術がその一つです。SIPの

中身を分析すると、これを開発した人たち の、興味深い夢が見えてきます。

都丸敬介(2003.2.10)

 

なんでもマルチメディア(290):パスワードの安全管理

 社会人相手にネットワーク技術の講義をしている中で、パスワードの安全管理をど のように実

施しているかを尋ねると、驚くほど危ないことが分かります。入手したパ スワードを使って他人にな

りすますことが、ネットワーク犯罪の基本の一つであるこ とはよく知られています。他人が推定しに

くいパスワードを使うことと、パスワード を時々変更することが、ネットワークセキュリティの基本で

あると多くの本に書かれ ていますが、実施状況は、依然として低いレベルにあるようです。

 パスワードに有効期限を設けて、期限切れが近づくと自動的に警告を送るという、 安全なシ

ステム運用方法がありますが、これを行っていない企業が多数あることは、 恐ろしいことです。あ

る企業では、定期的にパスワードを変更するけれども、新しい パスワードを上司のグループリーダ

ーに知らせるようになっているということです。

社員番号や学生番号をパスワードにしている企業や学校もあるようです。皆さんの所 では、ど

のような運用をしていますか。改めて調べてみると、怖くなるかもしれません。

 パスワードを頻繁に変更すると、今使っているのが何か分からなくなることがあり ます。米国で

出版された本で、他人に解読されにくく、本人が覚えやすいパスワード の作り方というのを読んだ

ことがあります。自分が好きな文章の、個々の単語から文 字を選んで並べるという方法は面白

い発想です。アルファベットの間に数字を挟む と、安全性が増すという説明も説得力があります。
 ワンタイムパスワードあるいは使い捨てパスワードという、自動的にパスワードが 変更される技

術もあります。

都丸敬介(2003.2.3)

なんでもマルチメディア(289):eラーニング

 このホームページを掲載しているbinetが事務局を務めている、テレコム・ニュー サービス研究会の1月28日

のセミナーのテーマが「人材育成とeラーニング」となっ ています。

 eラーニングは、情報通信ネットワークを利用する遠隔教育の総称で、放送大学の ようなテレビジョン放送

形式から始まり、テレビ会議システムを利用するもの、そし て、インターネットの技術や設備を利用するものへ

と発展してきました。インター ネット方式のものを、1997年頃からWBT(ウェブベース・トレーニング)システムと

呼んでいましたが、現在ではeラーニングというと、大部分がWBTシステムを意味す るようになりました。

 eラーニングシステムの主な構成要素は、ネットワーク接続され学習者用パソコ ン、 教材サーバー、及び学

習管理システムです。日本国内のeラーニング市場規模 は、2002年度で600〜700億円であり、年率

15%程度の大きな成長率で、数年間は伸び 続けると予想されています。ただし、これまでのeラーニング市場

は、eラーニング システムの構築と教材作成のための投資金額が、学習者からの受講料収入よりも多いよう

です。  eラーニングの普及のためには、いくつかの重要なポイントがあります。なかで も、学習者の設備と教

材の質が重要です。通信インフラとして、高速で動作するLAN を利用できる企業内教育では、通信回線の

伝送速度と通信コストを学習者が気にする 必要がありませんが、不特定の学習者が利用する公開eラーニ

ングでは、必要な伝送 速度と通信料金が、普及の大きな足かせになります。

 セミナーなどに参加する機会が少ない地方在住者にとって、eラーニングは大変有 り難いシステムですが、利

用できる通信回線の伝送速度や通信コストの面で、大都市 在住者と比べてハンディキャップがあります。全

国のどこにいても、最低基準の学習 設備(通信回線やパソコン)を使って、同じコスト負担で学習できるeラ

ーニングシ ステムの実現が、これからの大きな課題です。

都丸敬介(2003.1.26)

 

なんでもマルチメディア(288):分散と集中

 IP電話技術が、従来の電話料金の価格破壊の引き金になりました。過去30年間の電話システムの進化を

見ると、一貫している流れがあります。それは、いろいろな機能のユーザー端末側への分散です。1980年代に

実用になったISDNでは、アナログ音声をディジタル音声に変換する機能が、電話会社の交換機からユーザー端

末に移されました。パソコンを利用するIP電話では、ディジタル音声をパケット化してIP(インターネットプロトコル)

ネットワークに乗せる機能が、通信事業者のゲートウェイからパソコンに移されました。

 複雑な機能をユーザー端末に移せば、電話交換網の内部はすっきりします。したがって、通信コストが下がる

ことになります。その代わりユーザー端末のコストは上昇します。ただし、LSIの進歩によって、ユーザーが高価と

感じない程度のコストで、高度の機能を備えた端末が実現できるようになりました。

 IP電話には、ユーザー端末でパケット処理をするものと、通信事業者のゲートウェイと呼ぶ設備で集中的にパ

ケット処理をするものがあります。それぞれに長所と短所があります。端末レベルのIP電話は、通信料金が安く

、機能の拡張性が優れていますが、通信品質や安定性はゲートウェイ方式よりも劣ります。通信事業者の幹

線ネットワーク(コアネットワーク)が完全にIP化されても、従来の電話機を使い続けるユーザーがかなりあるはず

です。したがって、パケット処理機能だけではなく、いろいろなサービス機能についても、端末レベルの分散方式

と、通信事業者の設備で処理する集中方式が併存します。これから数年は、電話サービス機能の分散と集

中の激しい主導権争いが予想されます。 面白いですね。

都丸敬介(2003.1.14)

 

なんでもマルチメディア(287):通信と放送の新時代

 明けましておめでとうございます。

 ITバブルとやらがしぼんで、新しい活力を求める模索が続いていますが、今年は通信と放送が連携した、本

格的なブロードバンド情報サービスが発展する予感がします。放送事業者が地上波ディジタル・テレビジョン放

送を導入し、通信事業者がFTTH(ファイバー・ツー・ザ・ホーム)の本格的な普及に力を入れることが、新時

代の大きな牽引力になるはずです。

 米国では、2002年末のCATV加入世帯数が、初めて前年度比で減少したということです。多チャンネル衛

星放送によって、放送分野でのCATVの存在価値が減少すると同時に、高速インターネットアクセス回線とし

ての、CATV設備利用の優位性が低下してきたことが影響しているようです。

 日本の通信事業者は、すでに世界一の普及率を実現しているFTTHサービスの利用料金を、個人が負担

できる水準まで下げる努力をしています。2002年のFTTH利用者の増加傾向のデータを見ると、テークオフし

た様子が明らかです。

 インターネットによる放送型情報流通では、すでに、従来の放送とは違った新しいことが始まっています。注目

すべきことは、10分程度の短いビデオ情報を提供するサイトが増えていることです。FTTHによって、テレビジョン

放送と同程度の、安定した良好な画像品質の情報を自由に入手できるようになると、既存のメディアは大き

な影響を受けます。今年一年の間にどの程度の変化が起こるのか、大きな楽しみです。

都丸敬介(2003.1.5)