なんでもマルチメディア(373)単純なユーザー端末

 通話機能だけを備えた,ツーカーセルラーの「ツーカーS」という,単純な携帯電話機が静かにユーザーを集めているようです。この電話機が発表されたときから注目していましたが,「説明書がいらない」というテレビコマーシャルの効果もあったのか,高齢者の新規ユーザーが増えているのは嬉しいことです。機能の高度化を競っている第3世代携帯電話のように,電話機の買い換え需要を刺激することや,通信事業者が1ユーザーあたりの料金収入の増加を期待することは難しいでしょうが,ローエンド携帯電話として定着して生き延びることを願います。

 企業の情報ネットワークでも,今の時代に合った,単純なデータ端末の開発が進んでいます。コンピューター・ネットワークが始まった頃のデータ端末は,ダム端末と呼ばれる,単純なデータ入出力機能だけのものでした。その後のパソコンの進歩によって,ダム端末が姿を消して,インテリジェント端末に置き換わったのですが,新たに「シン・クライアント」と呼ぶ,データ入出力機能だけをもつデータ端末が注目されるようになりました。

 1990年代前半に生まれた最初のシン・クライアントは,データ端末の低価格化をねらったものですが,パソコンの低価格化が進んだ今では,価格は重要な要素ではなくなりました。それにもかかわらず,シン・クライアントが注目されているのは,情報セキュリティ,特に,企業内部の情報の流出を防ぐのに効果があるのではないかということです。

 意図的な情報の持ち出しでなくても,重要な情報が入っているパソコンを外出先に置き忘れたために生じるトラブルが絶えません。外出先で会社のコンピューターを使うのには支障がなく,しかも置き忘れても情報流出の心配がないということは,注目に値することです。ブロードバンド・ネットワークを利用すれば,シン・クライアントでも快適な業務環境ができるはずです。これから,どのように発展するのか興味があります。

都丸敬介(2004.12.26)

 

なんでもマルチメディア(372)インド旅行

 北インドのゴールデン・トライアングルと呼ばれる,デリー,ジャイプール,アグラの3都市を回ってきました。デリーを頂点にして,南西のジャイプールと南東のアグラを結ぶ,一辺が約250kmのほぼ正三角形の地域には,世界文化遺産に登録されている建造物がたくさんあります。

 今回の第一の目的は,世界一優美だといわれるアグラのタージ・マハルを自分の目で見ることでした。朝霧に包まれた幻想的な白亜の廟が,次第に鮮明に浮かび上がってくる様子は感動的でした。タージ・マハルだけでなく,デリーのフマユーン廟,ジャイプールのアンベール城,アグラ郊外のファテーブル・スィークル城など,どれも保存状態が良く,技術レベルが高くて優雅でした。

 どの場所もインド人の国内観光客が圧倒的に多く,外国人では,英語のほかにドイツ語やスペイン語が耳に入りました。日本人は非常に少なく,タージ・マハル以外ではほとんど目に付きませんでした。

 15年ぶりのデリーは,すっかりきれいになり,車を止めて悠然と道を横切る牛には出会いませんでしたが,ジャイプールは日本では想像もつかない面白い町です。荷車を引く象とラクダ,悠然と歩く牛,自転車で引くリクシャー,自動三輪タクシー,大型のバスとトラックなどが入り乱れていますが,交通事故はほとんどないそうです。ガイドの話では,暗黙あるいは本能的な秩序があり,動物の動きは予測できるのだということです。

 時速100km以上で走れる高速道路の両側には,緑が濃い農地が延々と広がり,町のマーケットには豊富な野菜や果物が並んでいます。12億人といわれる現在のインドの人口と大きな人口増加率を考えると,全国的には開発途上国なのかもしれませんが,インドは歴史があり優れた民族の国だという思いを新たにしました。

都丸敬介(2004.12.19)

 

なんでもマルチメディア(371)ナンバー・ポータビリティー

 「固定電話や携帯電話の通信事業者を変更したい,あるいは固定電話から携帯電話に切り替えたい,だけど電話番号が変わるのはいやだ」という人は少なくありません。このように,電話会社や利用条件を変えても,従来の電話番号を引き続き使えるようにするサービスを「ローカル・ナンバー・ポータビリティー(LNP)」あるいは「ナンバー・ポータビリティー」といいます。最初のナンバー・ポータビリティーは,固定電話ユーザーが遠隔地に引っ越しをしても電話番号を持ち運ぶことができるという形態で,1980年代に始まりましたが,携帯電話の普及に伴って,ユーザーのニーズが多様化してきました。

 米国では,20031024日から,携帯電話会社間および携帯電話と固定電話間のNLPサービスが始まりました。最近の発表によると,サービス開始後1年間の,この制度の利用件数は850万だったということです。米国では,携帯電話を対象とするLNPに先だって,固定電話の事業者間LNPが実施されました。このときの初期のサービス利用件数と比べて,携帯電話の事業者間LNP利用件数は2倍以上になったということです。このことは,電話ユーザーの行動や,今後の電話事業について幾つかのことを物語っています。

 日本では,公衆電話とISDNの間や,固定電話事業者間のナンバー・ポータビリティーがすでに実施されていますが,携帯電話がからむナンバー・ポータビリティーが始まるのは2006年の予定となっています。同じ電話番号を,家の中では固定電話,家の外では携帯電話として使えるサービスの開発も行われているようなので,これから2〜3年の間に,巨大な電話事業や関連機器産業で新たな競争が始まると思われます。どのような形で落ち着くのか,外野で眺めていると興味深い話題です。

都丸敬介(2004.11.29)

 

なんでもマルチメディア(370)歴史への旅

 「現在,もっとも急速に成長している観光ツアーは,文化を訪ねる旅といっていい。人々が訪ねたいのはよその土地ではない。よその時間なのだ。過去の世界を歩き,過去と一体になりたい。消えた世界と一体になりたい。そこに人々の願いはある。」(マイクル・クライトン著,酒井昭伸訳,タイムラインより)

 引用が長くなりましたが,インドやエジプトなど,古代文明が栄えた暑い地方を旅行するのに快適な季節になりました。考古学や宗教に特別の関心あるいは知識がなくても,数千年前あるいは数百年前の人類の偉大な遺産の中に身を置くと,いろいろな感動があります。現役を引退して得た最大の幸せの一つが,最も良い時期を選んで旅行できることです。現役時代にはゆっくり歩いて見たいと思ってもかなわなかった場所を訪ねることは,自分自身の過去を思い出すことと重ねて,楽しみが増幅されます。しかし,相次ぐテロ事件や地域紛争のために,訪問できない場所が増えているのは残念です。

 イスラエルのテルアビブから,地中海に面した先端的なエレクトロニクス関係企業が多いハイファに行く途中で立ち寄った,ローマ時代の水道遺跡で,案内してくれた若いイスラエルの人が「ローマ人はいろいろなものを作ってくれたが,その後でトルコ人がみな壊してしまった」と話してくれたことを鮮明に覚えています。こうした,時代を超越した時間感覚は,実感がありませんが,何となく分かるような気がします。

 イスラエル人は思い出したくもないというトルコにも,優れた文化遺産がたくさんあります。トルコにあるギリシャ時代の遺跡やローマ時代の遺跡を,現在のギリシャやイタリーに残っている遺跡と比較すると,その時代の人の交流がよく分かります。

 最近は,次はどこに行こうかと考えながら落ち着かない夢を描いています。

都丸敬介(2004.11.21)

 

なんでもマルチメディア(369)通信傍受法

 今年の10月に実施された,経済産業省主管の情報処理技術者試験・テクニカルエンジニア(ネットワーク)に次の問題がありました。

<通信傍受法に関する記述のうち,適切なものはどれか>

ア 通信傍受法の制定に伴い,電気通信事業法に定められた通信の秘密に関する条文が変更された。

イ 犯罪が予見できる場合は,電気通信事業者の判断によって傍受することができる。

ウ 傍受が許可される期間は,関与する犯罪の重大さによって決定され,期間の上限は特に定められていない。

エ 傍受を実施する際,電気通信事業者は正当な理由なく協力を拒んではならない。

 情報処理技術者試験の出題を見ていると,技術や社会の変化を反映した興味深い発見があります。通信傍受法の正式名称は「犯罪捜査のための通信傍受に関する法律」で,平成12815日に施行されました。

 この法律の第一条(目的)には,「この法律は,組織的な犯罪が平穏かつ健全な社会生活を著しく害していることにかんがみ,数人の共謀によって実行される組織的な殺人,薬物及び銃器の不正取引に係る犯罪等の重大犯罪において,犯人間の相互連絡等に用いられる電話その他の電気通信の傍受を行わなければ事案の真相を解明することが著しく困難な場合が増加する状況にあることを踏まえ,これに適切に対処するため必要な刑事訴訟法(昭和二十三年法律第百三十一号)に規定する電気通信の傍受を行う強制の処分に関し,通信の秘密を不当に侵害することなく事案の真相の的確な解明に資するよう,その要件,手続その他必要な事項を定めることを目的とする」と記されています。

 このような法律が必要な社会は悲しい社会です。法律ができただけでは犯罪行為はなくなりませんが,この法律を実行する必要がないことを願います。引用した試験問題の正解は「エ」です。

都丸敬介(2004.11.15)

 

なんでもマルチメディア(368)本格化する光ファイバー時代

 今月(200411)始め,通信ネットワークの光ファイバー化について,日本と米国で大きなニュースがありました。日本のニュースは,NTT2010年までに,5兆円を投資して,3,000万ユーザー分の光ファイバー・アクセスネットワークを整備するということです。米国のニュースは,通信事業者最大手のベライゾン・コミュニケーションズが,最大で1,400万回線分の,銅線ケーブルを使った既存の電話用アクセスネットワークを売却して,獲得した資金を光ファイバー・ネットワークの整備に向けるということです。

 NTTの計画の背景や詳しいことは分かりませんが,このような計画は全く新しいことではありません。1990年代に,2010年までに全国的に光ファイバー化を進めるという計画が作られ,1998年に,NTTはπシステムというFTTC(ファイバー・ツー・ザ・カーブ)方式のアクセスネットワークの導入を始めました。ところが,その直後に始まった低料金ADSLサービスの影響で,πシステム計画は中断しました。今回の光ファイバー・ネットワーク整備計画は,挫折した計画の再出発と見ることができます。

 アクセスネットワークの全面的な光ファイバー化にブレーキをかけた一因が,ADSLのために,既存の銅線ケーブルを残さなければならないということです。老朽化した銅線ケーブルを光ファイバー・ケーブルに置き換えることが,光ファイバー・ネットワークを経済的に実現するためのシナリオだったはずですが,このシナリオが狂ったのです。

 アクセス回線の借用料のことで,NTTと他の通信事業者間のごたごたが続いていますが,米国のように,既設の銅線ケーブル設備をNTTから買い取って,線貸しだけをする事業者が出現すると,いろいろな問題がすっきり解決するように思えます。いずれにしても,今度こそ本物のブロードバンド・ネットワーク時代を期待できそうです。

都丸敬介(2004.11.07)

 

なんでもマルチメディア(367)GE-PON

 ブロードバンド・ネットワーク・サービス競争で,低料金ADSLの主導権を握ったヤフーBBが,FTTH(ファイバー・ツー・ザ・ホーム)サービスを始めることを発表しました。これまでのFTTHサービスでは,NTTが圧倒的なシェアを確保していますが,ヤフーBBの参入は,単なるシェア争いだけではなく,技術面での新しい対決として興味があります。

 ヤフーBBが導入する技術はGE-PON(ギガビット・イーサネット受動的光ネットワーク)だということです。これはNTTB-PON(広帯域受動的光ネットワーク)と比べると大きな違いがあります。この違いの背後には,それぞれの技術を標準化した組織があります。NTTが使っているB-PON技術は,国連の下部機関であるITU-Tで,世界の通信事業者が中心になって標準化したものです。一方,GE-PONの技術は,LANの技術を標準化しているIEEE(米国電子電気学会)のIEEE802委員会が標準化したもので,どちらかというとネットワーク機器ベンダーが中心になっています。GE-PONの特徴は,データを運ぶパケットの形式が,すでに企業だけでなく個人ユーザーにまで普及しているLANのイーサネットと同じだということです。

 従来のFTTHは光ファイバー・ケーブル上の最大データ伝送速度が100メガ・ビット/秒であるのに対して,GE-PON1,000メガ・ビット/秒で1桁速いから,これからのブロードバンド時代には有利だという説明がありますが,これは本質的なことではありません。ITU-TではすでにG-PON(ギガビット受動的光ネットワーク)の技術を開発しているので,100メガ・ビット/秒の伝送速度を1桁大きくするのはそれほど難しいことではないはずです。

 どのような形式でデータを運ぶかということは,アクセス・ネットワークだけの問題ではなく,ネットワーク機器産業全体の製品体系に関わることになります。これまでは,技術開発と標準化のレベルで競争してきたことが,どちらが生き残るかという熾烈なサービス・レベルの競争になってきたわけです。今後の展開から目が離せなくなりました。

都丸敬介(2004.10.25)

 

なんでもマルチメディア(366)パソコン地図

 小説,特に推理小説を読んでいるときに,地図を広げてみると,背景や舞台が一層鮮明になることがよくあります。以前は比較的大きい世界地図帳と日本地図帳を使っていましたが,最近はもっぱらパソコン地図を使っています。パソコン地図は縮小率をかなり自由に変えられので,地図を見ることの楽しさが一段と大きくなります。

 小説を読みながら,登場人物の動きを地図の上で追っていると,いつのまにか地図の中に入り込んでしまって,小説を読むのが中断することがあります。このようなことを他人に勧めようという気持ちは全くありませんが,意外な発見をすることがあります。

 仏文学者で小説家の辻邦生氏が書いたものの中に次の一文があります。「もし私が運命の神の悪戯でかりに独房に入れられるようなことになったら,何はともあれ,一冊の世界地図とトマス・クックの古い欧州列車時刻表だけは差し入れて貰おうと思っている。もちろん日本のそれを加えて貰えれば願ったり叶ったりであるが」。辻氏は自分のことを「地図と時刻表の偏愛者」と表現していますが,地図と時刻表を開いては想像力を発揮している人たちがかなりいるようです。

 パソコン地図はメーカーによって作り方や使い方が違います。比べてみると設計思想が見えてくる気がします。手持ちの国内地図は十分に充実していますが,外国の地図が貧弱なので,これから探そうと考えています。良い地図ソフトウェアをご存知のかたがいましたら教えてください。

都丸敬介(2004.10.17)

 

なんでもマルチメディア(365)万国博覧会

 2005325日の開幕まで半年を切ったにしては,愛知万博についての新聞やテレビの報道が少ない気がします。今度の万博が科学技術の進歩にどのようなインパクトをもたらすのか興味がありますが,ほとんど情報がないのはどうしたことでしょう。

 1876年のフィラデルフィア万博では電話が,1937年のパリ万博ではテレビジョンが展示されたという記録があります。展示品ではありませんが,愛知万博では入場券に超小型コンピューター機能を備えたICタグが埋め込まれて,入場者の緻密な個人管理ができるということです。各展示館の入場予約ができるので,長時間待たされることも解消されるようです。

 1970年の大阪万博の記録に「博覧会協会の自慢は中央監視制御室である。未来の情報化社会に備えて,情報管理システムが必要だという観点から設置された」という記述があります。このコンピューター・システムは,当時としては大変な大規模プロジェクトでした。それだけに,担当者の苦労話のなかには笑えない教訓もありました。その一つに入場者数の自動計数があります。入場ゲートを通過する入場者をセンサーが感知して,その数をコンピューターで集計するという,基本は単純なことです。事前にかなりのテストをしたようですが,博覧会が始まると計数誤差が非常に大きいことが問題になりました。設計ではゲートのセンサー部分を入場者が一人ずつ通ることを前提にしたけれども,実際は人がなだれこんでつながってしまったために,一人ずつの区別ができなくなったのが誤差の原因だったということでした。設計者が期待したようには,大衆は行動しなかったわけです。駅の自動改札を見るとこのことを思い出します。

 愛知万博のICタグ付き入場券がどれほどの効果を発揮するのか,関係者が予想していなかったことが起こるのかどうか,今から楽しみです。

都丸敬介(2004.10.10)

 

なんでもマルチメディア(364)フォレンジック

 情報ネットワークシステムを対象とするセキュリティー・ビジネスが活発になっている中で,最近「フォレンジック」という言葉がよく使われるようになりました。

 フォレンジック (forensic)の本来の意味は「法廷で使われる」ということで,辞書を見ると,「フォレンジック・メディスン(法医学)」や「フォレンジック・ケミストリー(法化学)」などの犯罪科学分野の用語があります。これらは犯罪行為を裏付ける科学的証拠を揃える科学技術です。

 「ネットワーク・フォレンジック」あるいは「コンピューター・フォレンジック」という,IT分野のフォレンジック・ビジネスが活発になったのは,企業内部で保管している顧客情報の大量漏洩に対する企業防衛対策がきっかけのようです。具体的には,サーバーのアクセス履歴やネットワーク上で流れた情報を記録して,必要に応じて事後分析できるようにすることです。このための製品やサービスの提供が始まっています。

 「フォレンジックス」ともいうネットワーク・フォレンジック技術の主目的は,トラブルが発生した後で,このトラブルの犯罪行為を立証するデータを集めることであり,犯罪行為の防止や犯罪行為の発生を検知して警報を発生することではありません。情報システムのセキュリティー機能として情報漏洩対策が重要だということは,数十年前から指摘されてきたことです。それにもかかわらず,依然として重大な情報漏洩が後を絶たないのは,技術以前のセキュリティー・ポリシーの欠落と運用の欠陥に問題があるといえます。フォレンジック機能を強化することだけで犯罪行為を防げるとは思えません。また,集積したデータの分析による社員のプライバシー侵害も新たな問題になります。ネットワーク・フォレンジックが一過性のブームで終わらずに,しっかりしたセキュリティー・ポリシーの実現手段として根付くことを期待します。

都丸敬介(2004.09.27)

 

なんでもマルチメディア(363)敬老の日

 最近,日本を代表するIT関係企業から「エンジニアとしてのキャリアを活かす仕事をしませんか。希望があれば特別面談の日を設定します」という趣旨のDMを受けとりました。敬老の日に合わせた手の込んだジョークのはずはありませんが,くずかごに直行したこの手紙はいくつかの情報を運んできました。

 最初に思ったことは,IT産業では依然として業務内容による人材の需要と供給のアンバランスが続いているということです。小規模のシステムあるいはソフトウェアの開発は,経験が少ない少数の人たちでも可能であるし,かえって,新しい技術や知識からの発想が既存のものにはないすばらしい成果を収めることがあります。しかし,開発対象の規模がある程度以上に大きくなると,開発プロジェクトの成否はプロジェクト管理の適否に大きく依存します。大企業といえども,いくつものプロジェクト管理の経験があり,しかも,最新の知識を把握しているエンジニアが不足している状態が改善されていないようです。

 次に思ったことは,このDMの発送者はどのような情報を利用して送り先を選んだのだろうかということです。この企業は,恐らくDM送り先の選択や発送業務を外注したのでしょうが,そうだとすると,送り先リストをチェックする体制がどうなっているのか興味があります。利用した情報源によっては,この企業の引退した元幹部にDMを送った可能性も考えられます。この場合,受けとった人によっては一騒動起こすかもしれません。

 現役を退いたエンジニアの中には,まだ立派な仕事ができる人が沢山います。経済産業省主管の高度な情報処理技術者試験の受験セミナーで講義をしたときに,受講者の中にかなりの年配の人がいました。話を聞くと,「すでにこの試験に合格しているが,新しい知識を吸収するために,その後も毎年受験している」ということでした。このような人を探すのは,ありきたりの名簿分析では難しいかもしれません。

都丸敬介(2004.09.20)

 

なんでもマルチメディア(362)花の博覧会

 4月8日から10月11日までの長期間,浜名湖畔で開かれている「浜名湖花博」を見てきました。以前は多数のウナギ養殖池があった広い場所に,大きな展示館や展示ブロックが配置されていて,見るものが多いのですが,残念ながら,全体的には大きな感動を得られませんでした。

 せっかく広い場所を確保したのに,一つ一つの展示ブロックが小さく,全国各地にあるフラワーパークや温室の寄せ集めのような印象でした。そして,会場全体の面積に対して,花が咲いている場所の面積比率がかなり小さいのです。

 以前,オランダで10年に一度開かれるという花博を見たことがあります。広い会場のどこを見ても花がいっぱいあり,好きな場所でゆっくり休むことができました。このときの経験があったので,浜名湖花博も同じような状況を想像していたのですが,見事に予想が外れてしまいました。花が咲いているところには腰を下ろすベンチがなく,ベンチがあるところには花がないという花博会場設計のコンセプトは理解できません。基本的な会場設計の重要性を改めて実感しました。

 ということで,全体的には期待はずれでしたが,個々の展示の中には面白いものがいくつもありました。今が盛りのケイトウは,これほど多くの色や形の違いがあるのかと驚きました。遺伝子工学の応用や人工的な育成環境には,技術者の一人として興味を持ちました。フランス印象派の画家モネが愛したという,ジヴェルニーにある睡蓮の池を再現した「モネの庭」は大変な人でした。そういえば,オランダの花博会場には日本庭園がありました。

都丸敬介(2004.09.14)

 

 

なんでもマルチメディア(361)アクセシビリティ

 意味がよく分からないカタカナ書きの言葉がときどき問題になりますが,こうした言葉の新語が目にとまりました。「アクセシビリティ」です。研究社の新英和大辞典では,この言葉を「近づきやすさ,接近できること」と説明していますが,新しいアクセシビリティは,電子行政用語の一つで,「高齢者や障害者を含む誰もが情報通信機器を容易に利用できること」を意味します。日本工業規格(JIS規格)のJIS X 8341「高齢者・障害者等配慮設計指針−情報通信における機器,ソフトウェア及びサービス」にアクセシビリティの要件や適用範囲の指針が示されています。

 しかし,カタログや説明書に「アクセシビリティが優れた」とか「アクセシビリティが良い」と書かれていても,高齢者や障害者の人たちの大部分は,自分には関係がないことと思うのではないでしょうか。直感的に理解できるわかりやすい日本語が欲しいですね。経済産業大臣や総務大臣にこの言葉の説明を求めたらどのような説明をするのか興味があります。

 行政サービスの質や効率を改善するために,電子行政システムに巨額の税金が使われていることは,長期的に考えると必要であり,その成果を期待しています。しかし,行政サービスを受ける多くの人たちにとって,近寄りがたく使いにくいシステム,つまり「アクセシビリティ」が良くないシステムは歓迎できません。

 情報通信機器の使い易さを目指した研究開発はこれまでも行われてきました。一例として,ダイヤルボタンが大きい電話機がよく売れたことがあります。このような部分的な改良の積み上げも大切ですが,情報通信システムがまだ普及していない発展途上国にも輸出できる,国際的な規範になるような「アクセシビリティ」の良いシステムの実現を期待します。

都丸敬介(2004.09.04)

 

なんでもマルチメディア(360)プッシュ・ツー・トーク

 米国で携帯電話を利用するプッシュ・ツー・トーク(PTT)の普及が進み始めたようです。PTT1996年にネクステル・コミュニケーションズ社が「ダイレクト・コネクト」という名称でサービスを始めたもので,それほど新しいサービスではありませんが,20038月以降,ベライゾン・ワイヤレスやスプリントPCSなどの大手通信事業者が次々に同様のサービスを始めています。

 PTTは携帯電話サービスの一つで,「携帯電話ウォーキー・トーキー」とも呼ばれています。ウォーキー・トーキーは無線トランシーバーのことで,送信するときに「送話ボタン」を押して話をする無線電話です。一対一通信だけでなく複数のユーザー間で同時に通話できます。ダイヤル呼出の必要はありません。若い携帯電話世代の人たちは無線トランシーバーを知らないかもしれませんが,何台かの車に分乗してグループ旅行をするときの連絡手段などとして普及していました。

 PTTサービスは,携帯電話のネットワーク・インフラの上で,ウォーキー・トーキーが復活したものと見ることができます。「携帯メールが発達した日本でPTTが受け入れられるか」という声があるようですが,新しい道具を手にしたときのユーザーの行動は,提供者が想定したことと違うことがあります。メールと電話ではリアルタイム性と操作性がかなり違います。

 衰退したサービスや技術が新しい環境の中で復活することはよくあります。「温故知新」という言葉にあるように,忘れられたことの復活はビジネスチャンスをつかむ一つの効果的な方法です。最近のPTT関係の情報を見ながらこんなことを考えましたが,手元にある何冊かのネットワーク関係の用語辞典を調べたところ,もはや「無線トランシーバー」も「ウォーキー・トーキー」も掲載されていませんでした。

都丸敬介(2004.08.14)

 

なんでもマルチメディア(359)ギリシャのオリンピック

 アテネ・オリンピックが始まりました。これからの二週間,いろいろな話が洪水のように流れると思います。開会式の聖火が点火されたのが現地時間の深夜零時頃だったことに,私は最初の強い印象を受けました。いくら昼間は暑いといっても,日本ではこのような時間帯に開会式を行うことはないでしょう。新しい年が始まる零時のカウントダウンのお祭り騒ぎは日本でも行われていますが,参加者が家に帰る交通機関のことを考えると,よくぞやったという感想です。

 二年前に一週間ばかりアテネに遊びに行きました。国際空港に到着したのが零時少し前で,空港ロビーに出たときはすでに零時を過ぎていました。深夜はタクシーが少ないということだったので,出かける前に迎えの車を手配しておいたのですが来ていません。旅行代理店に電話をかけて確かめたところ,日付が変わる時間帯だったので,一日間違えたということでした。幸いタクシーを捕まえることができたので無事にホテルに到着しましたが,オリンピックに集まった人たちの交通手段の整備は大変な仕事だったと思います。

 オリンピックのために作った新空港と町の中心部の間にあった,旧空港の敷地に各種の競技場を作ったということです。二年前のタクシーの運転手は,旧空港の跡地をどうするのか知らないと言っていましたが,今では様変わりを誇らしく思い,そして,稼ぎまくっているのではないかと想像します。

 有名なアクロポリスの丘の麓に広がるアテネ旧市街地は,曲がりくねりアップダウンがある狭い道の両側にレストランや土産物屋が軒を連ねて,独特の雰囲気があります。古い都市にはどこにも同じような感じの場所がありますが,料理やワインと土産物の種類に特徴があります。土産物では地中海産のスポンジが目につきました。縦,横,高さともに十数センチのスポンジで体をこするたびに,アテネの土産物屋を思い出しています。

都丸敬介(2004.08.14)

 

なんでもマルチメディア(358)通信サービス品質の説明責任

 多くの商品やサービスは,消費者に対するサービス品質の説明責任が求められています。通信サービスも例外ではないはずですが,実態は非常におそまつであり,消費者もあまり気にしていないようです。

 サービス品質説明の内容は具体的であり,定量的に表示できる項目については数値を示すことがのぞましいことはいうまでもありません。通信サービスの品質表示項目は,内容が技術的であり専門性が高いことや,数値を示されても一般消費者には妥当性の判断が難しいことは事実です。だからといって,通信事業者がサービス品質について説明しなくても差し支えないということにはなりません。分かりにくい内容であるほど,丁寧に説明をして消費者を啓蒙すると同時に,提供するサービスの品質について責任を明らかにすることが大切です。

 次々に出現する新サービスへの世代交代によって,固定電話の利用者が減り続けていますが,従来の固定電話のサービス品質は非常に高いレベルに達しています。データ通信サービスについても同じようなことがあります。安定したサービス品質を保証している通信サービスをギャランティ型サービスといいます。これに対して,「サービス品質の変動を避けられないけれども,良好なサービスを提供するために最大限の努力をします」というサービスをベスト・エフォート型サービスといいます。固定電話は代表的なギャランティ型サービスですが,多くの新サービスはベスト・エフォート型サービスです。

 ベスト・エフォート型サービスでも,サービス提供システムの設計と運用が適切であれば,実用上支障がないサービス品質を実現できますが,サービス品質低下の可能性があります。気になることは,サービス品質低下について具体的な説明をしないで,最高品質の部分だけをアピールしている事例が多いことです。このまま放置しておいても賢明な消費者は良いものを選び,悪い品質のサービスは淘汰されるかもしれませんが,こうした事態を未然に防がないと,多くの人たちが不幸になります。

都丸敬介(2004.08.02)

 

なんでもマルチメディア(357)モンゴルの電話

 モンゴルの草原から首都ウランバートルに戻ったとき,ガイドが「電話をかけてくる」といって車を止めました。見ると,コードレス電話の親機のような,アンテナ付き電話機を脇に抱えた人が車の外に立っていました。公衆電話機が少ないこの国では,携帯電話ではない固定無線アクセス方式の電話機を家の外に持ち出して,電話貸しの商売をしている人がいるのです。

 気をつけてみると,街中のあちこちにこのような電話屋がいました。一応,利用料金の相場が決まっているそうですが,たいした収入にはなりそうもありません。それでもこうした人たちがいることは,この国のかなり厳しい電話事情と就職事情を物語っています。決して小遣い稼ぎではないのです。

 話が飛躍しますが,1980年代の中頃,北京で開かれた通信技術セミナーの講師をしたことがあります。このとき,それより十数年前に部下だった人が会いに来てくれました。聞くと,モンゴルのウランバートルで,NTTの中古電話交換機の設置工事に従事していて,セミナーの情報を目にしたので,北京まで出かけてきたということでした。この頃,NTTは新しい電話交換機を導入するために,まだ寿命が残っている交換機を撤去し,中国やモンゴルなどに移設して,それぞれの国の電話の普及に協力していたのです。

 今よりもはるかに交通や通信が不便だったこの時代に,経済協力と技術協力に貢献した人たちのことはほとんど知られていませんが,大変苦労したようです。電話機の絶対数が不足しているので,設置した電話機の使用頻度が日本国内よりもはるかに大きいために,交換機の故障発生率が大きくなり,良好なサービス状態を確立するまでに苦労したという話も聞いています。こうしたことで築かれた信頼関係もすでに薄れてしまっているかもしれませんが,新しい時代に即した国際貢献の課題がまだまだあるように思います。

都丸敬介(2004.07.25)

 

なんでもマルチメディア(356)モンゴルの夏

 子供の頃からあこがれていたモンゴルの大草原を自分の足で歩いてきました。成田から首都ウランバートルまで直行便で5時間程度,モンゴルは夏時間なので,日本との時差はありません。ウランバートルは北京やソウルに似た大都市ですが,市の中心から10km程度で人家がほとんどない草原になります。

 ウランバートルの西300kmにある古都カラコルム(現在の名称はハラホリン)までの間,すべて草原です。ウランバートルではホテルに泊まりましたが,それ以外の宿泊は,ツーリスト・キャンプで,遊牧民の伝統的な円筒形移動式住居のゲルに泊まりました。ツーリスト・キャンプは複数のゲルのほかに,トイレ,シャワー室,食堂が整備されている清潔で快適な設備です。キャンプの周りは何もありません。一つのゲルにはベッドが三つか四つあり,中央に薪ストーブがあります。

 夜は冷え込むので,一晩に段ボール箱二つ分ほどの太い薪を燃します。パチパチという薪の音を聞いていると懐かしい思いがしました。ゲルには自家発電設備から供給される電力で電灯がつきますが,深夜には発電が止まります。キャンプ全体が真っ暗なので,360度見渡せる満天の星は見事でした。

 7月11日の日曜日は,ウランバートルで夏の祭典ナーダム祭を見ました。スタジアムでは,騎馬隊の入場行進や大統領の開会挨拶に続いて,モンゴル相撲が行われました。参加者5百人のトーナメント方式大相撲で,決勝戦は翌日の午後7時頃でした。朝青龍のお兄さんが準決勝で敗れたので現地のガイドが残念がっていました。スタジアムの外にある弓道場で弓の試合があり,30kmほど離れた草原で競馬がありました。競馬は,距離が30km,騎手は6才から12才程度の少年・少女です。ゴール地点からは出発点が分かりませんが,はるか彼方に砂塵が見えることで,先頭が近づいてくることがわかるという,壮大なレースでした。

都丸敬介(2004.07.19)

 

なんでもマルチメディア(355)マルガリータ

 最近のような暑い日が続くと,さわやかな冷たい飲み物が一段とおいしくなります。しばらく前の新聞で,東京都内の大きなホテルのバーで一番人気があるカクテルがマルガリータだという記事を目にした記憶があります。

 私がマルガリータの味を覚えたのは米国です。米国人に連れられて行ったメキシコ料理屋が満席だったので,テーブルが空く前に一杯飲もうということになり,彼が注文したのがマルガリータだったのです。1リットルくらいの大きなピッチャーに,砕いた氷がざくざく入ったマルガリータが出てきました。私は少しずつ飲んだのですが,口当たりが良くて,テーブルについたときにはすっかりいい気分になってしまいました。

 シェークした気取ったマルガリータよりも,清涼飲料的なフローズン・マルガリータのほうが好きなのですが,最初に飲んだようなのにはなかなか出会いません。米国ロサンゼルスの発祥地であるオルベラ・ストリートのメキシコ・レストランには気に入ったのがありましたが,遠いので行けません。幸いなことに,数年前に横浜駅東口の高層ビルで開業したメキシコ・レストランで,ロサンゼルスなみのフローズン・マルガリータを見つけました。これはおすすめです。

 フランスのアビニオンで個人経営の四つ星ホテルに泊まったことがあります。夕食後,談話室で時間を過ごしていたときに,マルガリータを注文した妻が「味がおかしいから飲んでみて」というので,飲んだところ,グラスの縁に付いているのが塩ではなく砂糖でした。このカクテルを作ってくれたマダムが,「あまり調理場に入ったことがないので,塩の入れ物と,砂糖の入れ物を間違えた」と恐縮していました。おかげで,隣の席にいた米国人と,話が大いに盛り上がりました。

都丸敬介(2004.07.04)

 

なんでもマルチメディア(354)IP電話の本

 電波新聞社の出版部門から頼まれて書き下ろした「IP電話のすべて」という本のサンプルが手元に届きました。(発行日は7月15日です)。本を一冊書くには大変なエネルギーが必要で,疲れますが,いろいろな情報を集めて原稿を書いている過程では,常に新しい発見があります。

 集めた情報を分析していると,多くの技術者や企業経営者の夢が見えてきて楽しくなりますが,なかには怖いこともかなりあります。怖いことの中には,世の中で流れている情報の曖昧さや誤解があります。できるだけ正しい情報をわかりやすく説明することが,技術解説書に求められる基本だと思っていますが,かなり難しいことです。原稿を書き終えたときにはほっとしますが,校正刷りのチェックの段階になると,「もっと書き込むことがあるのではないか」と思うことがしばしばあります。それでも,会ったことがない多くの技術者が何かを得てくれるのではないかという期待があります。

 技術解説書を書いていて常に悩むことは,読者が専門用語をどの程度まで理解しているかということです。過日,ときどき講義をしている大学の学生から,適切な用語集を推奨してもらいたいという要望がありました。これは非常に難しい要望です。なぜならば,その学生が調べたい用語のレベルが分からないからです。大きな書店に行くと,いろいろな種類の用語集が並んでいますが,技術進歩が早い情報通信分野の用語を常に更新し続けることはかなり難しいようです。私のパソコンには,数千語の手製用語集が入っています。学生には,調べたい用語をメールで知らせてくれれば,自前の用語集から探して送ることを約束しました。

都丸敬介(2004.06.27)

 

なんでもマルチメディア(353):時間の単位

 古代オリンピックの時代には,距離走の世界記録がなかったということです。理由は簡単で,砂時計では1秒単位の時間測定ができなかったからです。

 1960年頃,実験装置に組み込む電源装置の試作を依頼したメーカーに,電源装置が発生するパルス性雑音の大きさを,1マイクロ秒(百万分の一秒)のパルス幅でいくらと指定したところ,「我々の業界には1ミリ秒(千分の一秒)以下の時間の単位がないので,測定方法が分かりません」といわれました。やむを得ず,研究室の設備を持参して試作品の評価テストを行いました。今では,1ナノ秒(十億分の一秒)でも簡単に測定できます。

 ユーザーが急速に増えているIP電話では,音声が送信者の口から受信者の耳に届くまでの遅れ時間が比較的大きくなることが,音声品質の劣化の大きな原因になります。総務省が決めたIP電話のサービス品質規定では,この遅れ時間を,クラスAと呼ぶ従来の固定電話なみの音声品質を実現するためには0.1秒以下,クラスBと呼ぶ携帯電話なみの声品質を実現するためには0.15秒以下に抑えることが求められています。この値を実現するためには,きちんと性能設計したネットワークが必要であり,既存のインターネットを利用する場合は性能保証が難しいといえます。

 0.1秒の遅れ時間が実際に気になるかというと,0.05秒程度の遅れでも,音声品質の劣化に気が付くことがあります。人の感覚は非常に鋭いのです。

 時間とは直接関係ありませんが,アテネのオリンピックでどうなるのか興味をもっていることがあります。マラソンのゴールになる,最初の近代オリンピックで使った競技場は幅が狭いので,コーナーのカーブがかなりきつくなっています。競技場に戻ってきた選手がトラックを回るとなると,トラック勝負になったときに非常にスリリングなことが起こるかもしれません。2ヶ月後のオリンピックが楽しみです。

都丸敬介(2004.06.20)

 

なんでもマルチメディア(352):サイバースペースの倫理

 今,目の前に「インターネット空間の倫理と実世界の倫理」という研究論文があります。「情報倫理」と名付けたインターネット空間での倫理と,「日常倫理」と名付けた日常生活における倫理の相関を,意識や行動についてデータを集めて分析したものです。結論として,「情報倫理と日常倫理との間にかなり高い正の相関が見られることから,日常生活における倫理をめぐる意識や行動は,インターネット空間のそれらの基礎になると考える」,「性格特性として高い良心や,相手への親密性を伴った高い共感性を有する個人は,インターネット空間において倫理的に望ましい振る舞いをするという有意な関係が観察されている」と述べています。

 インターネット空間あるいはサイバースペースを舞台とする犯罪行為が後を絶たないばかりか,若年者による殺人事件まで起こっています。「誰にもジキルとハイドのような二面性があり,実生活空間では抑制されていることが,サーバースペースでは顕在化しやすい」ということがよく言われます。また「インターネットの匿名性が犯罪行為の温床になっている」という指摘があります。インターネットを使ったことがない人の中には,インターネットは必ず匿名で利用するものだと思っている人もいます。しかし,匿名はサーバースペースを特徴付けることではなく,実生活空間でも偽名や他人になりすますなど,匿名による不正行為が日常的に行われています。サイバースペースの「匿名性」が麻薬のように魅惑的であり,これが不正行為の隠れ蓑になるとしたら,サイバースペースの開発や普及に取り組んできた人たちにとって不幸なことです。

 インターネットを社会の公器として健全に発展させるためにも,「日常倫理」のレベルアップの重要性が大きくなっています。

都丸敬介(2004.06.14)

 

なんでもマルチメディア(351):電話サービスの新しい動き

 日本を始めとする多くの国では,携帯電話の普及が頭打ちになり,従来の固定電話ユーザーが減る傾向があります。そして,IP電話の普及に対する期待が高まっています。こうした中で,電話サービスの新しい動きが始まりました。携帯電話と固定電話の結合です。

 携帯電話は便利ですが,通信料金が比較的高いことが,多くのユーザーの悩みの種です。
そこで,家や事務所の中では,携帯電話機を固定電話のコードレス電話機として使えるようにしようというのです。この場合の通信料金は,携帯電話よりも安い固定電話料金になります。

 英国の固定電話事業者BT(ブリティッシュ・テレコム)と携帯電話事業者ボーダフォンが提携して,このようなサービスを今年中に始めるようです。企業向けには,携帯電話機を事業所内のPBX用端末としてそのまま使えるシステムの開発も行われています。

 こうしたことは新しい発想ではありません。固定電話サービス用のコードレス電話をベースにしたPHSが開発されたときに,固定電話と携帯電話の境目がない連携を考えた人たちもいたはずです。しかし,このようなサービスが今まで実用にならなかった背景には,技術的なことよりもむしろ通信事業者の事業戦略と制度面の制約があったように思えます。

 現在では携帯電話と固定電話のサービス機能にかなりの差ができているので,完全に連続的なサービスを実現するには,いろいろな問題が出てくると思います。基本的なことでは,電話番号をどうするのかということがあります。しかし,問題が明らかになればいずれは解決されるはずです。ユーザーが希望するけれども実現が難しい問題は,新しいビジネス・チャンスを生み出す源泉です。インターネットの利用方法とあわせて,日本ではどのようなことが起こるのか,興味の種がまた一つできました。

都丸敬介(2004.06.06)

 

なんでもマルチメディア(350):写真はがき

 定年退職後,絵画教室や同好会で絵を描いている人が少なくありません。昔から,手書きの絵はがきを書いている人たちがいます。手書きの絵はがきを頂戴するとほのぼのとした思いがします。これは,電子メールに添付して送られてきた写真を見るのとは全く異なる感覚です。また,きめ細かい解像度の写真を見ていると,その中に思いがけないことを見つけることがあります。

 私も手書きの絵はがきを作りたいと思ったことが何度かありますが,絵を書く才能がないことを自覚しているので実現していません。そこで,旅先で写した写真に簡単な説明を付けた手作りの写真はがきを,電子メールを利用していない何人かの知人に送ったところ,かなり良い手応えがありました。すぐに電話がかかってきたのです。

 最近は家族の写真をプリントした年賀状が増えています。そして,パソコンでプリントするのに適した用紙のお年玉付き年賀はがきが良く売れているようです。パソコンショップに行くと,はがきサイズのプリント用紙がたくさん並んでいます。また,ディジタルカメラで写した写真のプリントに適したプリンターの種類が増えています。プリンターとスキャナーが一体化したオール・イン・ワン型プリンターだと,パソコンを使わずに,手書きの絵や手元にある写真を原画にして絵・写真はがきを作ることができます。もちろん,パソコンのプリンターとしても使えます。

 ケータイ写真世代のヤング・カルチャーに対して,豊かで奥深い情報を含んだシニアー・カルチャーの担い手として,写真はがきのやりとりが盛んになるといいなと思うのは独りよがりの発想でしょうか。

都丸敬介(2004.05.24)

 

なんでもマルチメディア(349):ウェブ・ペイフォン

 携帯電話が普及した影響で,公衆電話機が急速に減ってきました。通信事業者としては赤字を出し続ける公衆電話機を撤去せざるをえないのでしょうが,高齢者を中心に,携帯電話を持ち歩いていない人たちが不便を感じる度合いが大きくなったようです。これもディジタル・デバイドの一つの表れです。

 公衆電話機の復活を考えている人はいないのかと思って少し調べところ,「ウェブ・ペイフォン」が見つかりました。ペイフォンは公衆電話機のことですから,ウェブ・ペイフォンはウェブ公衆電話機となります。これは,従来の電話機の機能だけでなく,Eメールやウェブ情報閲覧などのインターネット・サービスを利用できるものです。

 2002年2月にニューヨークで最初のウェブ・ペイフォンがお目見えしています。その後あまり話題になっていないので,普及が進んでいないのかもしれませんが,付加価値が大きい公衆電話機として,利用の拡大が期待できます。市販されているウェブ・ペイフォンの仕様を見ると,ISDN回線につながるものです。ニューヨークのサービスは,1分間25セントで,通話のほかに,前述のインターネット・アプリケーションができ,さらに,組込のテレビカメラで写した写真をEメールに添付できるということです。

 サービス機能と仕様は,NTT東日本と西日本が提供しているLモードとほとんど同じです。2001年7月にスタートしたLモードの,2003年9月時点での普及目標は,2004年3月末までに100万を達成するということでした。これが達成できたかどうか調べていませんが,ときどきテレビでLモードのコマーシャルを見かけるので,普及が進んでいるようです。すでにLモード電話機があるのですから,日本版のウェブ・ペイフォンを実現するのは難しいことではないはずです。携帯電話事業の目を見張る発展の一因は,iモードに代表される付加価値の増大です。公衆電話機も,電話だけの時代から脱却して,街角のマルチメディア情報端末に変身し,どこでも利用できるようになることを期待します。

都丸敬介(2004.05.16)

 

なんでもマルチメディア(348):ビット・リッチとビット・プアー

 コンピューター利用の大衆化と通信回線のディジタル化が急速に進んだ1980年代に,「インフォメーション・リッチ」と「インフォメーション・プアー」という言葉がありました。その後,情報技術やシステムの利用によって生じる経済や生活の格差を「ディジタル・デバイド」いうようになりました。1990年代に米国のクリントン大統領がこの言葉をよく使ったようです。最近米国で出版された雑誌で「ビット・リッチ」と「ビット・プアー」という言葉を見つけました。これは定義された言葉ではなく,概念的にはインフォメーション・リッチとインフォメーション・プアー,あるいはディジタル・デバイドと同じです。

 ビット・リッチとビット・プアーの差を定量的に示すことを試みている人たちもいます。国連の下部機関であるITU(国際電気通信連合)では,この種の指標の一つとしてDAI(ディジタル・アクセス指数)による各国の評価を発表しています。これはインターネットに対する高速アクセス環境の整備状態を示す,いくつかのデータを数値化した総合指標です。この中で,GNP(国内総生産)に対するインターネット利用(アクセス)コストの割合が注目されています。2003年11月の報告で,DAIの1位を獲得したのはスウェーデン,2位はデンマークで,日本は15位でした。

 1980年代の初めのころ,ITUが電話の普及率とGNPの関係を調査したことがあります。このときの報告では,人口百人当たりの電話回線数がGNPと見事に比例関係にあることが示されていました。このことは,携帯電話が出現する前の社会生活環境の指標として感覚的に分かりやすいものでした。しかし,DAIがビット・リッチとビット・プアーに具体的にどう結びつくのかよく分かりません。

 情報社会化が発達した国では,ビット・リッチとビット・プアーの概念は,経済活動指標だけでは表せない内容が重要な意味を持つように思えます。

都丸敬介(2004.05.08)

 

なんでもマルチメディア(347):アドホック・ネットワーク

 構想は新しくありませんが,最近になって研究開発が活発になってきた無線通信ネットワークに「アドホック・ネットワーク」があります。ad hocには「その場限りの」という意味があります。アドホック・ネットワークは無線基地局や無線ハブを使わずに,無線端末間で直接通信を行うネットワークです。

 無線端末間の直接通信は昔から行われていることですが,アドホック・ネットワークは従来のような直接無線通信ではありません。通信を行う端末間では電波が届かないときに,別の通信端末が途中に入って中継することによって,一時的な中継ネットワークを実現するものなのです。この中継通信技術をマルチホップ技術といいます。

 最近このネットワークの開発が具体化してきたのは,無線パケット通信技術の発展と密接な関係があります。例えば,無線LANの技術標準には,基本的な動作モードの一つとしてアドホック・モードがあります。

 ある通信事業者は,ADSLやFTTHといったブロードバンド・アクセスサービスの早期提供が難しい地域のアクセスネットワークとして,アドホック・ネットワーク技術を応用することを研究しています。過疎地域に点在するユーザーの無線端末がお互いにパケットを中継してメッセージを伝えるという構図は,人の社会構造によく似ています。ブロードバンド・ネットワーク時代から取り残されている多くの人たちを救うためにも,この技術の早期実用化を期待します。

 米国では以前から軍用アドホック・ネットワークの研究が行われていますが,これは軍用でなくても災害地の通信システムとして役立ちます。このほかに,分散配置した多数のセンサーで収集したデータを監視センターに集めるセンサーネットワークを,経済的かつ柔軟に実現するハイブリッド・アドホック・ネットワークの研究も行われています。

都丸敬介(2004.04.26)

 

なんでもマルチメディア(346):プレゼンス

 企業向けIP電話システムの付加価値項目の一つとして「プレゼンス」という言葉が目に付くようになりました。部屋の入り口に,在席,会議中,出張,帰宅などの表示を出しておくのがプレゼンス情報提供の一例です。

 プレゼンス情報は,インターネットを利用する電子メールの一形態であるインスタント・メッセージング(IM)の重要な機能要素になっています。メールで会話をしたい人は,相手がメッセージを受信できる状態にあることを,プレゼンス情報で確認してからメッセージを送信します。このメッセージは直ちに相手の端末に表示され,相手もメッセージを送ることができます。プレゼンス情報が,相手がメッセージを受信できる状態にないことを示したときは,メッセージを送っても相手に届きません。

 IP電話の機能としてプレゼンス情報の表示が注目されているのは,電話をかける人がかなり高い確率で相手を捕まえられること,席にいない人に電話がかかってきたときにその電話を受けた人が捜しまわる無駄を省けることなどです。しかし,このような機能を活かす運用がきちんとできるかどうかということになると疑問があります。

 忙しく動き回っている人のプレゼンス情報を常に実態に合わせることは簡単ではありません。携帯電話のような,いつも持ち歩いている機器を使って,プレゼンス情報を更新する習慣を皆が身につければよいのですが,このような道具を持ち歩いていないと,プレゼンス情報の信頼度が悪くなります。一人一人が自分でプレゼンス情報を入力しなくても,自動的に現在地を把握してプレゼンス情報を更新することが,ある程度は技術的に可能です。しかし,こうなると個人の行動監視の強化になりかねません。

 プレゼンス情報は,個人の行動とは関係ない純技術的理由から,IP電話の接続制御では重要ですが,このことと電話ユーザーのプレゼンス情報は切り離して扱うべきことです。

都丸敬介(2004.04.19)

 

なんでもマルチメディア(345):セキュリティ・ポリシー

 最近,相次いで企業の顧客情報漏洩事件が発生して,大きな社会問題になっています。情報漏洩は昔からあるセキュリティ問題ですが,同じようなことが繰り返して起こっている現状を見ると,経営者や情報管理責任者は何を考えているのかと疑いたくなります。事故が発生したときに頭を下げればすむことではありません。

 情報システム設計の一つにポリシー設計という考えがあり,その中にセキュリティ・ポリシーが含まれています。セキュリティ・ポリシーの基本は,何(保護対象)をどのような不正行為(攻撃)から守るかということです。そして,セキュリティ・ポリシーを実行するのがセキュリティ技術です。ところが,最近発生した情報セキュリティ問題では,専門雑誌や新聞が取り上げているのはもっぱらセキュリティ技術であり,肝心のセキュリティ・ポリシーの議論がほとんどありません。セキュリティ・ポリシーは秘密にすることではなく,むしろ積極的に周知すべきことです。これによって,経営者から一般社員に至るまで,セキュリティの重要性を浸透させて問題の発生を事前に防ぐことができるはずです。

 どのような情報セキュリティ・ポリシーを設定するかということは企業によって異なりますが,参考になるヒントは多くあります。不真面目と思われるかもしれませんが,米国やヨーロッパの作家が書いた,産業スパイやコンピュータ・ネットワーク犯罪をテーマにした小説には,情報セキュリティに関する内容が多く見受けられます。このような小説の作家の経歴を見ると,大部分がソフトウェア開発や情報システムの運用を経験しています。小説の内容はフィクションですが,背景には事実があるということでしょう。

都丸敬介(2004.04.11)

 

なんでもマルチメディア(344):JIS漢字符号

 元国立国語研究所長の林大(はやし・おおき)先生が,90才の高齢で他界されたことを新聞の死亡欄で知りました。林先生とは,1970年代の中頃に,コンピュータで扱う文字符号を決める調査研究委員会で一緒に仕事をしたことがあります。コンピュータの性能が向上して,字の種類が多い漢字を扱えるようになってきたことから,当時の通産省が国内標準の漢字符号表を作る作業を始めたのです。
 林先生を中心とする文字の専門家の委員が採録する文字を選び,コンピュータ技術部門の委員が採録できる文字数や,個々の文字を識別するコードの割り当て方法を決めるという,あまり例がない役割分担の委員会でした。当時,私は,国際標準化機構(ISO)とこれに対応した国内委員会で,文字符号の拡張方法の標準化に関わっていたことから,国際標準に準拠した文字符号割当て方法の枠組みを提案しました。これが,現在「JIS漢字符号」と呼ばれているものの枠組みです。この枠組みでは,採録できる文字数が9千弱に制限されるので,「コンピュータというのはずいぶん窮屈なものですね」と林先生に言われたことを覚えています。
 この窮屈な枠の中に入れる文字を選ぶ仕事は大変なことでしたが,約6,300の漢字が選ばれました。このとき,採録する文字の表現は「字体」であり「字形」ではないということが決まりました。今でも「JIS漢字符号表の字形は適切でない」といった指摘がありますが,このような問題を予想して,字体と字形の関係をはっきりさせた林先生の見識には頭が下がります。6千以上の漢字となると,私には読めないものがたくさんあります。特に地名に使われている文字には珍しいものがありますが,林先生は「この字はどこそこの地名の字だ」ということを即時に説明していました。

 先生はまさに文字のプロだったと思います。ご冥福を祈ります。

都丸敬介(2004.04.04)

 

なんでもマルチメディア(343):ブログ

 最近,インターネットサービス事業者(ISP)が競って「ブログ」と呼ぶサービスを始めました。ブログ(blog)はウェブログ(weblog)を縮めた言葉で,1999年に米国で生まれた比較的新しい合成語です。「ログ」には「日誌に記録する」という意味があります。ブログは,ユーザーが日記を書くような感覚で,ISPが提供するメモリーに,文書や写真を書き込むことができるサービスです。
 日記やメモを書き残すのなら自分のパソコンに記録すれば良いと思うのですが,ブログの情報はホームページのようにインターネットで公開されることに特徴があります。この「なんでもマルチメディア」もブログといえるかもしれません。
 ISPが提供しているブログサービスでは,ホームページを作るよりも簡単にメッセージを発信できることを強調しているようです。このサービスの利用料金はISPによって違いますが,無料と月額数百円の有料があります。利用できるメモリー容量は10メガバイトから無制限まであります。
 現役時代が終わって引退したあと,電子メールを利用して交流の輪を広げている人たちが増えていますが,メール相手に出会う機会が少ないという話をよく聞きます。
 ブログのユーザーをブロガーといいます。念のためにあるポータルサイトでブログの項目を開いてみたところ,都道府県名や年代でブロガーを絞り込めるようになっていました。この機能を使うと,話し相手を捜すことができそうです。ハンドレッドクラブのメンバーでブロガーになっている人がいたら,様子を聞かせてください。

都丸敬介(2004.03.29)

 

なんでもマルチメディア(342):IT分野の基礎単位

 大きな書店に並んでいるIT分野の本が年々増えています。インターネット,パソコン,携帯電話などが生活に定着したことが,解説書の需要を拡大しているのでしょう。ところが,「わかりやすい」,「超入門」などをアピールしている解説書には,基本的なことで不正確な記述が多く目に付きます。
 回線速度やデータ転送速度の1,000ビット/秒をKビット/秒と書いているのをよく見かけますが,これは誤りです。kビット/秒と小文字のkを使うのが正しいのです。
 国際単位系(SI)では,千をk(キロ),百万をM(メガ),十億をG(ギガ),兆をT(テラ),千兆をP(ペタ),でそれぞれ表すことになっています。
 SIで決められた小さな値の表現は,千分の一がm(ミリ),百万分の一がμ(マイクロ),十億分の一がn(ナノ),兆分の一がp(ピコ),千兆分の一がf(フェムト)です。
 データ量をKバイトを単位として表すときのKは2の10乗の1,024です。設計仕様書を書いた人が1,000のつもりでKと書いたのを,設計者が1,024と解釈すると,2.4%の誤差が生じます。この誤差が大事故の原因になる可能性があります。
 話が変わりますが,データ量の単位に「バイト」があります。通常は1バイト=8ビットと解釈していますが,1バイトが8ビットであるとは限りません。JIS情報処理用語のバイトの定義には,「1バイト中のビット数は,データ処理システムごとに一定である」「1バイト中のビット数は,通常,8である」という説明が付いています。いちいち「ここでは1バイトは8ビットである」とことわらなくても,8ビット以外のバイトを考える人はほとんどないでしょうが,ITU-TやIEEEが制定した技術標準では「オクテット」という単位を使っています。オクトの意味8はですから,1オクテットは8ビットです。

都丸敬介(2004.03.21)

 

なんでもマルチメディア(341):技術者のスキルアップ

 過日「ネットワーク・コンサルタントに求められるスキルと条件」というセミナーの講師を頼まれて,2日間で16時間の講義をしました。話題を整理しながら,私自身良い時代を体験してきたことを改めて認識しました。就職してから引退するまでの44年間,常に最先端の技術分野で仕事ができたことは大変幸せでした。
 技術開発やシステム構築の現場で,問題を解決しながら体験したことは忘れることができません。教科書を読んだだけでは技術が身に付かないことを,セミナー参加者の多くが理解できたようです。しかし,いろいろなことを現場体験する機会は,求めてもなかなか得られることではありません。技術内容が比較的単純で,時間に余裕があった数十年前と比べて,技術進歩が加速的に速くなっている現在は,問題に出会ってもその原因や解決方法をじっくり考えている時間がないかもしれません。
  技術者のスキルアップのためには,疑似体験の教材が役立ちます。教科書を読んだりセミナーで話を聞いて頭の中で理解するだけではなく,実際の仕事を疑似体験できるシミュレーション教材による学習効果が大きいことが知られています。情報システムの保守事業を行っているある企業では,複雑な機器の点検や故障修理のために,写真や映像を組みあわせたシミュレーション教材を用意して,大きな教育効果を上げています。
 シミュレーション教材の開発には大きな資金と教材作成者の経験が必要なので,個々の教材作成企業が扱うには重すぎるかもしれません。最近はeラーニングの環境が整備されてきたので,良い教材があれば全国のどこにいても効果的な学習ができるはずです。次の世代を担う技術者の育成のために,優れた疑似現場体験の教材を国家プロジェクトとして開発することが必要だと思います。

都丸敬介(2004.03.07)

 

なんでもマルチメディア(340):情報漏洩

 大手ISP(インターネットサービス事業者)から大量の顧客情報が漏れたことが,大きな話題になりました。情報セキュリティ問題として,コンピューターに蓄積されている情報への外部からの不正アクセスと同時に,内部からの情報漏洩が深刻な被害をもたらすことは,以前から指摘され続けてきたことです。それにもかかわらず,情報産業の中核企業の内部から情報が流出した今回の事件は,形骸化したセキュリティ対策の実態をさらけだしたことになりました。これは「情報社会の脆弱性」という言葉で片づけられることではありません。
 情報システムの基本的なセキュリティ機能として,ユーザーIDとパスワードによるユーザー認証が行われています。パスワード情報の漏洩による不正使用を防ぐために,パスワードに有効期限を設けて,3ヶ月あるいは6ヶ月ごとにパスワードを変更している企業が少なくありません。しかし,技術的に安全なはずだからといっても,本当に情報の安全保護が十分に行われていることにはなりません。以前,ある大企業の社員から聞いた話では,「パスワードを定期的に変更しているけれども,その都度,新しいパスワードを上司に届けることになっている」ということでした。部下が不在のときに,上司が代わって仕事をするのに必要な処置らしいのですが,首をかしげたくなる話です。冒頭のトラブルを起こした企業のパスワード管理もかなりずさんだったようです。
 大量の顧客情報が漏れたことによる被害はいろいろ考えられますが,顧客のメールアドレスが迷惑メールの配布に悪用される可能性があります。冒頭のトラブルでは,「情報が漏洩した顧客のメールアドレスを全部変更することは困難なので,顧客にはパスワードの変更だけを勧める」という記事が新聞にありましたが,迷惑メールの配布にはパスワードは関係ありません。こうしたトラブルの再発防止と問題解決には,経営者や責任者の倫理教育が必要です。

都丸敬介(2004.03.01)

 

なんでもマルチメディア(339):電気通信事業法

 電気通信事業の基本を決めている「電気通信事業法」の大幅な改正が,今年4月に施行されることになりました。電気通信事業法は昭和60年(1985年)に制定された後,何度か改正されましたが,比較的小さな変更でした。今回の改正では,従来の第一種電気通信事業と第二種電気通信事業の区分がなくなって一本化されます。
 従来は,電気通信事業に参入するとき,第一種は総務大臣の許可,特別第二種は登録,一般第二種は届出ということになっていましたが,改正後は,大規模な回線設備を設置する事業者は登録が必要ですが,その他は届出で済むことになりました。地方公共団体が光ファイバー・ケーブルを設置して地域の産業振興や住民サービスの改善に役立てるような場合は「営利を目的としない電気通信事業」として届出をすればよいということです。この場合の設備貸しを「卸電気通信役務」というようです。
 総務省は,今回の改正で利用者保護を強調しています。事業を休廃止するときは,そのことを利用者に周知することや,電気通信事業者およびその契約代理店はサービス契約締結時に利用者に対して料金やサービス内容などを説明することを義務づけています。ただし,多くの商品の前例をみると,この利用者保護ルールは形骸化しそうな気がします。
 1985年に電気通信事業法が制定されたときの第一種事業者は7社でしたが,2003年9月時点では418社に増えました。そして,第二種事業者は約11,650社に達したと報告されています。この法律が施行されて1年たった頃,「新しい法律によって短期間に数百の事業者が生まれたことは,前例がない画期的なことだ」と,当時の郵政省の幹部が胸を張って話していたことを思い出しました。今回の法律改正が,産業の発展にどのような影響を与えるのか興味深いことです。

都丸敬介(2004.02.22)

 

なんでもマルチメディア(338):無線LANのセキュリティ

 無線LANの性能向上と価格低下が進んだ結果、企業だけでなく個人でもこれを利用する人が増えています。無線LANの普及にともなって、セキュリティ問題がクローズアップされてきました。無線LANのセキュリティ問題は、携帯電話や移動体データ通信と共通することで、2種類に大別できま
す。第一は、盗聴あるいは傍受による情報漏洩で、第二は、システムや設備の不正使用です。不正使用の中には、他人になりすまして、迷惑メールを送ったりハッカー行為を行うことが含まれます。
 セキュリティの側面から見ると、通信ケーブルを使う有線通信と無線LANを含む無線通信には大きな違いがあります。有線通信の盗聴は法律で規制されているけれども、無線通信は合法的に傍受できることです。アナログ方式の第一世代携帯電話では、特別な技術を使わなくても他人の通話を傍受できることが社会的な問題になりました。そこで、第二世代以降は傍受しにくいディジタル方式になり、不用意な情報漏洩が大幅に減りました。しかし、ディジタル方式でも傍受した情報の内容を復元することは可能です。
 無線LANもディジタル通信技術を使っています。そして、無線LANの国際的な技術標準であるIEEE802.11規格には、不正アクセスを防ぐための利用者認証機能や、情報の暗号化機能が含まれています。ところが、これらの機能がどれだけ有効かということが問題になっています。この規格のセキュリティ機能は、その気になれば無効にできるというのです。一方では、IEEE802.11規格のセキュリティ機能を使いこなすには高度の知識とコストが必要であり、手軽に利用することが難しいという指摘もあります。
 どちらの指摘も間違ってはいません。肝心なことは、無線LANの利用目的や利用環境に応じて、どの程度のセキュリティ機能を用意すればよいかという判断です。無線LANに限らず、情報社会のセキュリティ問題には、過剰とも思える危機感と、まったくの無関心の両極端が見られます。必要以上に危機感をあおることを避けると同時に、無防備に対する警鐘を鳴らすことのバランスを考えることが大切です。

都丸敬介(2004.02.09)

 

なんでもマルチメディア(337):ブロードバンドの意味

 ブロードバンドという言葉が日常的に使われるようになってからかなりたちますが、依然としてその意味は曖昧です。日本の総務省通信部門に相当する米連邦通信委員会(FCC)が2003年末に発表した、米国のインターネットへの高速アクセス回線の普及状況の報告では、少なくとも片方向の通信速度が200kビット/秒以上のものを高速アクセス回線と定義したということです。200kビット/秒以上としたことの根拠を調べていませんが、米国ではCATV回線の利用者が高速インターネットアクセス利用者の60%を占めることから、CATV回線利用者を計上するために決めた便法と推測されます。
 ブロードバンドネットワーク時代の新サービスとして期待されている、音声、画像、および文字情報を統合するマルチメディア情報通信サービスの本格的な実現のためには、200kビット/秒では十分な速度とはいえません。たとえばテレビ放送並みの画像品質のマルチメディア情報を流すためには、今後数年間の技術進歩を考えても、ユーザー端末接続インタフェースで2〜3Mビット/秒が必要です。統計数字を格好よく見せるために本質的な意義を曖昧にすることは堕落に通じます。
 過日「ブロードバンドユーザーが急増しているので、日本のバックボーンネットワークのトラフィック容量が不足する」ということを担当大臣がテレビカメラの前で説明し、このことが新聞でも報じられまし
た。「現在のトラフィック量は40Gビット/秒で、近い将来80Gビット/秒に増えると見込まれるので、早急に対策を取らなければならない」という内容でした。すでに日本全国に設置されている光ファイバー・ バックボーンネットワークの通信容量ははるかに大きいので、何の話をしているのかと疑問をもちましたが、どうやら、40Gビット/秒というのはインターネット事業者(ISP)を相互接続するIX(インターネット・エクスチェンジ)と呼ぶ接続点を通過するトラフィック量のようです。この話は「新宿駅の利用者が急増しているから、全国の鉄道幹線の輸送能力を増強しなければならない」ということに相当します。
 米国も日本も何か変です。根拠が明確な長期ビジョンが求められます。

都丸敬介(2004.02.01)

 

なんでもマルチメディア(336):エジプトの飲食

 海外旅行から帰ると「食べ物はどうでしたか」という質問を受けることがよくあります。短期間の旅行では、地元の生活に根付いている食事や飲み物を深く知ることはできませんが、常にいくつかの新しい出会いがあります。過日エジプトを旅行して、 また少し知識が増えました。
 「エジプトはイスラム国家だから、酒類を飲むときは十分に気を付ける必要がある」という解説を見聞きします。成田〜カイロ間のエジプト航空機では、アルコール飲料の機内サービスは全くありませんでした。おかげで、長時間の飛行中にワインを飲み過ぎて頭が痛くなることもなく、すっきりした気分で目的地に到着できました。
 一方、エジプト国内では、泊まったホテルにはみな立派なバーがあり、昼食をとった全てのレストランで、ビールとワインを飲むことができました。以前、インドで昼食時にビールを注文したところ、「今日はドライデー(禁酒日)」なのでビールは出せません」といわれたことがあります。「その代わり、よく冷えた美味しい飲み物をおもちしましょう」といって、陶器のポットに入れたビールを出してくれました。同
行したインドの人はポットのビールを飲みませんでしたが、にやにやしていたことを思い出しました。エジプトでは昼間でも堂々とビールやワインを飲むことができます。空気が乾燥しているためか、ビールはさわやかで美味しかったです。値段は店によって違いますが、500ml程度の大きさで200円程度です。エジプト産のワインはかなり上等なものでも、フルボトル一本2,000円程度でした。
 食べ物では主食のナンが他の国のナンとは違っていました。インドやトルコなどのナンは、共通して厚さ1cmほどの平べったいものでしたが、エジプトではどの店でも、厚さ5cmくらいに膨れた中空のナンを出してくれました。これはちぎって間に具を挟むのに便利です。野菜料理、肉料理、魚料理のどれを挟んでもナンの適度の堅さと味によく合っていました。ガイドブックには、いろいろな名物料理の紹介がありますが、主食の味が食文化の基本だということを改めて認識しました。

都丸敬介(2004.01.26)

 

なんでもマルチメディア(335):エジプトの印象

一度は行きたいと思っていたエジプトに行って来ました。往復に大きな時間がかかるのでなかなかふんぎりがつかなかったのですが、2003年からエジプト航空が週に1便、成田〜カイロ間の直行便を運行するようになったので、これを利用することにしました。一番気候がよい時期に希望する時間を選べるのは隠居の特権です。直行便は、韓国を横断して北京から西進、天山山脈の北から、アラル海、カスピ海、トルコ、シリアを通過して地中海に入り、カイロに到着するというルートでした。
カイロではギザやサッカラのピラミッド、エジプト考古学博物館などを見ました。ルクソールの王家の谷ではいくつかの墓に入り、色鮮やかな壁画の規模の大きさと保存状態の良さに驚きました。また、ルクソール神殿やカルナック神殿の石造建築の重量感には圧倒されました。アブシンベル神殿では、ダムに沈むことから巨大な神殿を守るために移設した、現代の技術と努力に感激しました。
観光が最大産業の一つであるこの国では治安の維持と観光客の安全保護に力を入れていて、観光警察という組織があります。ホテルや遺跡、博物館など、どこに行っても空港並みの金属探知ゲートをくぐり、手持ちバッグの中を調べられましたが、近くのイスラエルやイラクの状況を全く感じることなく、ゆったりと落ち着いた旅を楽しむことができました。
4,000〜5,000以前の建造物を見ていると、現代の建造物は何年後まで残るのだろうかと考えてしまいます。情報通信分野の設備や機器の寿命が急速に短くなり、人類の知恵の成果の多くを博物館に収容することが難しくなってきました。たとえ博物館に保存されたとしても、それが数千年後に大量の観光客を呼び寄せるような魅力をもつとは考えられません。こんなことを考えていると、現代人が哀れに思えてきます。

都丸敬介(2004.01.18)

 

なんでもマルチメディア(334):翔年

 どこかの企業が募集した「定年」に代わる言葉として「翔年」が選ばれたということです。新しい人生に飛翔するという前向きの気持ちを持つのは素晴らしいことです。
 飛翔といえば航空機を利用する旅行を連想します。景気が一向に良くならないと言われ続けていますが、航空機や新幹線に乗ると、いつも多くの旅行者に出会います。
 私もときどき旅に出かけますが、そのたびに交通機関と情報システムが発達したことの有り難さを実感しています。それでも、予備知識にはない多くの新しい発見あるいは体験が旅先で生まれます。海外旅行に出かけるときは、一ヶ所に何日か滞在して、そこを拠点にして歩き回るようにしています。ホテルについて最初にすることは、現地の旅行会社が主催しているツアーのパンフレットを集めることで
す。そして、体調と天候を考えて行動計画を作ります。現地のツアーに参加することで、思いがけない素晴らしい旅を楽しんだことが何度もあります。
 ときにはタクシーをチャーターして、訪ねてみたい場所を回ることもあります。スコットランドのエジンバラで、ガイドブックに載っていたピーターラビットの里に行ったことがあります。チャーターしたタクシーの運転手さんは、この場所があることを知らなかったということで、おおいに喜ばれました。帰路、お礼にといって、セントアンドリュース・ゴルフクラブを案内してくれました。
 次はどこに行こうかと考えるときに頭に浮かぶのは、若いときに読んだ本や映画の舞台あるいは音楽です。まだ自由に旅に出る時間がなかった現役時代に、夢見て蓄積した情報を体現できることは幸せだと感じています。明日、エジプト旅行に出かけます。

都丸敬介(2004.01.04)